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    亀田誠治が弾くFender American Vintage Ⅱ

    • Photo:Takashi Hoshino

    かつて、1982年のシリーズ誕生以来、フェンダーの現行製品のなかでもヴィンテージ・モデルのリイシュー・シリーズとして、その再現性とクオリティの高さで人気を集めていた“American Vintage Series”。2018年に“American Original Series”が登場することで、ラインナップからその名が消えていたが、このたび“American Vintage Ⅱ”として復活を果たした。1950年代、1960年代、1970年代にフェンダーから発表され、多くのベーシスト/ギタリストに愛されて数々の名演を生むことになった象徴的な特定のモデルを選抜し、当時の仕様を忠実に再現した同シリーズ(ベースは3つの年がセレクトされた)を、亀田誠治がチェック! 現代に受け継がれたフェンダー哲学に迫る。

    American Vintage II 1954 Precision Bass

    Vintage Blonde

     通称“オリジナル・プレシジョン・ベース”スタイルのAmerican Vintage II 1954 Precision Bass。アッシュ・ボディに、1ピースのメイプル・ネック/指板という材構成に、ピュア・ヴィンテージ’54シングルコイル・プレシジョン・ピックアップを1基搭載する。グロス・ニトロセルロース・ラッカー仕上げのボディは、ヴィンテージ・ブロンドと2カラー・サンバーストの2色展開(2カラー・サンバーストは公式オンラインショップ限定)で、ピックガードは白の1プライ。そのほか、逆巻きタイプのペグや、1〜2弦と3〜4弦が共用のファイバー製の2駒サドルといったパーツが初期プレシジョン・ベースの雰囲気を高めるが、当時と同様にブリッジ・プレートにシリアル・ナンバーが刻印されていたり、フィンガー・レストを止めるネジが1本であったりと、細部にいたるまでマニア心をくすぐる仕様になっている。出荷時にはフラット・ワウンド弦が張られているのもニクい。

    Specifications
    ●ボディ:アッシュ●ネック/指板:メイプル●スケール:34インチ●フレット数:20●ピックアップ:ピュア・ヴィンテージ’54シングルコイル・プレシジョン●コントロール:ヴォリューム、トーン●ペグ:ピュア・ヴィンテージ・リバース・オープンギア●ブリッジ:ピュア・ヴィンテージ2サドル・プレシジョン・ベース・ウィズ・ファイバー・サドル●カラー:ヴィンテージ・ブロンド、2カラー・サンバースト(公式オンラインショップ限定)●価格:324,500円

    テレキャスターを踏襲したヘッド形状。通称“スパゲティ・ロゴ”のブランド名とモデル名のデカールが入る。
    当初はウッド・ベース用の既製品を改造していたというペグは、時計回りに回すことで音程が上がる“逆巻き”仕様だ。
    親指で弾くスタイルを想定したフィンガー・レスト。この時期の固定用ネジは1本なので、取り付け角度が調整できる。
    シングルコイルのピックアップは本器のために新たに開発されたもの。また、ピックガードは白の1プライを採用している。
    当時、テレキャスター用に製作されたものを流用したコントロール・プレート。ノブは上部に丸みのある“ドーム・ノブ”だ。
    1&2弦、3&4弦で分かれたファイバー製2駒サドルのブリッジ。また、当時はこの位置にシリアル・ナンバーが刻印されていた。

    other color

    • American Vintage II 1954 Precision Bass(2-Color Sunburst/公式オンラインショップ限定)

    Kameda’s Impression

    当時の最先端の技術の結晶が現われているようで、
    その時代のクラフトマンのパッションを感じます。

     僕のまわりのミュージシャンで、いわゆる“オリジナル・プレシジョン・ベース”を持っている人がいるので何回か弾かせてもらったことがありますが、今回のモデルは特にピッチがすごくいい。“Precision Bass”って、1950年代にロックンロールが誕生したときに、ウッド・ベースだとどうももの足りないモヤッとしちゃうピッチの部分をしっかり出せる楽器として、フレットがあることによって“正確なピッチが出る”ということで開発されたわけですよね。それって、初めて人類が宇宙に行くくらいの革命だったんだと思います。“ピッチ”に関して、今回のモデルは当時のスペックを再現したうえで、サブスク時代の録音や演奏環境に充分対応する精度で作られた。新しく作られたものの良さがあるし、それがすごいなと。70年近く前の思想を引き継いで、今、よくここまで作り上げたなって感動しますね。

     全体的には、すごくシンプルでいいんですよね。すごく愛嬌があるスタイルというか。例えばこの2駒のブリッジ・サドルも、今の目線で見ると“どうして各弦独立じゃないの?”って思いますけど、ウッド・ベースは全部の弦をひとつの駒で支えていたわけですから(笑)。こうやって2駒に分けただけでも進化しているっていうことなんですけど、こういうところがすごく愛おしい。ベースをエレクトリックにするにはどうしたらいいかというときに、当時考えられるすべての技術を注ぎ込んだはずだし、当時の最先端の技術の結晶が現われているようで、その時代のクラフトマンのパッションを感じます。

     サウンド面で言えば、古い時代のモデルではありますけど、現代の音楽のなかでも居場所があるんじゃないかな。それは、“レトロ”とかそういった目的ではなくて、打ち込みのトラックのなかでも、この中域に寄った感じの音ってすごく抜けてくると思いますし、弾力性というか、この音にハズみがある感じは、ベースの出すグルーヴっていうところで、シンセ・ベース全盛の今の時代にもすごく存在感がありますね。

     あと、弦はフラット・ワウンドが張ってありますけど、フラット・ワウンドの本当の旨みというか香ばしい感じがちゃんと出ている。ウッド・ベースに張ってあった弦を応用した、本当に中間期のモデルなんですけど、エレキ・ベースはどうすればいい音になるんだろうっていう、当時の冒険と愛情を感じるんですよね。エレクトリックで大きな音を出すっていうことが求められていった時代のなかで、その最初の切り込み隊長みたいな感じで、素晴らしい完成度のベースだと思います。

    American Vintage II 1960 Precision Bass

    Daphne Blue

     American Vintage II ‘60 Precision Bassは、ストラトキャスターと同様のヘッド・スタイルやスプリット・ピックアップ、4ウェイ・ブリッジ・サドルなどが搭載され、現在のプレシジョン・ベースの姿となったあと、フェンダー全体の仕様変更にともなって、ローズウッド指板が採用された初期のモデルを再現。20本のヴィンテージ・トール・タイプのフレットを備えた7.25インチ・ラジアスの指板は、メイプルのネック材と接着面が平面状の“スラブ貼り”となっている。ピックアップは、ピュア・ヴィンテージ’60スプリットコイル・プレシジョンを1基搭載。パテント・ナンバーのないスパゲティ・ロゴのデカール、スパイラル・タイプのブリッジ・サドル、クレイ・ドット・ポジション・マークなど、こちらの各パーツも納得の再現度だ。ボディはアルダーで、カラーはダフネ・ブルー、3カラー・サンバースト、ブラックの3色展開となっている。

    Specifications
    ●ボディ:アルダー●ネック:メイプル●指板:ローズウッド●スケール:34インチ●フレット数:20●ピックアップ:ピュア・ヴィンテージ’60スプリットコイル・プレシジョン●コントロール:ヴォリューム、トーン●ペグ:ピュア・ヴィンテージ・リバース・オープンギア●ブリッジ:ピュア・ヴィンテージ4サドル・ウィズ・スレデッド・スティール・サドル●カラー:ダフネ・ブルー、3カラー・サンバースト、ブラック●価格:313,500円

    ペグは引き続き“逆巻き”仕様。1960年頃からはヘッドの裏側にストラップ・ボタンが取り付けられた。
    ポジション・マークは、光沢がなく粘土のように見えることから、“クレイ・ドット”と呼ばれたタイプ。サイドも同様だ。
    メイプルのネック材との接着面が平面状になっている、通称“スラブ・ローズウッド”の指板が特徴。
    1957年中期から導入されたスプリット・ピックアップが以降のプレシジョン・サウンドを決定づけた。
    コントロール・ノブの形状は、上部のエッジには丸みがありつつ、上面が平らな“フラット・ノブ”になっている。
    ブリッジは細かな溝が入った、通称“スパイラル・サドル”を採用。またこの頃から、プレート後方壁面左右の角が丸みを帯びる。

    other color

    • American Vintage II 1960 Precision Bass(3-Color Sunburst)

    Kameda’s Impression

    ベースでどれだけ強い音を出していくのか
    っていう役割を担っていたんだと思います。

     初代プレシジョンから比べると、すごくパワフルになっているのがわかりますね。時代的にも、ロック黎明期のうるさいドラムやディストーション・ギターといった大音量のなかで、ベースでどれだけ強い音を出していくのかっていう役割を担っていたんだと思います。サウンドも54年モデルは中域に寄っている印象ですけれど、これはすごい下も出ていて、“プレベ本来の音”という問いに正面から答える音がします。

     僕の場合、ジャズ・ベースのイメージが強いかもしれませんが、実は最近はプレベもよく使っています。2022年の8月にジャニス・ジョプリンのミュージカルをプロデュースしステージで演奏もしたんです。そこでは1962年製のプレベと、アメリカン・オリジナルの’50sプレシジョン・ベースを使いました。1960〜70年代のロック・サウンドには、やっぱりプレベがよく合うし、当時の楽器を使わないとあの頃の感じにならないんですよ。一方で、現代の打ち込みのなかでも、プレベのぶっとい低域っていうのはすごく相性がいいので、わりと自然にプレベへ手が伸びるということも多いですね。それに、最近の洋楽ではサンプリングされたスラップの音でプレベの音を耳にすることが多いような気がします。

     個人的にはプレベのほうがリズムがタイトに出る感じがあります。たぶん、倍音の感じと弦の感覚なんでしょうけど。ジャズ・ベースのほうが立ち上がりの感じがシャープなので、ビートがシビアになる感じがあって、プレベはおおらかに多少の暴れは受け入れてくれるっていうところがいいですよね。

     この時期のプレベは多少ネックが太いと思うんですけど、自分の62年製とほぼ同じイメージですね。若い頃は、ネックの太さってすごく重要で、弾きやすい弾きにくいの基準になっていたんですけど、歳を重ねてくると、“これもまた人生”と思えてきちゃって(笑)。“ロー・ポジションが大変だ”じゃなくて“当時はこういう感じだったんだなぁ”と思って弾くのが楽しい。またこのモデルは、どの弦を弾いてもすごくバランスがいい。1、2弦のロー・フレットの音もいいですね。僕は横移動して低音弦の高いポジションに行くことが多いんですけど、このベースを弾くと、ジェームス・ジェマーソンが━━もちろん彼はもともとウッド・ベースを弾いていたという理由があるにしても━━ロー・ポジションでプレイを完結できた理由がわかりますね。1、2弦のロー・ポジションを弾いても、“音が細い”とは感じないと思います。どのポジションでもタイトな感じの気持ちよさがありますね。

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