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INTERVIEW – ヴィクトリア・デ・アンジェリス[マネスキン]
- Interview:Shutaro Tsujimoto
- Translation:Mariko Kawahara
- Photo(Live):Yoshie Tominaga
- Photo(Artist):Francis Delacroix
- Photo(Bass):Takashi Yashima
リフで世界を揺らすイタリアの新星が語る
ベーシストとしてのルーツ
今、イタリア出身の4人組ロック・バンド、マネスキンが世界中で旋風を巻き起こしている。2億人近くが視聴した“ユーロビジョン・ソング・コンテスト2021”での優勝後、イタリア本国を越えて世界中のストリーミング・チャートを席巻。1999年〜2001年生まれの若き彼らは現在、地球上で最も再生されているロック・バンドと言えるだろう。ロック・リスナーのみならず、普段はヒップホップやポップスを嗜むキッズたちをも虜にする強力なグルーヴのウネりをベース・リフの反復によって生み出し、アグレッシブにリズムを支えているのがベーシストのヴィクトリア・デ・アンジェリスだ。豊洲PITでの初来日公演の翌日に、音楽ルーツからベース・ラインの発想法、プレイヤーとしての哲学までじっくり話を聞いた。
リズミックかつメロディックなベース・ラインに惹かれていて、ロイヤル・ブラッドのようなバンドが好きだった。
──マネスキンにとって日本での初ステージが昨夜豊洲PITで行なわれましたが、いかがでしたか?
素晴らしかったし、あれほどのエネルギーは期待していなかった。日本の人たちは“ライヴの最中おとなしい”っていろんな人に言われてたけど、丸っきりそうじゃなかったね! エネルギーに溢れていたし、私たちもオーディエンスとの深い絆を感じることができて、すごく楽しめたよ。
──本誌初登場ということで、まずはベースを始めたきっかけについて教えてもらえますか?
ベースを始めたのは11歳ぐらい。最初はエレキ・ギターで8歳の頃から弾いていたけど、2〜3年経ってからベースに持ち替えることになって。初めてリハーサル・スタジオで大きなベース・アンプを鳴らしたとき、そのグルーヴや低音にすごく感動したことを今でも覚えている。かなり若い頃からバンドをやっていたから、たくさんのバンドでベースを弾いてきたんだよね。
──当時ベースのどんなところに惹かれたのか、もう少し詳しく教えてもらえますか?
ギターも魅力的な楽器だけど、私はベースでグルーヴやリズムを刻むほうが好きだった。ギターを始めた頃にニルヴァーナの「Come As You Are」を学ぼうとしたときも、私は自然とギター・フレーズではなくてベース・フレーズのほうを弾いていて(笑)。最初はひとりでエレキ・ギターを弾いていたんだけど、9歳で音楽学校に通いだしてからはクラシック・ギターをやることになり……でもそっちは全然好きになれなかった。当時はまだ子どもだったし無理矢理やらされたこともあって、ギターに対する印象がちょっと悪くなっちゃってね。でも学校の発表会に出ることになったときに、当時の先生に“ベースを弾いてみたら?”と言われてベースを手に取ることになり、そこからはとても楽しかった。私にはベース・リフを弾くほうが合っていたし、当時からリズミックかつメロディックなベース・ラインに惹かれていみたいで、ロイヤル・ブラッドのようなベースが中心にあるバンドが好きだったから。
──ベースはどのように学んでいきましたか?
最初の2年間は友達に教わっていたから、けっこう自由にやっていた(笑)。でも、もっと“お勉強的なもの”となると理論を学ぶ必要があったし、好きでもない曲を弾かないといけなくなって、私にはそれが自然なことに思えなかった。演奏は情熱に駆り立てられて取り組むべきだと思っていたし、そのうえでテクニックを磨くことは必要だけど、最初から楽器のメソッドを勉強的に詰め込まれるのは正しいアプローチではないと思ったから。私は音楽を楽しみたかったし、バンドで演奏したかった。音楽学校の先生には、“君の手はベースを弾いてしまったことでおかしなことになってしまったから、ベースは辞めるべきだ。でないと、正しいフォームでクラシック・ギターを弾けなくなる”とか言われていたけど(笑)。でも私はもっと直感的なことをやりたかった。
──ベースを学ぶなかで、どのようなベーシストに影響を受けてきましたか?
アークティック・モンキーズのニック・オマリーが大好き。彼はリズミックだけれどもメロディックなリフをよく弾いていて、それは私も目指しているところ。私たちの楽器陣は3人だけだから、メロディックなパートを担っているのはベースとギターだけ。だから私はドラムと一緒になってグルーヴを出すパートと、ギターのようにメロディックに弾くパートを交互にやらないといけない。そういうのもあって、ニック・オマリーに影響を受けていることは間違いないと思う。それから、さっきも挙げたけど大好きなロイヤル・ブラッドのマイク・カーのプレイは素晴らしいし、トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマスももちろん好き。キム・ゴードンにもすごくインスパイアされた。もちろん、彼女の音楽はノイズ系だからタイプはまったく違うけど、彼女を観てあのアティチュードにすごくインスパイアされたところがある。あれほどのパワーを発する女性のベーシストに触れたことは、私にとっては大切なことだった。あと、フリートウッド・マックのベース・ラインも好き。いろんなベーシストからいろんなインスピレーションを得たいと思ってるけど、スラップみたいな超絶テクニックは私の好みじゃないかな(笑)。私はもうちょっとパンクっぽい、ベース・リフものから影響を受けている。
──マネスキンの音楽は、ギター・ロックの伝統的なスタイルを土台にしながらも、そこにラップ・スタイルのヴォーカルが乗っていたり、ロックにとどまらないジャンルからの影響を感じます。ライヴではブリトニー・スピアーズのカバーもしていますね。
私は常にロックやパンクが好きで、パブリック・イメージ・リミテッド、ザ・ストゥージズ、デヴィッド・ボウイ、ニルヴァーナ、ブロンディ、ロキシー・ミュージックみたいな、往年のビッグなバンドを聴いて育った。そして自分でも楽器を始めると、もっといろんなジャンルの音楽を聴くようになって、ストロークス、アークティック・モンキーズとか……あとはニューヨーク・ドールズみたいなアイドルにも、レッド・ツェッペリンのようなレジェンドからも影響を受けた。でもマネスキンはメンバーごとに音楽の趣向があるから、いろんなものがミックスされていると思う。私とトーマス(ラッジ/g)はロックが好きだし、イーサン(トルキオ/d)とダミアーノ(デイヴィッド/vo)はポップやレゲエやファンキーなラップのほうが好きなんじゃないかな。だからこそ、このバンドではポップでキャッチーなメロディに対して楽器陣がヘヴィな演奏をすることも全然珍しいことじゃないんだと思う。
──イタリアのポップ・ミュージックからもインスパイアされていますか?
それはあまりないと思う。でも私は、イタリアのアフターアワーズ(Afterhours)というバンドが大好き。彼らを知ったのは大人になってからだけど、素晴らしいバンドで、彼らはグランジやヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようなバンドにインスパイアされているの。イタリアではロック・シーンはあまり大きくないから、私が聴いていたのはほとんど両親が教えてくれた海外のバンドだった。楽器を弾き始めてからはYouTubeを使って自分で新しいバンドを探しに行くようになったけどね。