NOTES

2023年3月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『今の二人をお互いが見てる』aiko

知的でエモーショナル、抑制的でスウィンギン

 須長和広というベーシストが表舞台に登場したのは2006年頃。クラブ・ジャズが隆盛を極めるなか、クオシモードの一員としてグルーヴする姿は鮮烈に輝いていた。一方でサポート・ワークも当時から行なっていて、特にaikoとの共演歴は豊富。デビュー25年を経た新作も、13曲中9曲をクール&スタイリッシュな“須長節”が彩る。高低自在に旋律を操るaikoの音楽力あってこそとは言え、知的でいてエモーショナル、抑制的でいてスウィンギンなその低音が歌を高みへ導いていることは確か。セッションマンとしても引く手あまたとなった今、須長のプレイはかつてとはまた違う輝きを放っている。なお、須藤がボトムを担う⑥、美久月の⑫、隅倉の⑬もそれぞれ味わい深い。(田坂圭)

◎作品情報
今の二人をお互いが見てる
aiko
ポニーキャニオン/PCCA-15009(初回限定仕様盤A)
発売中 ¥5,830 全13曲

参加ミュージシャン
【須長和広/須藤優/美久月千晴/隅倉弘至(b)】aiko(vo)、浜口高知/設楽博臣(g)、佐野康夫/神谷洵平/玉田豊夢(d)、島田昌典(k)、他

『シンフィル』蓮沼執太フィル

新しい合奏の在り方を提示する複雑と普遍のフィル・サウンド

 “回復”、“共在”をコンセプトに制作された蓮沼執太フィル5年ぶりのアルバム。各セクションが同じ目線で音を響かせる、ヒエラルキーのないアンサンブルの新しい在り方を問う意欲作だ。⑥のユニゾンで鳴らされるフレーズから一転、ハイ・ポジションを駆け巡る解放的なベース・プレイが聴こえたかと思えば、⑦のスイッチするBPMに合わせ自在に伸び縮みするフレージングはどこかコミカル。⑨では軽快なスタッカートにファンキーなリフ、伸びやかな長音と豊富な表情を見せつつ、②や⑧のシンセ・ベースの硬質なテクスチャーが生楽器の鳴りを際立たせる。手数の複雑さに反して普遍性を感じるのは、祝祭のようなフレーズの輝き故か。(フガクラ)

◎作品情報
『シンフィル』
蓮沼執太フィル
B.J.L.×AWDR/LR2/DDCB-13054
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【千葉広樹(b)】蓮沼執太(vo,k,prog)、斉藤亮輔/石塚周太(g)、尾嶋優/イトケン(d)、大谷能生(sax)、小林うてな(steelpan)、K-Ta(Marimba)、他

HOWL BE QUIET』HOWL BE QUIET

どこまでも瑞々しい、多幸感あるラスト・アルバム

 結成13年のピアノロック・バンドのラスト作は、新曲はもちろん、インディーズ時代の楽曲や未音源化だったライヴでの人気曲など、特盛の全18曲入り。“やり切った”という解散時のコメントどおり、どこまでも瑞々しく、メンバーが音楽を楽しんでいるのが伝わる好盤に仕上がった。的確な音価調整でグルーヴメイクしながら指板を横に使ったグリスをともなうプレイのウネらせ方が特徴的なベースには、エゴではなく歌を引き立てる職人的気づかいを感じるし、スタイリッシュなポップ曲にあえて深みとエッジのあるロック系音色をぶつけるなど音色センスも秀逸。いろんな意味でレベルの高い演奏が気持ちいい。(中村健吾)

◎作品情報
HOWL BE QUIET
HOWL BE QUIET
APARTMENT/MMZ-11016
発売中 ¥3,850 全18曲

参加ミュージシャン
【松本拓郎(b)】竹縄航太(vo,g)、黒木健志(g)、岩野亨(d)

『gel』 SADFRANK

クールな音像のなかに在る、暖かく親密な低音

 苫小牧を拠点とする3人組オルタナティブ・バンドNOT WONKのフロントマン、加藤修平によるソロ・プロジェクトのデビュー作。エレクトロニックからブラジリアンまで幅広いサウンドを乗りこなす彼のヴォーカリストとしての凄みに感嘆させられる本作で、石若駿とリズム体を担うのは、ゆうらん船やカネコアヤノ作品で辣腕を振るってきた本村拓磨だ。②⑤での重低音を鳴らす音響的アプローチ、岸田繁がオーケストラ・アレンジを務めた③でのミュートを効果的に使うメロウ・プレイ、変拍子の⑥でのツイン・ベースなど、ベース的聴きどころは多数。ミックス・エンジニア柏井日向による低音処理も素晴らしく、クールでスタイリッシュな音像のなかで鳴る生楽器の親密な響きが実に心地よい作品だ。(辻本秀太郎)

◎作品情報
gel
SADFRANK
Bigfish Sounds/ BFCD-1002
発売中 ¥3,000 全9曲

参加ミュージシャン
本村拓磨(b)加藤修平(vo,p,g,syn)、石若駿(d)、香田悠真(k)、松丸契(sax)、岸田繁(orchestration)、他

『Balcony』 Penthouse

ポップなかけ合いを紡ぐ的確なフレージング

 洗練された“シティ・ソウル”を奏でる6人組の1stフル・アルバム。東京大学の音楽サークル出身というバックグラウンドもさることながら、全篇にて卓越したポップ・センスが光る。“日常をちょっとおしゃれに彩る音楽”という彼らのコンセプトどおり、煌びやかな男女ツイン・ヴォーカルの“美メロ”とリンクするかのように大原拓真の低音は楽曲に色を添えていく。軽快に休符を踏みながら印象的なオブリを各所に落としんでいく①、ソウルフルな③での音価を巧みにコントロールした“ハネ感”はなんとも心地よい。ゴーストノートのタッチが聴き手にも鮮明に感じ取れる⑥など、“ブラックさ”を昇華したグルーヴ感溢れるプレイには脱帽だ。(加納幸児)

◎作品情報
『Balcony』
Penthouse

ビクター/VICL-65794(通常盤)
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
【大原拓真(Ba)】浪岡真太郎(vo,g)、大島真帆(vo)、Cateen(p)、矢野慎太郎(g)、平井辰典(d)

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