NOTES
UP
魅惑のブラックボックス(後篇)【高松浩史の音色探索 その箱の中は地獄より深い】– 第2回
生粋のエフェクター・フリークとして知られる高松浩史による、以前本誌にて掲載していた当連載がBM Webにて復活! マニアックなものからビギナー向けのお勉強企画まで、豊富な機材知識を持つ高松がエフェクターを語り尽くします。第2回は、ベーシストの定番機である“サンズアンプ”の後篇。前篇の第1回をまだ読んでいない人は、そちらもぜひチェックを!
TECH21 SANSAMP BASS DRIVER DIー後篇
第1回目の前篇に続き、後篇でも僕の大好きなTECH21社のSANSAMP BASS DRIVER DIについてご紹介していきます。
改めて、わかりやすいように分類ごとに分けた、僕のコレクションをご覧ください。
前篇では②まで解説しましたので、後篇では③と④を解説していきます。
まず③は、①②と同じくSANSAMP BASS DRIVER DIなのですが、スライド・スイッチが3つに増えています。
“V1後期”と呼ばれている仕様ですね。追加されたふたつのスライド・スイッチは、どちらもアウトプットの音量に関係するものです。音もV1前期に比べて変わっています。一聴すると“サンズアンプ感”が強くなった感じ。加工感というかエフェクト感、みんながイメージするサンズアンプの音を強調した感じというか……。
ただ、この音の変化は、スイッチが増えたことによるものだけではないと思います。一説によると、BASSやTREBLEのカーブがV1前期とは違うそうです。前期はシェルビング、後期はピーキングということで、確かにローはタイトに、ハイはクッキリと音量感があります。大きく見れば“サンズアンプの音”ですが、使い勝手は少し違いますね。
歪みの感じにも違いが出ています。前期は音の芯のまわりに歪みがまとわりついて、じんわりとした歪み方、後期はもっと歪みが前面に出てエッジが立っている感じ。粒も粗いです。
以上から、前期と後期でかなり違いがあることがわかっていただけるかと思います。
僕のYouTubeチャンネルにV1前期と後期を比較した動画があるので観てみてください。
またV1後期でも製造時期によって音が違います。集合写真の左側はV1後期の初期、マイナーチェンジがあってわりとすぐの個体、右側はイケベ楽器の限定カラーのモデルで、V2になる少し前の個体です。ふたつを比べてみると、やはり赤色の個体は前述した“サンズアンプ感”、“加工感(エフェクト感)”が強く感じます。かなり大味といいますか……。
こちらに関しても動画があるので、観ていただけるとわかりやすいかと思います。
ただ、本当に、“でもサンズアンプの音だよね”というところに収まっているのがすごいですよね。
最後は④、現行モデルである“V2”です。
サンズアンプは、2016年に突然のバーションアップがありました。MIDコントロールの追加、そしてそのMIDやBASSの周波数の選択スイッチといった部分が大きな変化でしょうか。こちらは現在楽器店で購入できる現行モデルです。22年ぶりのこのバージョン・アップには当時とても驚かされました。
加えて音を出してさらに驚きました。全体的な音色はまとまりがあってマイルドな印象です。MIDコントロールが追加されたからか、ドンシャリ感は緩やかですね。“ドンシャリ”ではなく“ボンカリ”といったイメージ。あくまでイメージです。歪みも中域にコシがあり、太さを感じる、いわゆるオーバードライブっぽい質感になりました。総じて、これまでのSANSAMP BASS DRIVER DIとは全然違いますね。MIDをカットし、BASS、TREBLE、PRESENCEをブーストすればV1に似せることもできますが、同じ音にはなりません。個性を少し犠牲にして、代わりに汎用性を獲得したといえるでしょう。コントロールがマイルドかつ幅広く効くので、いろいろな調整ができるようになったぶん、扱いは多少難しくなったと思います。
ですので、しっかりと出したい音のイメージやビジョンがないと迷子になりそうです。そして、熱狂的なサンズアンプ・ファンからは前のほうが良かったと言われてしまいそう(笑)。逆に、これまでサンズアンプに対して個性が強すぎてあまり好きではないと思っていた方にもオススメできるようになりました。
さて、次の写真をご覧ください。
写真左が2016年に購入した個体、右がイケベ楽器の限定カラーのV2です。フットスイッチが違うのがわかると思います。実は恐ろしいことに音も違います。2016年に購入した個体は重心が低く、少し暗い音で、赤い個体はもう少し重心が高く、明るいです。赤い個体のほうが扱いやすさがあるかもしれません。サンズアンプぽさが強いのは2016年のものでしょうか。
僕はこのふたつの時期のものしか試したことがなく、最近の製造のものは追えていないのですが、また音が変わっていそうですよね。少し前に箱が変わったので、もしかしたらそれを境にまた音が変わったのではないかと睨んでいます。何せ、V2にバージョンアップされたのがもう7年も前なので……。
……ということで、前篇と合わせて僕のSANSAMPコレクションを紹介・考察してきました。少々マニアックな内容になったかもしれないですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
最後に、前篇に引き続きTECH21の正規輸入代理店であるキクタニミュージック株式会社の中垣康博氏【Nik’s Mod Works(a.k.a DJ NIKON)】 のお力添えで実現した、TECH21社の社長アンドリュー・バータ氏へのインタビューをお届けします。僕自身にとっても非常に興味深いインタビューとなりましたので、ぜひ前篇と合わせてチェックしてみてください! 中垣さん、アンドリューさん、ありがとうございました! それではQ&Aをどうぞ。
・ ・ ・
━━V1のスライド・スイッチが3つに増えたモデルは、初期のひとつのモデルと比較して音が変わったと感じます。特に歪みの質感が違う印象を持ちました。これは何か要因があるのでしょうか?
設計に特徴を持たせると、どうしても細かい音の変化は避けられません。クリーンからダーティへの移行をスムーズにするために回路を少し変更したのですが、それが歪みの質感に影響しているかもしれませんね。
━━3スライド・スイッチのV1のモデルは、EQのカーブがシェルビングからピーキングへ変更になったとお聞きしました。使い勝手としては大きな変化だと思いますが、どういった意図があったのでしょうか?
確かにおっしゃるとおりの変更を加えています。私は製品がどんなに成功しても、常に改善策を見つけようとしています。それが私の楽しみでもあります。ピーキングEQは、3.5kHzあたりに設定するのがより音楽的だと感じました。それ以上の周波数や、一定以上の低音ではノイズ、ハッシュ、ヒスがより多く発生するため、スピーカー・シミュレーターはとにかくそれらの周波数のほとんどをカットします。これは私が設計したハイブリッドEQで、カットするとシェルビングになります。適切な要素を揃えることが、自分の満足のいくトーンに仕上げる鍵なのです。
━━3スライド・スイッチのV1のモデルやV2は、時期によって音が違うと感じました。これには何か要因があるのでしょうか?
すべての部品にはさまざまな公差があり、サプライヤーによって異なることがあります。また部品はいくつかの理由によって、製品の寿命を通じて変化することが避けられません。入手性が悪くなったり、より新しく品質の良い部品が入手できるようになったりするのです。例えばマーシャルとフェンダーのように、回路設計は基本的に同じでも異なる部品を使用すると音色に違いが出てくるのと同じですね。
━━V1からV2へバージョンアップしようと考えたきっかけとは? また開発にはどのくらいの期間を要しましたか?
お客様からのフィードバックに基づき、専用のMIDコントロールを追加しました。時間がかかったのは実装するための試行錯誤です。コンセプトから実行まで約6ヵ月、その後、生産と出荷の準備に1年かかりました。製品の仕様変更には時間がかかり、一歩一歩のプロセスが必要です。
━━現在開発中のベース向け製品があれば教えてください(個人的にはPROGRAMMABLEやDELUXEのV2が出たらおもしろそうだなと思います)。
まずはフランク・ベロのシグネチャー・サンズアンプである“STREET DRIVER 48”を正式に発表することができ、本当に嬉しく思っています。すでにソーシャル・メディアではかなり話題になっています。近く出荷を開始したいと思っています。また私たちは別のベース向けペダルの開発にもとてもエキサイティングに取り組んでいますが、その詳細をお伝えするにはまだ時期尚早です。
━━BASS DRIVER DI V3の開発予定はありますか?
今は先程お伝えした開発中のペダルに集中していますし、ほかにもいくつかのプロジェクトを並行して進めています。BASS DRIVER V3については秘密、ということで。
・ ・ ・
以上、第1回(前篇)と合わせて、僕の大好きなSANSAMP BASS DRIVER DIの変遷を紹介させていただきました。いかがでしたでしょうか? 第3回目もよろしくお願いいたします。
それでは、今回はこの辺で。ご覧いただきありがとうございました!
◎Profile
たかまつ・ひろふみ●栃木県出身。2002年に高校の同級生だった小林祐介(vo,g)とともに前身バンドを結成する。2005年からTHE NOVEMBERSとしての活動を開始し現在までに8枚のフル・アルバムなどを発表している。2021年からは京(vo)、yukihiro(d)を中心としたプロジェクトPetit Brabancon、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSのメンバーとしても活躍している。そのた、Lillies and Remains、圭、健康のサポート・ベーシストも務めている。
◎Information
高松浩史 Twitter Instagram