UP

亀田誠治が弾くFender American Vintage Ⅱ

  • Photo:Takashi Hoshino

American Vintage II 1966 Jazz Bass

3-Color Sunburst

 American Vintage II ‘66 Jazz Bassは、通称“パドル・ペグ”と呼ばれる特徴的な楕円形ペグを搭載し、日本でも人気の高い年のモデルだ。材構成はアルダー・ボディ、メイプル・ネック、ラウンド貼りのローズウッド指板。ホワイト・パーロイド・ドットのポジション・マークが入れられた指板にはバインディングが取り付けられており、これは1965年後期から66年中期の約半年間しか存在しなかったと言われる、通称“バインディング ・ドット”というレアな仕様を再現している。ピックアップは、ピュア・ヴィンテージ’66シングルコイル・ジャズ・ベースを2基搭載し、コントロールは2ヴォリュームとトーン。“OFFSET Contour Body”と書かれた部分がヘッド先端に貼られたトランジション・ロゴ・デカール、シリアル・ナンバーと大きな筆記体での“F”文字が刻印されたジョイント・プレートなど、こちらも細部に抜かりはない。カラーは、3カラー・サンバースト、オリンピック・ホワイト、シー・フォーム・グリーンの3色(シー・フォーム・グリーンは公式オンラインショップ限定)。なお、 ‘66 Jazz Bassには左利き用モデルもラインナップする

Specifications
●ボディ:アルダー●ネック:メイプル●指板:ローズウッド●スケール:34インチ●フレット数:20●ピックアップ:ピュア・ヴィンテージ’66シングルコイル・ジャズ・ベース×2●コントロール:ヴォリューム×2、トーン●ペグ:ピュア・ヴィンテージ・ロリポップ●ブリッジ:ピュア・ヴィンテージ4サドル・ウィズ・スレデッド・スティール・サドル●カラー:3カラー・サンバースト、オリンピック・ホワイト、シー・フォーム・グリーン(公式オンラインショップ限定)●価格:357,500円

当初はブランド名やモデル名、パテント・ナンバーと並べられていた“OFFSET Contour Body”部分はヘッド先端部へ。
1965年後期から1968年頃の短期間取り入れられた丸型の“パドル・ペグ”が愛らしい。ペグは“順巻き”となる。
1965年後期から指板にバインディングが。ポジション・マークは66年中期にはブロック型になるので、半年程度存在した仕様。
ピュア・ヴィンテージ’66シングルコイル・ジャズ・ベース・ピックアップを2基搭載している。
ネック・ジョイント・プレートには1965年後期から大きな筆記体の“F”の文字が刻印される。シリアル・ナンバーもこの位置に。
1960 Precision Bassと同様に、“スパイラル・サドル”を採用したブリッジ。なお、68年頃からは1本溝のタイプへと移行する。

other color

  • American Vintage II 1966 Jazz Bass(Olympic White)

Kameda’s Impression

この音色が推し進めた、
音楽のステージの広がり方は計り知れない。

 1966年にちょうどブロック・ポジション・マークが出てきて、僕や伊藤広規さんのベースはブロック・ポジションですけど、これはその直前の仕様ということですね。ペグは丸ペグで、やっぱり可愛いくていいですよね(笑)。これは嬉しいなぁ。僕のベースは、ペグももう朽ちてきちゃって錆びてボロボロだし、ボディも木地が見えてきちゃっているので、“60年前はこうだったのかぁ”っていう愛おしさがありますね。そう感じるのって、これは今作られた楽器ですけど、歴史をちゃんと受け継いだ楽器に仕上がっているからだと思うんです。今のフェンダーの人たちが受け継いでいる想いと同時に、今自分たちが何を届けていきたいのかっていう熱い想いを感じるんですよね。

 サウンドはめちゃくちゃバランスがいいですね。それこそ、今のJポップやバンドのなかでも一番抜けがいいサウンドで聴こえてくるんじゃないですかね。ピックアップがふたつあるから━━僕は必ずフロントもリアもフルテンなんですけど━━音の表情、レンジが広い。もしかしたらパッと聴きの低音みたいなものはプレベのほうが出ているのかもしれないけど、総合的にジャズベは下も上もカバーしているという印象はありますね。それは良い悪いじゃなくて、キャラクターが違うんですよ。それに、こうやって弾き比べていくと、プレベとジャズベではフレーズが違ってくるというか、やっぱりジャズベは弾いているとフレーズが歌いたくなる感じがありますね。ツブ立ちがクリアというか、アタックに含まれる”シャリ”っていう要素がクリアに成分になって、メロディを弾くのにもいいし、ピックで弾くときにもちょうどいい暴れ感というかエッジのある感じを出してくれる。トーンを絞っても、ジャズベって耳に届くキラッとした部分はいるんですよね。だからラインが見えてくる。諸説あるなかであえて言うと、ジャコやマーカスというスター・プレイヤーがいたっていうのもあるけれど、ジャズベのこの音色が推し進めたスラップ奏法の文化や、クロスオーバー/フュージョン・ブームでの音楽のステージの広がり方っていうのは、計り知れないものがあるなと思いますね。伴奏楽器からリード楽器へ進化させたというか。

 4弦の1~5フレットあたりのローの音程感やレスポンスも素晴らしいし、ハーモニクスの音もキレイに出ます。ジャコの「トレイシーの肖像」じゃないけど、曲を作りたくなりますよね。楽器が作ってくれる、広げてくれる音楽の世界観みたいなものがあって、そこに自然に入り込んでくれる、そういうものをフェンダーのヴィンテージの楽器というのは持っていると思うんですよ。それをしっかりと受け継いでいるモデルだと思います。

総評

音楽のバトンがわたされていくというか、
フェンダーのベースの哲学がちゃんと受け継がれている。

 3本を弾き終えて、まずはこの2022年に、この3兄弟が出てきてくれてありがとうという感謝の気持ちですね。何が“ありがとう”かっていうと、当時の音楽を愛している人間からすると、当時の音楽が、こういう楽器で作られていたんだなってことを改めて感じることができるっていうことがまずひとつ。あとは、今の時代って、録音されるときにはほぼほぼコンピューターに録音されるし、ほぼほぼプラグインで処理されて、基本的にはデジタル処理をされるなかで、今の時代でも通用するピッチだったりメカニカルな精度を持って、もう一度生み出してくれたっていうことに感謝ですね。自分もオールド持ちですけど、やっぱりオールドだと限界があるというか、ピッチの面だったり、音が枯れて━━それはいい音でもあるんだけど━━埋もれてしまうっていうことがあって。こういった新しい楽器はそれを乗り越えていく力を持った、新しい命がまた誕生したっていうことでもありますよね。それは革命的な出来事で、たぶん、これらのベースが発表された当時、革命的な出来事として若者たちが本当に喜んだんだと思うんです。それが今の時代に世界中で起こると、ベースを弾く人、楽器を弾く人の数が増えたりとか、そういうきっかけになるんじゃないかなと思います。

 今回のシリーズは、全体的にピッチ感がすごくいいですね。高いポジションでのコード・プレイもキレイに響きます。サステインも申し分ない。バランスがすごくいいので、これで練習したらみんなうまくなりますよ、きっと。楽器が求めてくる感じがあるというか。それは、ちゃんと弾いてくださいねっていうリクエストでもあるし、ちゃんと弾けばそれに答えてくれるということでもあって。それに、今回のシリーズは“ヴィンテージ・モデルの再現”ではあるんですけど、レリック加工をしていないところがいいですよね。レリックでファッション性も追い求めるんじゃなくて、音勝負・中身勝負できている感じが素晴らしい。“当時、新品で買ったらこれだったんだ”っていうところですよね。よく新しいベースを買うときに、“弾き込むともっと鳴るから”っていう話も聞くんですけど、そういう枕詞がいらない感じで、初めからちゃんと鳴っている。生音で本当に鳴る楽器って愛しいし、ずっと触っていたくなりますね。

 さっき、サンプリングのベースの話をしましたけど、そういうトラックって、楽器を弾かない、プレベとかジャズベっていうベースの種類も知らない人たちが、自分たちの耳とセンスでカッコいいと思う音を選んでいるんだと思うんです。そういうところでも、モーグのシンベの音じゃなくて、“エレキ・ベースのスラップの音ってカッコいいよね”みたいな感じで、フェンダーの伝統とか香りが引き継がれている。打ち込みの音楽だとしても、音楽のバトンがわたされていくというか、フェンダーのベースの哲学がちゃんと受け継がれているんですけど、このアメリカン・ヴィンテージIIも、フェンダーがそういう歴史を受け継いで、それを現代の技術で作り上げたというのがいいですよね。

亀田誠治

Profile
かめだ・せいじ●1964年⽣まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、[Alexandros]、FANTASTICS from EXILE TRIBEなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。2013年、J-POPの魅力を説く音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが大きな話題を呼んだ。2021年には映画『糸』にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。同年、森雪之丞氏が手がけたロック・オペラ『ザ・パンデモニアム・ロック・ショー』では舞台音楽を、2022年夏には、ブロードウェイミュージカル『ジャニス』の総合プロデューサーを担当した。2019年より開催している、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができるフリー・イベント“日比谷音楽祭”の実行委員長を務めるなど、さまざまな形で音楽の素晴らしさを伝えている。◎https://www.makotoyaweb.com/

製品に関する問い合わせは、フェンダーミュージック(☎︎0120-1946-60)まで。◎Official HP