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INTERVIEW – YUKKE[MUCC]
- Interview:Takayuki Murakami
- Photo:Miwa Tomita(Live)、Takashi Hoshino(Equipment)
時を超えて深化した、低音の流儀
2022年5月に結成25周年を迎えたMUCC。16枚目のフル作となった前作『新世界』のリリース(2022年6月)を皮切りに、アウトテイクをまとめたミニ作『新世界 別巻』のリリース、そして過去に発表された8枚のフル作を再現するライヴ・ツアー“Timeless”の開催と、約1年半にもおよぶ怒涛の“25周年イヤー”を駆け抜けてきた。そして25周年イヤーの締め括りとして12月28日リリースされるのが今作『Timeless』。往年の名曲たちの再録+新曲という内容で構成された本作からは、MUCCにおける25年の歴史、そして彼らの明るい未来を感じ取ることができるだろう。そして、MUCCの重厚なサウンドを支え続けてきたYUKKEは、今作をとおして進化し続けてきた自らの低音を“更新”し、新境地を示している。ベーシストとしての自身の現在地、そして今作で魅せた緻密なプレイ/音作りの裏側を語ってもらった。
“なぜこれまで持っていなかったんだろう”って思うくらい
プレベには色気と雰囲気を感じる。
━━2022年から2023年にかけて開催された、過去アルバムの再現ツアー“Timeless”では、各過去作の空気を感じながら制作された新曲が会場限定販売されたことも大きな話題を呼びました。“空気を感じながら曲を作る”というアイディアはどのように考案したのですか?
もともとこのツアーは、当時の曲だけで行なうつもりだったんですけど、逹瑯(vo)から、“当時の自分たちの表現力ではできなかったことも今ならできるし、例えば今の自分たちが『是空』(2003年)とか『朽木の灯』(2004年)のスパイスを入れた曲を作ったらおもしろいんじゃないかな?”という提案があったんです。それを聞いて俺もめちゃくちゃおもしろそうだと思ったし、あわせてツアーで販売しようということになりました。
━━音楽性ではなく、”空気感”というのが実にMUCCらしいです。そして12月28日にリリースされる新作『Timeless』には、“Timelessツアー”で披露された新曲6曲に加え、過去曲の新録が4曲、そしてYUKKEさん作曲の「死の産声」と逹瑯さん作曲の「Timeless」の計12曲が収録されています。
「死の産声」はdeadmanというバンドと2マン・ツアーを行なった際、“同じテーマを持つ曲をそれぞれが出したらおもしろいよね”という案が出たんです。ちょうどその頃、リハの空き時間とかにひとりで和音フレーズを弾いていたら、“これにメロディーが乗るな。よし、いつか曲にしよう”ってフレーズが出てきたんです。それがこの曲のイントロやAメロで弾いているフレーズで、そこから広げて曲を作ってみたら、わりといい雰囲気のものができました。過去のアルバムをモチーフとした新曲ではないけど、“Timelessツアー”の途中に作った曲なので、今作に入れることができてよかったと思います。
━━「死の産声」は、ハイ・ポジションでのコード・リフがとてもエモーショナルですし、歌などの邪魔をせずに世界観を作っていますね。
こういうアプローチは今まであまりやってこなかったんですよね。ベースがハイポジに行くことで、ギターもいつもとは違うアプローチができるだろうな、と思ったこともあって、そのまま生かすことにしました。ただ、あのフレーズを弾くためにベースのチューニングがすごく変則になっていて、2弦だけ1音半上げているんです。
━━えっ! 凄いことをされますね(笑)。ギタリストは開放弦を使いたくて変則チューニングにすることがたまにありますが、ベースではあまり聞いたことがありません。
俺も聞いたことがない(笑)。どうしても2弦の開放を使いたくて、いろいろやってみた結果この手法を採用したんです。もう弦がはち切れそうなテンションで弾きましたよ(笑)。曲調としてはMUCCが持っているダークでメロディアスな部分を押し出した印象ですね。
━━“ダーク”といっても陰鬱な雰囲気ではなく“美しい暗さ”という印象で、そこがここ10年くらいのMUCCらしいなと思いました。
その“美しい暗さ”というのは、20歳くらいの頃だとまだ表現できなくて、当時はドロドロとしたものになっていました。そこから経験と年齢を重ねることで表現できるようになったし、そこがオイシイところかなとは感じています。
━━「死の産声」を始め、『Timeless』に収録されている新曲には新機軸のものが多いですよね。今作の新曲で、特に印象の強い曲を挙げるとしたら?
「サイレン」かな。この曲は『カルマ』(2010年)と『シャングリラ』(2012年)の再現ライヴの際にリリースした曲なんですけど、この2作には“踊れる”ってテーマもあったんです。だから俺は4つ打ち系の曲にシンセ・ドラムとかを入れて、さらに『シャングリラ』が持っている雰囲気を自分なりに合わせて曲を作ったんですけど、そうではないところでリーダー(ミヤ/g)が作ってきたのがこの曲だった。こういう踊れる曲が『カルマ』と『シャングリラ』に絡み合うことで、すごく映えると思ったし、“リーダーは一個、二個先まで考えているんだ、すげぇ”と思って、デモを聴いた瞬間、“もう、この曲でいいと思う”と言いました(笑)。
━━この曲の重厚なベース・サウンドはインパクトがありますよね。
ベースに関しては、最初に聴いた瞬間から“フェンダーのプレベで弾きたいな”ってイメージがありました。あとユニゾンとかのパートは隙間隙間の空白がすごく大事になってくるので、そこを意識しつつ、ピッチ・シフターを使ってオクターヴ下の音を足して弾いてます。
━━それはおもしろい手法ですね!
それを利用してめちゃめちゃ歪ませるというアプローチです。わかりやすいのはギター・ソロのあとにベースが動くセクションですね。高音弦のハイポジに行くんですけど、オクターヴ下のニュアンスも聴こえてくると思います。
━━“ローの溜まり”がすごくカッコいいと思いましたが、オクターヴ下を足しているというのは盲点でした。もうひとつ、なぜこの曲はプレベだなと思ったのですか?
プレベを使い始めてまだ2~3年ですけど、“なぜこれまで持っていなかったんだろう”って思うくらい、プレベには色気と雰囲気を感じるんです。だから“ちょっと変わったアプローチをしたい”と思ったら、普通にジャズベを弾くよりも、プレベで音色を変えてみたくなる。俺はプレベのほうが遊べるような気がするんですよ。もちろんアンプ直で勢いよく弾いても雰囲気があってすごく良いですけど、そのうえでプレベはトリッキーなことにも対応できるんです。素直だし、いろいろなエフェクターの乗りもいいから、俺のなかではすごく扱いやすい楽器なんですよね。
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