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INTERVIEW − 村田隆行

  • Interview:Kengo Nakamura

コロナ禍という状況でふたりとも
そういう想いだったのは必然だったんだろうなと。

━━アルバムのなかで、多重録音によるベースのみで構築された「Play Alone」、バッキングに徹した「Life Goes On」、ベースがリードをとる「Roots & The Style」という流れには、ベースの多彩な役割や表現方法が凝縮されていると思います。そのなかでも、特徴的なグリスや32分音符のリズム、プルを使ったアタッキーなメロディといった、いわゆる“マーカス節”が炸裂する「Roots & The Style」は、このアルバムのテーマを象徴するものでもありますよね。

 まさに。僕が一生懸命音楽を探していた時代って90年代前後になるんですけど、その頃の音楽って、いまだに自分のなかでキラキラしたもので。僕は中学の頃に鳴瀬喜博さんというベーシストを映像で観て、“ベースってカッコいいなぁ”と思いつつも、20歳頃まではギターを弾いていたんですね。そのなかで高校生の頃にはマーカス・ミラーさんの『キング・イズ・ゴーン』を聴いて、あのトーンや世界観にめちゃくちゃハマって。そこからベースを弾くようになって、いろんな経験もしていろんな表現ができるようになったとは思うんですけど、ベーシストとしての自分の根底には、やっぱりマーカスさんの音楽性があります。だからこの曲では、そのエッセンスを出しつつも、自分としてどういうアンサンブルを作っていけるかというところでした。実は当初は「Roots & The Style」を1曲目にしようと考えていたんですけど、いろんな人からもアドバイスされて、自分自身も迷っていた部分があって。というのも、熱心に僕の音楽を聴いてくれている人以外の、“村田ってどういうベーシストなの?”って軽く興味を持ってくれた人がApple Musicなんかでサラッとアルバムを聴いたときに、“ああ、マーカス・ミラーが好きなんだね、この人”で終わっちゃう懸念もあるなと。

━━ベース・ソロの最後では、音色も歪ませてステレオに分かれて畳みかける部分があります。これはいわゆるNY的なアプローチとはまた違いますよね。

 オクターヴのアップ・ダウンでステレオに振っています。これはI.T.Rのアルバムから継承されている、僕がサンズアンプを使えるようになったっていうところもありますね(笑)。僕みたいな、いわゆるニューヨーク系スタイルがそのまま正統派でいくと、テンポ100前後のグルーヴのなかでクールにスラップをやるのが一番の醍醐味みたいなところがあるんですけど、チョパレボを始め、例えばIKUOさんみたいなベーシストと一緒にやるようになって、それだけだと表現に物足りなさが出てきたんですよね。そこで、IKUOさんやヴィクター・ウッテンさんのテクニックを学んだことで、ちょっとハッタリが効くというか(笑)。

━━IKUOさんとの絡みで言うと、「Life Goes On」という曲は、I.T.Rのアルバム・タイトル『「Bass Life Goes On」~今こそI.T革命~』と関連があるのですか?

 これはまったくの偶然なんです。曲を作っていくなかで、“この曲はこういうタイトルにしよう”と思っていたら、I.T.Rの作業のなかでIKUOさんから“Life Goes On”っていう言葉が出てきて。正直、“わぁ!カブった!”って思ったんです(笑)。それで、こっちを変えようかなとも思ったんですけど、やっぱり、自分のここまでの人生とか、また、これから先にもつながっていくんだっていう想いがあって作ったものだし、このコロナ禍という状況でふたりともそういう想いだったのは必然だったんだろうなというところで、あえてそのままにしました。

━━「Life Goes On」のバッキングは、深くミュートを効かせた親指弾きでしょうか?

 イントロとかエンディングは指で弾いているんですけど、グルーヴに入ってからはピックで弾いています。以前是永さんから、“ピックで16のファンクとかやったらおもしろいんじゃないか”って言われて、ミュートしてのピック弾きにトライしていたんですよ。ピックをうまく使えると、打ち込みのピック・ベースのあの感じとも違う表現の幅が出ますよね。この曲では、アタックのエッセンスが指だと弱い気がしたのでピックで弾きました。今回、曲のポイントでピックはけっこう使っていますね。

━━「Fun Day」バッキングは、ロックっぽい粗さの特徴的なザラッとした音に感じましたが、これもピック弾きでしょうか?

 そうですね。あとは、ミュージックマンを使っていることも大きいと思います。今回は、ミュージックマンも、79年製のスティングレイと新しいスティングレイ・スペシャルの両方を使ったんですけど、「Fun Day」や「Taj Mahal’s Lunar Eclipse」のイントロの印象的なバッキングは、新しいスティングレイのほうが馴染みがよかったですね。「Taj Mahal’s Lunar Eclipse」は、最初は全篇79年のミュージックマンでやっていたんですけど、イントロのバッキングがなんか違うんだよなと思っていて、マスタリング前日に弾き直しました(笑)。79年だとイナタさとエグさがすごくて、曲中のキレッキレのビートの出し方には合うんですけど、わりと溶け込ませたいときには音色が整頓されているスティングレイ・スペシャルのほうがよかったんです。ミュージックマンとかフェンダーって、基本は変わらないものなんですけど、現代の楽器はそのなかでもちゃんと時代に合っているサウンドになっているというか。今風のエッセンスを入れたいなら、素直に今の楽器を使うのは重要なのかなって思いましたね。

━━「Fun Day」最後のギター・ソロとのかけ合いのベース・ソロは、ワウもかませつつ、カリカリのかなり特徴的な音ですね。

 ここは当初、ビート以外の音をラジオボイスっぽくしようと思ったんです。ベースは、ボスのPW-10(モデリング・ワウ)のドライブをちょっと入れて、さらにサンズアンプもそこまできつくなく歪ませて、強めのサチュレーションをかけているイメージにしています。フロント・ピックアップもちょっと絞っていますね。「Fun Day」自体は、天気のいい日曜日の穏やかなドライブ日和っていうイメージの曲なんですけど、そこからああいうセッション・タイムに持っていくときに音色的に普通にしたくないなって思ったんです。

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