NOTES

2023年7月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』ASIAN KUNG-FU GENERATION

新曲5曲を加えて江ノ電全15駅を表現した完全版!

 名盤『サーフ ブンガク カマクラ』(2008年)の再録10曲に新曲5曲を加えた“完全版”。ロックンロールが香るナンバーを軸に軽やかに疾走する①やクールな平歌と穏やかなサビを融合させた②、エモーショナルな楽曲に知的な変拍子のセクションを入れ込んだ⑦、キレのいいシャッフル・ビートが心地良い⑩、アコギをフィーチャーした⑮など、彼らのさまざまな表情を味わえる一作。多彩な曲調やキャッチーなメロディーなどを生かし、15曲を一気に聴けるアルバムに仕上げた手腕が光る。コンセプチュアルな作品でありながら大がかりではなく、ストレートなバンド・サウンドで夏や海の情景、感情などを表現していることも見逃せない。またベースも楽曲に寄り添った幅広さを見せており、ルート弾きでもドライブ感に溢れた③、それに対して弾力感のある⑪、曲中でのソリッド/しなやかな演奏の対比が印象的な⑦、無機質なドラムと流麗なベースの取り合わせを生かした⑨など、細やかなグルーヴの使い分けは実に見事。グルーヴで楽曲を支配するベースの魅力を全篇で味わえる。(村上孝之)

◎作品情報
『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』
ASIAN KUNG-FU GENERATION
キューン/KSCL-3452(通常盤)
発売中 ¥3,300 全15曲

参加ミュージシャン
【山田貴洋(b)】後藤正文 (vo)、喜多建介(g)、伊地知潔(d)

『W』Gacharic Spin

楽曲の土台にも花形にもなれる多彩なベース・プレイ

 レーベル移籍第一弾フル・アルバムとなった今作。タイトルの“W”が意味するものは、“誰もが持っている二面性”。バンドをセルフ・プロデュースしていくうえでの新たな挑戦の意思が、随所に見受けられる作品となっている。シリアスなテーマを爆発的な演奏で表現するリード曲①を筆頭に、②③と彼女たちらしさ全開の超絶技巧を詰め込んだプレイが続いていく。一転、今までにはなかったメロディックなテイストで聴かせる④や⑥が、彼女たちの楽曲の幅広さを物語る。Gacharic Spinのこれまでの歴史を楽曲に落とし込んだという⑨では、ヘヴィなイントロから一転、ワルツを刻むパートやキャッチーなメロディ・ラインなど、楽曲のテーマとリンクした激しい展開が繰り広げられていく。ヴォーカル・メロディーに寄り添うように奏でられるベース・ラインが美しい⑦、アルバム最終曲でさらに激しさを増す攻撃的なベース・プレイに圧倒されること必至の⑩など、全曲通してF チョッパーKOGAの多彩なベース・プレイが存分に楽しめる、聴きごたえのある一枚だ。(水尾公弥)

◎作品情報
『W』
Gacharic Spin
日本クラウン/CRCP-40660(通常盤)
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【F チョッパー KOGA(b)】TOMO-ZO(g)、はな(d)、オレオレオナ(k)、アンジェリーナ1/3(mic performer)、yuri(d)

『Love me tender』Uniolla

正統派ポップ・ロックを押し上げるオーガニックなボトム

 LOVE PSYCHEDELICOのKUMI、PLAGUES/Mellowheadの深沼元昭、Jake stone garageの岩中英明に、TRICERATOPSの林幸治がボトムを担うUniolla(ユニオラ)は、オーセンティックなポップ・ロックをまっすぐシンプルに奏でる。“大人のガレージ・バンド”を標榜するとおり、その音楽は情熱と冷静を兼ね備えたアンサンブルが特徴で、聴き手にすがすがしい飛翔感を与えてくれる。デビュー盤から1年半を経て完成したこの2ndアルバムは、いつになく純なKUMIの歌唱とオルタナティブな深沼のギターもさることながら、真下から全体を高みへ押し上げるようなベースがとても良い。軽快にビートを刻む②、曲想を雄大に包む③⑧、コーラスを効かせた⑤あたりが印象的だが、一番の妙味は音価コントロール&ウネリを駆使した旋律の援護射撃にあって、それがつかさどるオーガニックなグルーヴはどっしりと揺るぎない。楽器の鳴りやフレーズのニュアンスまで生々しく伝える高解像度の録り音も、本誌読者へのお薦めポイントとして挙げたい。(田坂圭)

◎作品情報
『Love me tender』
Uniolla
スピードスター/VICL-65838
発売中 ¥3,520 全10曲

参加ミュージシャン
林幸治(b)】KUMI(vo)、深沼元昭(g,k)、岩中英明(d)

『ザ・バラード・オブ・ダーレン』ブラー

色褪せぬサウンドと現代に鳴らすUKインディの礎

 ブラーというバンドに対しての解釈は人それぞれ異なると思う。それは作品ごとにさまざまな音楽性・表情を提示し続けるからだ。90年代のUKインディ/オルタナ、ブリット・ポップにおける最重要バンドでありながら、現代でも彼らを追う後続たちが多くいるのは、幾度目かの活動休止を経て発表された、8年ぶりのオリジナル作品=今作での圧倒的な完成度が何よりの根拠だ。アレックス・ジェームスの低音は、極めてシンプルでありながらも中毒性があり、②⑩での図太い歪みを感じる刺激的な“アグレッシブさ”はリスナーの五感に突き刺さる。③での音価を巧みにコントロールしつつ、隙間に印象的なオブリを入れ込む姿勢や、ロング・トーンで楽曲を叙情的に彩る⑤、ドラム・ビートと絡み合い、楽曲にハネ感とノリを寄与する⑪など、ロック・バンドの存在が希薄になった昨今だからこそ注目すべき低音の在り方だ。8月には『SUMMER SONIC 2023』へ出演する彼ら。9年ぶりの来日公演は、往年の名曲はもちろん、最新作からも披露されるだろう。ステージから感じられる彼らの“現在地”はいかに。(加納幸児)

◎作品情報
ザ・バラード・オブ・ダーレン
ブラー
ワーナー/WPCR-18616
発売中 ¥3,190 全13曲

参加ミュージシャン
【アレックス・ジェームス(b)】デーモン・アルバーン(vo)、グレアム・コクソン(g)、デイヴ・ロウントゥリー(d)

『ヒストリー』ボカンテ

国際的スーパーグループが紡ぐ多彩なグルーヴ

 スナーキー・パピーを率いるマイケル・リーグが2016年に結成し、グアドループ、アメリカ、日本、ガーナ、スペインといった4大陸5ヵ国出身の国際色豊かなメンバー・ラインナップで、ブルース、アフリカ音楽、アラブ音楽、グアドループの伝統音楽であるグー・カなど、世界の多彩なグルーヴを融合させてきたユニットによる3rdアルバム。本作では “ベース、ドラム、メロディを同時に演奏しているような感覚になるんだ”とマイケルが語る、モロッコのグワナ音楽で知られる3弦楽器“グエンブリ”によるリフをはじめとする多彩な低音楽器による渦巻くようなグルーヴと、それを取り巻くキメ細やかなパーカッションのグルーヴ、複層的なコーラス・ワークに圧倒される。特に、①⑦⑨で聴けるような、エレキ・ベースや中近東の弦楽器“ウード”とのユニゾンによる骨太フレーズでストーナー・ロックのごとく楽曲を牽引するさまは圧巻だ。ベースと打楽器の位置関係や、低音楽器の音色や音価のバリエーションなど、西洋音楽的な発想に縛られない低音アプローチについての示唆に溢れる一作。(辻本秀太郎)

◎作品情報
『ヒストリー』
ボカンテ
ウルトラ・ヴァイヴ/CDRW-244J
発売中 ¥2,640 全9曲

参加ミュージシャン
【マイケル・リーグ(b,k,etc)】ボブ・ランゼッティ(g)、クリス・マックイーン(g)、ジェームイー・ハダド(perc)、小川慶太(d)、マリカ・ティロリエン(vo)

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