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Empress Effects最新モデルが提唱する“新時代”の低音
- Photo:Takashi Hoshino
2010年代を代表するハイエンド・ペダル・ブランドEmpress Effects。“スタジオ・クオリティ”と評される高品位なサウンドは、ベーシスト/ギタリスト問わず圧倒的な支持を獲得し、いくつもの名機を生み出してきた。今回は、2021年にリリースされた同社初のベース専用機“Bass Compressor”に加え、新たに登場した多機能EQペダル“ParaEQ MKⅡ/ParaEQ MKⅡ Deluxe”の実力を、ヒトリエのイガラシのレビューとともに徹底検証。ペダル・シーンの革命児が提唱する新時代の低音を紐解いていきたい。
Empress Effectsとは
まずは群雄割拠のペダル・シーンにおいて存在感を放ち続ける、Empress Effectsの正体とこれまでの歩みを振り返る。
時代を切り開いた天才エンジニア集団の革新
Empress Effectsは代表/製品開発を務めるスティーブ・ブラッグが2005年に立ち上げた、カナダを拠点とするペダル・ブランドだ。スティーブは高校生の頃からエフェクター製作に興味を持ち、進学したクィーンズ大学では電子工学を専攻して回路設計の基礎を学んだ。スティーブが同社を設立したきっかけは、友人のために製作したトレモロ・ペダルだった。当時、市場にないタイプのトレモロ・ペダルの製作を依頼され完成させたものの、当の友人はすでに別のペダルを購入していたため、製作したペダルを地元の楽器店に売りに行ったところ注目を集めて10台の注文を受注。各所から称賛を得たことで、正式にEmpress Effectsとしてペダル製作を開始することになった。のちにそのトレモロはブラッシュアップされ“Tremolo 2”として製品化。プロ・オーディオ並みのアンプ回路を搭載した多機能トレモロ・ペダルとして人気を博した。
2010年代になるとハイエンド・ペダル・ブランドの筆頭格として歪み系や空間系、モジュレーション系のほかバッファーに至るまで、“多機能”をキーワードに多種多様な製品を開発。アナログ回路をマイクロ・プロセッサーで精密にコントロールするという、“天才エンジニア集団”と評されるにふさわしい手法を用いることで、アナログ回路単独のコントロールと比べてより多くの機能をペダルに盛り込んでいる。
製品ラインナップとしては主にはギタリスト向けのものを多く揃えているが、特徴となる多機能さはもちろん、そのスタジオ・レベルの音質にはベーシストからも熱い視線が注がれてきた。なかでも35Hz~20kHzまで各バンドにクロスした周波数帯設定をはじめとした多彩なコントロールを有した2008年発売の“ParaEQ”は、同社におけるNo.1ヒット・ペダルとしてギター/ベースともにEQペダルの代名詞とも言える存在に。また2011年発売の“Compressor”はスタジオ・レコーディングの名コンプ/リミッターである“Urei 1176”にインスパイアされた高品位かつナチュラルなサウンドに加え、コンプレッションのかかり具合を視認できるLEDメーター、ドライ/ウェットの比率をコントロールできるツマミの搭載など当時における革新的な機能を持ち、ハイエンド・コンプレッサーの名機として市場で圧倒的な支持を獲得した。上記2モデルは近年、その後継機がリリースされており、それらについては以降で解説する。
2016年発売の“Reverb”以降、現在では多くのブランドが取り入れているファームウェアによるアップデートにもいち早く対応するなど、ペダル・シーンを牽引するブランドとして大きな存在感を放ち続けるEmpress Effects。技術の進化が著しいペダル・シーンにおいて、次はどんな一石を投じるのか、その動向が常に注目されるブランドである。
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Sound Check by イガラシ
ここからはEmpress Effectsの最新モデル3機種の実力を、ヒトリエのイガラシによる試奏レビューとともに検証していく。
ParaEQ MKII/MKII Deluxe
パライコの可能性を追求する次世代の定番機
平成を代表する高品質パラメトリック・イコライザー・ペダルとして大ヒットを記録した“ParaEQ”の後継機が“ParaEQ MKII”と“ParaEQ MKII Deluxe”で、両機ともに筐体サイズが見直され縦長にコンパクト化。よりボードに組み込みやすいサイズに変更されている。各ツマミの周波数帯域は、“low freq”が35Hz~500Hz、“mid freq”が250Hz~5kHz、“high freq”が1kHz~20kHzで、±15dBの範囲でブースト/カットが可能。Q(帯域幅)はそれぞれミニ・スイッチで3タイプから選択できる。また0db~30dBを無段階で増幅できるクリーン・ブースト機能を有したブースト・スイッチも搭載しており、音質ロスを感じさせない高品質な音量増加を実現する。ブースト機能単独でも使用できるため、ほかのペダルと組み合わせるなど、用途は広がるだろう。
上位機種となる“MKII Deluxe”は、“MKII”の機能を踏襲しつつブラッシュアップ。本機のQコントロールにはツマミによる連続可変式が採用されている。またノブで設定した10Hz~330Hzのカットオフ周波数以下を12dB/オクターヴで減衰させるハイパス・フィルター、同じく1.5kHz~22kHz以上の周波数を12dB/オクターヴで減衰させるローパス・フィルターのほか、特定の帯域をブースト/アッテネートするハイ/ロー・トーン・コントロール(シェルビング・フィルター)といったフィルター・セクションを追加装備しているため、より自在な音色設定を実現する。
また両機ともに、ペダル内部で電圧を28Vまで昇圧させて動作するため、不要なクリッピングが一切ない、クリーンかつレコーディング機器にも匹敵するヘッドルームと108dBものSN比を持ち合わせている。ロー・ノイズかつ楽器本来のサウンドを一切損なうことのない的確なイコライジングは、楽器を選ばず多彩な用途で効果を発揮するだろう。
Specifications
●コントロール:ロー・フリケンシー、ロー・ゲイン、ミッド・フリケンシー、ミッド・ゲイン、ハイ・フリケンシー、ハイ・ゲイン、ブースト、ブースト・スイッチ、オン/オフ・スイッチ【MKIIではスイッチによる操作】ロー・クオリティ・ファクター、ミッド・クオリティ・ファクター、ハイ・クオリティ・ファクター、【MKII Deluxeのみ装備】ローパス・フィルター、ハイパス・フィルター、ロー・シェルフ・フィルター、ハイ・シェルフ・フィルター●出入力端子:インプット、アウトプット●電源:9Vアダプター●外形寸法:63(W)×127(D)×63(H)mm●重量:約450g●価格(税込):44,000円(ParaEQ MKII)、57,200円(ParaEQ MKII Deluxe)
ygarshy’s Impression
1台で数台ぶんの機能を持ち合わせています。
MKII Deluxeはしっかり音を作り込めるのでプリアンプ的にも使えますね。スタジオのラック型EQがコンパクトに収まったイメージで、Qの幅が広くて効きもいいのでサウンドのキャラ変にも使えるし、ボード全体の最終調整というイメージで設定してもいいと思います。各EQは±15dBでブースト/カットできて効きも良い。ローパス/ハイパス・フィルターは会場とか楽器の鳴りによって整えてあげるような補正的な使い方としても最適です。
ブーストはとにかくクリア。EQ部分がそのまま持ち上がってくれるので、基本の音作りをもういち段階プッシュしたいときにうってつけ。EQと組み合わせればミドル・ブースターやトレブル・ブースターとしても使えます。ブースト単体で使えるのも嬉しいし、バッファードかトゥルー・バイパスかも切り替えできるので、1台で数台ぶんの機能を持ち合わせています。実際の現場でありがたみが実感できる、いろいろな使い方が想定できる多機能さが魅力だし、1台ボードに入れば3、4個ペダルが減りそうです(笑)。
MKⅡはQの切り替えがスイッチ式になっているので、迷いなく設定できると思います。フィルターのツマミはないけど、純粋にEQとしての用途であればこちらのほうが直感的に音作りできますね。基本となるEQや補正したい帯域が明確で、ポイント使いしたい人にオススメです。
Bass Compressor
ペダル型コンプの革命児がベース専用機に進化
2011年の発売以降、スタジオ・クオリティの音質を武器にギタリスト/ベーシスト問わず人気を博した“Compressor”が、低域の周波数帯へのレスポンスを拡大したベース専用機“Bass Compressor”へと進化。発売から約1年半が経過した現在、すでにベース用コンプレッサーの中核を担うモデルとして存在感を放っている。
前モデル同様、通常ハイエンドなスタジオ機器でしか見られないコントロール類を搭載し、繊細なタッチを制御したきめの細かい設定を実現する。新たに搭載されたサイドチェイン・ハイパス・フィルターは、20Hz〜400Hzの間でフィルターを設定して低域の信号に過剰にコンプレッサーが反応することを抑え、飛び出る高域を整えつつ、低域を完全に潰しすぎない微細なコンプ感をツマミひとつで演出する。またサイドチェイン回路に外部デバイスを接続してサイドチェイン・コントロールを可能にする端子を搭載するなど、従来のペダル型コンプには見られないスタジオ機器さながらの機能を持ち合わせている。
そのほか、先代機から人気を博したドライ/ウェットの比率を自在に設定できるミックス・ツマミも健在。ダイナミクスやサステインを的確に整理しながら、適正な原音ニュアンスを追求できるだろう。Tone + Colourスイッチは、500Hzをカットすることで、若干低域がブーストされるスクープと、2kHzを中心としたミッド・ブーストから選択可能で、コンプの枠に留まらないサウンド・キャラクターの演出にも一役買っている。また筐体内部のDIPスイッチでは、カラー・サーキットのオン/オフを調整できるなど、一台に多彩な機能を備えている。筐体カラーが好みに合わせてSilver SparkleとBlueの2色から選択できるのも嬉しい。
Specifications
●コントロール:インプット、アタック、ミックス、アウトプット、リリース、サイドチェイン・フィルター、レシオ・スイッチ、トーン+カラー・スイッチ、オン/オフ・スイッチ●入出力端子:インプット、アウトプット、サイド チェイン●電源:9Vアダプター●外形寸法:66(W)×122(D)×64(H)mm●重量:454g●価格:40,700円
ygarshy’s Impression
サウンドの基準値が高くて直感的に扱える。
このコンプは僕のまわりでも使っている人がたくさんいてすごく評価が高いんです。まずミックスのツマミがあるのがいいですよね。ミックスって便利な反面、ブレンドが前提になっているものだと“ドライがドライじゃない”こともありますよね。でもこれは振り切ればしっかり原音だけ出力してくれる。インプットを強めにしてミックスで調整すればクセと原音のいい塩梅を探せます。
スレッショルドは固定だけど、レシオでその具合が変えられる。基準の“4:1”はコンプ感がありつつやりすぎない感じで良いですね。コンプを扱う際、スレッショルドやレシオでつまずく人って多いと思うけど、固定されているぶん初心者でも使いやすいと思います。プリセットされたトーンとキャラクターを切り替えるTONE+COLOURは、いい意味で質感がガラッと変わる。個人的には右側の中域のブーストが好きかな。低域と高域でコンプのかかり具合を変えられるサイドチェイン・ハイパス・フィルターにはびっくり。低域のロー感を残しつつ、高域をパキッと決めるようなピンポイントな使い方もできます。極端なセッティングにしてもこの設定次第で破綻せずに使えると思います。パッシヴ・ベースでアタック感を出したい人、整えたいけど弾いているインパクトを残したい人にも最適。この存在がかけっぱなしでも気持ちいいと思わせる要因ですね。
とにかく多機能なので一見扱いづらそうに見えるかもしれないけど、めちゃくちゃ直感的に使える。何よりサウンドの基準値がすごく高くて、インプットとアウトプットで調整するっていうラック型の考え方からも、エンジニア目線でのこだわりを感じました。
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