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    ジャズマンがインディロックを弾く理由 | ダリル・ジョンズ(マック・デマルコ band)来日インタビュー【後篇 & 使用機材】

    • 取材:辻本秀太郎
    • 通訳:川原真理子
    • 撮影:Yuki Kikuchi

    インタビュー前篇はこちら

    僕はクールに着飾った音楽オタクじゃない普通の人たちにウケたいんだ。

     多くはなかったね。当時はマック・デマルコを好きなジャズ人間は間違いなく僕だけだと思っていた。ジャズの連中にインディものを聴かせると、“お前はベースがそんなにうまいのに、なんでそんな初歩的な音楽をやっているんだ?”って言われたよ。今はジャズ・ミュージシャンでもテープ・マシンでレコーディングする人が増えたけど、10年前は僕と友達ふたりくらいしかいなかったんだ。

     大事なのは、僕は自分のテクニックを反映させつつ、キャッチーな音楽を作りたいってことなんだ。70年代には素晴らしいテクニックを持ったミュージシャンがポップ・ミュージックに貢献していたけど、テクノロジーが進歩したことで90年代にはその腕前がすたれてしまった。そうしてジャズ・ミュージシャンはジャズしかやらなくなり、ほかのミュージシャンのために音楽を作るようになってしまった。 

     でもそれって何の意味がある? テクニカルなこととキャッチーであることは相容れないわけじゃない。だから僕は、ミュージシャンでない人たちにアピールするキャッチーな音楽を作ることはダサくないってことを、ジャズ・キッズに働きかけたいんだ。

     このバンドには間違いなくそういう感じがあるね。ジョニ・ミッチェルの時代、彼女は最高のミュージシャンをそろえて曲をプレイし、膨らませていた。僕たちはそこまで膨らませていなくて、最終的には曲のためになることをやって抑えてはいるけど、ジャコ・パストリアスとジョニ・ミッチェルはいい例だよ。

     ほかに挙げるとしたらザ・ポリスかな。彼らは最高の例のひとつだ。ジャズではないけどプログレッシブだし、テクニックの世界に属している。スチュワート・コープランド(d)はプログ・バンドにいたし、スティングはポップだけどジャズっぽくするためのヒップなコードを知っていた。アンディ・サマーズ(g)は大のジャズ・ファンだからジャズの要素が多い。素晴らしいテクニカルなミュージシャンにもポップが作れることの一番の例だよ。

     現代で言えば、LAのルイス・コールかな。インディではないけど、ジャズとのクロスオーヴァーに多大な影響を与えた人だ。彼の音楽はテクニカルでありながら、ダブステップやストレートなポップもあるから。でも最終的に、僕はクールに着飾った音楽オタクじゃない普通の人たちにウケたいんだ。それが本当の意味でのクロスオーヴァーじゃないかな。ミュージシャンだけのためにプレイするのは意味がないと思っているよ。

     2019年にリリースしようとしたんだけど、曲を集めてみたら“なんてこった! 自分が何をやっているのかわからない!”と思ってしまったんだ。どんなことでも10,000時間かければ習得できると思っていたんだろうね。音楽そのものというより、ミキシングやレコーディングのサウンドをもっと良くしたくて、いろいろ試したかったんだ。車のなかで聴いてみたら“これはもうちょっと時間がかかる。やり方をちゃんと突き止めないと”って思ったんだよ。

     今ならもっと早くリリースできると思う。僕の音楽バックグラウンドは競争意識がとても高かったからね。インディの人だったら“今あるものをリリースしよう”と割り切って、それとともに成長していくんだろうけど。あんなに時間をかけるのはもう二度としないよ。やり過ぎだった。でも、その甲斐はあったと思うな。

    僕は抜けのいい音にしたいんだ。
    こもった音にはしたくない。

     メインは昔からフレットレスを使っている。1年ほど前にマック・デマルコと車に乗っていたときに、彼が“フェンダーに連絡しよう”と言い出したんだ。“ダリルがベースをほしがっているんで、送ってくれる?”って言ったら、快く1本送ってくれたんだよ。“ピカソ”と命名した新品で、改造もしていない。サステインをもっと効かせられたらとは思うけど、うまく弾きこなしているし、弦もいろいろ試しているところだね。ちなみに弦のメーカーは覚えていないな。2種類ぐらい混ざっていると思う。

    本公演でメインで使用したフレットレスのフェンダー・ジャズ・ベース。

     それ以外にも、10歳の頃から使っているスクワイヤーのフレットレス・ベースはいまだにレコーディングでよく使っている。あと、最近アイバニーズの青いヘッドレスの5弦フレットレスを買ったばかりで、これも最近のレコーディングで使っている。アイバニーズのフレットレスはもう1本、サンバーストの4弦を持っていて、スタンリー・クラークみたいな超鼻にかかった抜けのいい細い音が出るからとても気に入っているよ。ここ2〜3年で使っているのはこのあたりだね。でも、肝心なのはベースじゃない。プレイヤーなんだ。ひどいベースでいい音を出すこともできるし、いいベースでも使い方を知らなければひどい音になってしまうからね。

     本当に? 音が抜けていないんじゃないかと心配していたから、嬉しいよ。低周波数は高周波数ほど指向性がないから、抜けを良くするためにはけっこうな努力が必要なんだ。特にウッド・ベースの世界では、ジャズのライヴで観るお気に入りのベーシストの多くは、音が全然抜けていない。あんなにデカいものをギグに持ってきているのに、音が聞こえなかったら悲しいじゃないか。だから僕は抜けのいい音にしたいんだ。こもった音にはしたくないからね。

     セットの半分はジャコ・パストリアスっぽいアプローチで、リア・ピックアップをオンにした指弾き。残りの半分はポール・マッカートニーっぽく、フロント・ピックアップを全開にして手のひらでミュートさせたピック弾きだ。「Salad Days」みたいなギター中心のロック・ソングではフロント・ピックアップを全開にしているし、ファンキーな曲ではリア・ピックアップを全開にしているよ。ちなみにベース用のピックは使わない。すごく強くあてるから、薄いギター用のピックのほうがしなりやすくていいんだ。

     いや、ラウンド・ワウンドだ。“フレットレスでラウンド・ワウンドを使うとネックが削れる”と言う人もいるけど、ジャコ・パストリアスも使っていたからね。でも最近彼のインタビューを聞いたら、ネックが削れるのがわかっていたから、ギグのためにとっておいてフレットレスでは練習しなかったらしいんだ。確かにネックは削れるけど、僕はブライトな音が好きなんだよ。

     そうだね。しばらく手を痛めていたからアップライトを使っていなかったんだけど、これからはもっと弾こうと思っている。自分のアルバムでも「Palermo」という曲で超DIなアップライトを使っているよ。僕はパット・メセニーの『80/81』(1980年)が大好きなんだ。僕のヒーローであるチャーリー・ヘイデンが参加していて、フォーク/ジャズっぽい音を出している。あと、マイケル・ブレッカーの『Michael Brecker』(1987年)にもチャーリー・ヘイデンとドラム・ヒーローのジャック・ディジョネットが参加しているね。ああいう、アップライトのガット弦を使ったポップなジャズ・サウンドを、僕の音楽にもっと取り入れたいんだよ。

     僕はどちらかというとエレキ・ベースに移行したアップライト・プレイヤーだから、ちゃんとした練習はしばらくしていないんだ。でも言えるのは、エレキ・ベースを弾くときはすべてを美しいサウンドにするよう心がけているってことだね。ベースはベースのゾーンに留まりがちだけど、ジャコ・パストリアスが言ったように“メロディを覚えて、ベーシストであることを忘れること”だ。音楽を作るんだよ。エクササイズではないけど、僕はフレットレスが大好きなのはヴィブラートをかけられるからだ。コマーシャルでメロディが聞こえてきたら、僕はそれをコピーできる。人間の声のような音を出したくてヴィブラートをかけたりする。僕はそういうことに取り組んできたよ。

    アンプ・ヘッドは、マークベース製Little Mark 800とサブ用にアギュラー製Tone Hammer 500をセット。キャビネットはレンタルのアンペグ製(4×12インチ)を使用していた。“この1年間でものすごい数のライヴをやってきて、マークベースのヘッドが一番好きだってことがわかったんだ。アンペグはもっとヴィンテージな雰囲気だけど、マークベースはずっとクリーンな感じで、僕はこっちが良いんだ”
    足下にはギター用のマルチ・エフェクター、ボス製ME-50をセット。“小さめのME-20を使うこともあるね。高品質なペダルというわけじゃないけど、大好きなんだ。僕はペダルを山ほどつなぐより、マルチ・エフェクターをひとつ使うのが好きなんだ。レコーディングでも使うし、ギターでも使っている。このバンドではME-50の前にボスのGE-7(グラフィック・イコライザー)を置いている。800Hzの帯域を15dbまで上げて全開にすることで、すごく鼻にかかった抜けのいい音にしているんだ”。

    PICKUP DISCS

    ダリル・ジョンズ『Daryl Johns』
    (2024年)

    “ベースを弾きまくっているわけじゃなくて、あくまでパートを弾いているだけだけど、ドラムとベースの絡み方がすごくいいと思う。ちなみに僕のアルバムはパット・メセニーにものすごくインスパイアされているんだ”。

    パット・メセニー『Side-Eye III+』
    (2026年)

    “弾いているのはアップライト・ベースだ。パットは僕にとって最大のヒーローのひとりだから超誇りに思っているし、とってもハッピーだ。友達のクリス・フィッシュマン(k)も参加していて、今度パットと一緒にツアーに出る予定なんだよ”。

    メイシー・グレイ『Stripped』
    (2016年)

    “彼女の曲をアコースティックでやったんだ。ブルックリンの教会でレコーディングされたんだけど、とてもエコーが効いたナチュラルなサウンドで、僕のアップライトの音を見事にとらえていて誇りに思っているよ”。

    イマニュエル・ウィルキンス『The 7th Hand』
    (2022年)

    僕は最初の2枚に参加している。1弦にガット弦を張った影響もあってか、2枚目のほうがうまくやれた気がする。当時、僕たちはアンブローズ・アキンムシーレ・クインテットに憧れていた。今でも大好きな存在だ。そして今では、僕より10歳も若いキッズたちがイマニュエルのバンドを同じように見ている。それを誇りに思っているよ。

    Information
    ダリル・ジョンズ(Daryl Johns)
    Instagram

    マック・デマルコ(Mac Demarco)
    HP Instagram

    ◎ベース・マガジン2026年5月号にも掲載!

    ダリル・ジョンズのインタビュー全文は2026年5月号にも掲載されています。フリーが表紙の5月号の詳細は以下から!

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