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BM DISC REVIEW – BASSMAN’S LIBRARY – 2023 August
2023年8月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。
『Don’t waste my YOUTH』WENDY
ロックンロールの魅力をストレートに伝える、名刺代わりの一作
若干18〜20歳のメンバーで結成された4人組のメジャー1st作。古き良き70年代のクラシック・ロックを思わせる、雰囲気充分の10曲が並ぶ。全曲英詞ということもあり、指摘されなければ2023年にリリースされた日本のバンドの作品とは思わないだろう。奇を衒うより、良いメロディ、良いリフをシンプルかつストレートに聴かせる楽曲が揃っており、アッパー・チューン、グルーヴィなヘヴィ・ソング、美しいバラードなど、曲によってスタイルは違えど、どれもガツンとロックンロールの魅力を伝えてくれる。シーンに自らの名を売り出す名刺としては、文句のない一作と言える。太く温かみのあるサウンドで曲を支えるベース・ラインは、決して派手さはないものの骨太で、時折聴かせるオブリガードなど、ハッとさせるようなフレーズが顔を見せる。ロック然としたサウンドがバンド・シーンの潮流から外れつつある昨今では、彼らはその逆をいくスタイルなのかもしれないが、その流れを捻じ曲げる“反逆児”となってほしい。(辻井恵)
◎作品情報
『Don’t waste my YOUTH』
WENDY
ビクター/ VICL-65870
発売中 ¥3,300 全10曲
◎参加ミュージシャン
【Johnny Vincent(b)】Skye McKenzie(vo,g)、Paul(g)、Sena(d)
『大人の涙』マカロニえんぴつ
シンプルと思わせて奥深い、楽曲を聴かせるプレイ
サウンドがより自由でジャンルレスとなったメジャー2ndフル・アルバム。彼らの特徴を挙げる際はヴォーカルや歌詞が注目されがちだが、本作を聴くとベースもまたバンドのアイデンティティを担う重要な要素だと強く思う。⑥のコード弾きや⑪のスラップといった奏法を駆使するなど、多様な音楽性に寄り添って高野賢也のプレイもさまざまな表情を見せているが、音づかいは基本シンプル。そのため入り組んだアンサンブルのなかでも歌やほかのパートが引き立っている。一方で、音価を細かくしたり半音や経過音を入れたりすることでフレーズが単調にならず、かつ楽曲を躍動させている。また、①②④⑫などでは対旋律のようなベース・ラインで歌メロを引き立てる場面も。高野のフレージングには楽曲を第一に聴かせたいという意志が常に感じられるが、決してベースが一歩引いているわけではない。粒立ちの良い音色が低音を際立たせ、それが楽曲にノリを生み、聴き手を没入させる。素朴と思わせて作り込まれた高野のプレイ。ベースを意識して聴けば聴くほど、その奥深さに唸る。(神保未来)
◎作品情報
『大人の涙』
マカロニえんぴつ
トイズファクトリー/TFCC-81042
発売中 ¥3,300 全13曲
◎参加ミュージシャン
【高野 賢也(b,cho)】はっとり(vo,g)、田辺 由明(g,cho)、長谷川 大喜(k,cho)
『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』Helsinki Lambda Club
結成10周年イヤーに送る、極彩色の低音世界
ヴァンパイア・ウィークエンドから賛辞を送られるなど、海外からも支持を集める3人組が結成10周年イヤーに放った3rd作。冒頭から、爆破寸前のボムのごとく転げ回るファズ・ベースが耳福な①、フィッシュマンズの柏原譲を彷彿するダビーでタイトな低音がオリエンタルなウワモノと交わり絶品の無国籍感を演出する②と、ベース・プレイの妙に耳を奪われる。基本はインディ・ロックのマナーで聴かせながらも、終盤の饒舌に駆け回るリード・ベースがまさかのL’Arc〜en〜Cielを彷彿させる③や、往年のソウルを思わせるフラット・ワウンド弦的な温もりのあるトーンを聴かせつつ音響処理は現代的でウーファーも揺らす低音の設計に痺れる⑥⑨など、決して“オルタナティブ・ロック”の射程に収まらない発想と精緻なアレンジも見事だ。近年勢いのあるUKポスト・パンク勢とも共振する⑪は7分超えの大作。ストイックなリフを2分半反復したのち、解放され、ラストではハイ・ポジションを自由に駆け回るベースが聴き手にもたらすカタルシスも極上。(辻本秀太郎)
◎作品情報
『ヘルシンキラムダクラブへようこそ』
Helsinki Lambda Club
UK.PROJECT/HAMZ-021
発売中 ¥2,444 全11曲
◎参加ミュージシャン
【稲葉航大(b)】橋本薫(vo,g)、熊谷太起(g)