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アダム・クレイトン(U2)が語るフェンダー製シグネイチャー・アンプ

  • Interpretation:Tommy Morley

フェンダー初のシグネイチャー・ベース・アンプの製作について、アダム本人にインタビュー!

ミッド・レンジを取り除くのではなく、
ブーストさせてフェンダーの新しいサウンドを作ろうと思った。

━━今回、フェンダーと開発したシグネイチャー・アンプACB 50はどのようなサウンドを目指したアンプなのですか?

 僕はベース・サウンドやアンプに対して、キチンと知識を持たないままバンドを始めたようなところがあってね。もちろん、長年プレイし続けてきたことでどんどん良いサウンドで演奏できるようになったし、それはU2というバンドでプレイしてきたからこそ必要があって学んだところもある。かなりトラディショナルなヴィンテージ・サウンドで、それは真空管によって生まれるコンプレッションやミッド・レンジが強くてクランチからディストーションまでをも作れるサウンドなんだ。U2みたいなバンドだとジ・エッジ(g)が作るギター・サウンドはアンビエントで、ほかのバンドやブルースのプレイヤーたちのようなミッド・レンジを含むサウンドとは異なっていた。U2には彼のほかにはギター・プレイヤーがいないから大きなスペースが生まれてしまい、それを僕のベースで埋める必要があったというわけ。

━━バンド・サウンドが求めるものに応じて、自らのサウンドも決まっていったと。

 そう。そうしてたどり着いたのが、フェンダーのプレシジョン・ベースといくつかのヴィンテージ機材なんだ。長年やってきて思うのは、大きな機材を今の自分は好んでいないということで、“大きな機材ほどグッドなサウンドだ”という考え方は、必ずしも正しくないと感じるようになった。僕はコンボ・アンプを使うのが好きだし、用途に合わせてサウンドを特化させた各アンプを3、4台並べてスイッチングで切り替えるほうがシックリくるようになり、U2のステージの下に常に配置させて鳴らしてきた。コンボ・アンプでも充分なサウンドが得られるし、2階くらいなら僕自身がライヴ会場に持っていくことも問題ないからね。

━━あなたはこれまで、フェンダー以外のアンプも使っていましたが、フェンダーのベース・アンプにはどのような印象がありましたか?

 フェンダーはグレイトなギター・アンプをたくさん作ってきたけど、ベース・アンプとなるとミッド・レンジを若干取り除いてしまうようなところがあった。それはベースが聴こえ過ぎてしまうと、ほかの楽器を邪魔してしまうから、という理由もあったんだろう。フェンダーのシグネイチャー・サウンドというのは、たくさんのローエンドがあってハイエンドはナイスでクリーンというもので、僕はこれをACB 50で少し変えたいと思ってね。ミッド・レンジを取り除くのではなく、むしろブーストさせてフェンダーの新しいサウンドを作ろうと思ったんだ。このコンセプトを実現するものを、スタン・コーティーというフェンダーのスタッフが設計してくれた。彼は真空管のテクノロジーを駆使してさまざまなスピーカーとの組み合わせを試したようだね。アンプの見た目に関しては、ブラックとシルバーを基調としたヴィンテージのフェンダーにも通じるもので、ツアーでの使用にも耐えられるタフな印象があって気に入っている。

━━先ほど、“大きな機材ほどグッドなサウンドだ、というのは必ずしも正しくない”と言っていましたが、50W出力のコンボ・アンプというのは、U2のコンサート規模などから考えてもコンパクトなものですよね?

 最近のプレイヤーにはさまざまなテクノロジーが提供されている。インナー・イヤー・モニターが出回ってきた1990年代、僕はなかなか取り入れられないでいた。当時のイヤー・モニターはローエンドをしっかりと出せなくて、バスドラと僕のベースを聴くことが難しかったからね。でも、モニタリング・システムの技術の革新は素晴らしくて、クラブ規模のライヴでもイヤー・モニターでやれるようになった。大きなアンプでドライブさせなくてもイヤー・モニターからしっかりと自分の音を聴くことができるようになり、誰もが従来より音量を下げて演奏することができるようになった。僕らのサウンドの音量バランスは、昔はラリー・マレン(・ジュニア)のドラムがどれだけラウドにプレイされるのかで決まっていて、特に彼のスネアの音量でギターとベースの音量が決まっていた。それがイヤー・モニターの発展でもっとコントロールしやすいものとなり、小さなアンプも使えるようになってきたというわけさ。最近の僕は小さな音量でプレイすることを好むようになってきた。若い頃はステージ上のモニターからの大音量で特定の周波帯が聴こえなくなるようなことがあったけど、現在ではそんなプレイ環境から離れたので、耳もまったく問題なくやれているよ。

━━ACB 50にはXLRアウトも装備していて、ライヴやレコーディングでも柔軟に対応できそうですね。

 まだこのアンプが完成してからライヴする機会がなかったんだけれど、今度のライヴのリハーサルで試すつもりなんだ。ライン・アウトはレコーディングでも活躍するだろうし、PA卓に直接つなげられることは重宝されるだろう。僕らも使える選択肢は可能な限り使うつもりだし、サウンド・エンジニアのジョー・オハーリーも幅広いレンジを得るために必要となれば使うことだろう。モダンなアンプを求めるモダンなプレイヤーたちの、クラブ規模からシアターやアリーナといったさまざまな場所でのライヴでも役に立ってくれると思うよ。僕らは2万人規模の会場でプレイすることが多いけど、もっと大きなスタジアムでもプレイすることになるから、そこでどうなるのか興味があるよ。

━━ベース・アンプ界では、デジタル・アンプやクラスDアンプなど、最新の技術を使った小型軽量な製品もトレンドにありますが、伝統的なフル・チューブ・アンプの魅力とはどんなところでしょうか?

 僕はシンプルでヴィンテージなテクノロジーで作ったアンプを部屋で鳴らしたときのアンビエントな感じが好きでね。現在は実機のアンプを一切使わないプラグインのようなものがトレンドとなっているし、デジタルなサウンドやプロセッシングを使う人もいる。ただ僕にはそれではベースのフィーリングが得られなくて、僕みたいな古いトラディショナルなミュージシャンは、弦が木材に振動を与える様子に耳を傾けたがるんだ。コンピューターやプラグインのなかでデジタルに起こるものには、ロマンが感じられないしケミストリーもないよ。僕はサウンドに潜むケミストリーが大好きなんだ。

━━なるほど。

 もちろん、進歩したテクノロジーが新たな場所に連れて行ってくれることもあって、異なるサウンド・スケープを作り出してくれる。それらによって新しい何かを生み出す人は常にいて、ときにはそういった人たちと仕事をすることも素晴らしいことだよ。ただ、僕は今でも1950年代のミュージシャンたちのやり方、つまり、今、誰もが当たり前として使っているエレクトリック・ベースとフェンダー・アンプを使うことが、自分にとってシックリきてしまうんだ。これらはラジオに用いられていたテクノロジーをもとに開発されていて、それらが音楽を作る手助けをして人々を踊らせてきたという歴史に美しさを感じている。3、4人のミュージシャンと3、4台のアンプを車に積んでダンスホールに行けば、人々を踊らせることができた。僕にはこうした物理的なつながりが大切なんだ。

━━ACB 50はチャンネルをふたつ搭載していますが、それぞれの使い分けはどのように想定して作られているのでしょうか?

 僕はたいてい、ミッド・レンジのブーストを搭載させたチャンネル1を使っている。これによってサウンドを自分の求めるカラーに最も近い状態に仕上げられるんだ。僕の場合は常にミッド・レンジを満たすことやスムーズなディストーションを求めてしまうからね。とは言いながらも、ストレートなイコライジングを持ったもう一方のチャンネルも機能的で、特定の狙いを持ったものを作り出せるよ。

━━では、U2のライヴにおいて楽曲に応じてチャンネルを使い分けることは、現時点ではあまり想定していないのでしょうか?

 異なるクオリティとキャラクターがあるから、両方のチャンネルを使うことになるだろうけど、ライヴのリハーサルの頃になってどの曲をプレイするかがわかってきたら、どっちのチャンネルをどの曲で使うかを決めることになるだろうね。

━━ベースのサウンド・メイクにおいてあなたはミッド・レンジを重要視しているようですが、これは先ほど言っていたようにU2サウンドにおいてジ・エッジのギターとのコンビネーションのなかで培われたものなのでしょうか?

 U2のサウンドは、ギターによるコードのサウンドとのバランスを取るためにベースでミッド・レンジを満たすようになってから固まってきたと思う。僕らの本当に初期の頃はギター・プレイヤーがふたりいて、バンドのサウンドが大き過ぎたり埋め尽くされていてシックリきたことなんてなかったよ。ギター・プレイヤーがひとりバンドから去って、僕のベースとジ・エッジのギターが互いに語り合うような関係になってからケミストリーが生まれてきた。もっとユニークで表現力が豊かになり、そこからベースにおけるミッド・レンジの重要性を認識するようになったのさ。昔はほとんどのレコードでベースを聴くことができなくて、1970年代から80年代の再生環境は今のようにローエンドをしっかりと聴けるようなものではなかった。ミッド・レンジがあってやっとベースが何をやっているのかを聴くことができるわけで、僕はそれを昔から大切な気づきとして持ってきたんだ。

━━ACB 50に関して、日本のベーシストにアピールすると?

 日本のミュージシャンたちはグレイトな機材にたくさん囲まれているだろうけど、ぜひ僕のシグネイチャー・アンプでプレイしてみてほしい。気に入ってもらえると嬉しいし、君にとって使いやすい機材となってくれるとさらに嬉しいよ。楽しみながら自分に合った使い方を開拓してほしいね。

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