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ピノ・パラディーノのベース名演10曲【後篇:2000年代〜】#来日記念
- Text : Akira Sakamoto
- Photo : Scott Dudelson / Getty Images
2026年3月、現代最高峰のベーシストのひとり、ピノ・パラディーノが自身のプロジェクトで来日し、3月6日〜9日にBlue Note Tokyoで公演を行なっている。1980年代以降のポップス、ロック、ソウルの名作に数々の印象的なベース・ラインを刻んできた彼は、セッション・ベーシストとしても、またアーティストとしても、現代のベース史を語るうえで欠かせない存在だ。
今回の来日を記念して、本記事ではピノ・パラディーノの名演を10曲セレクト。長いキャリアを振り返る形で、後篇では2000年代以降の楽曲にフォーカスする(前篇はこちら)。来日中のブレイク・ミルズ(g)との最新プロジェクトでのベース・プレイも紹介している。(編集部)
◎前篇はこちら◎
◎ピノ来日記念イベントも開催◎
6. 「Daughters」
(ジョン・メイヤー・トリオ『Try!』収録/2005年)
アメリカの人気シンガー・ソングライターのジョン・メイヤーが、ピノとスティーヴ・ジョーダン(d)という、屈指のセッション・プレイヤーと組んだトリオのライヴ盤に収録された曲。ゆっくりとしたテンポのブルージーなワルツで、ピノはレイドバックしたメロディックなベース・ラインを弾いている。
トリオということもあってか音数はけっこう多く、楽器の最高音域を使ったフィルも聴かれるが、メイヤーのヴォーカルとのやり取りや間合いが絶妙で、心地よい空間を創り出している。楽器はおそらく、2000年代にトレードマークとなったサーモン・ピンクの63年製フェンダー・プレシジョンで、これを基にしたシグネチャー・モデルがフェンダーのカスタム・ショップから発売された。
7.「Playa Playa」
(ディアンジェロ『Voodoo』収録/2000年)
惜しくも昨年他界したデアンジェロが、21世紀に向けた新しいグルーヴ、“ネオ・ソウル”を打ち出したアルバムの冒頭を飾る曲。この独特なグルーヴについて、ジョジョ・メイヤー(d)は“ドラマーが特に変わったことはしていない”と語っており、ネイト・スミス(d)は“スネアをわずかに突っ込み気味にする”と言っている。つまり、比較的オン・ビートに近いクエストラヴのドラム・グルーヴに対して、ほかの楽器がレイドバックして、ヴォーカルがさらにレイドバックすることで生まれる緊張感が、ネオ・ソウルの雰囲気を創り上げていると言えるだろう。
16分で食っているベース・パートをレイドバックして弾くのはなかなかトリッキーだ。アルバムでは63年製のプレシジョンを1音下げ、ムーンのラリー・グラハム・シグネチャーを1音半下げにそれぞれチューニングして使用したそうだが、この曲ではボスのOC-2オクターバーも使っているようだ。
8.「Behind The Veil」
(ジェフ・ベック『Official Bootleg USA 06’』収録/2006年)
2000年代に入ってから、ピノはザ・フーやジェフ・ベックといったロックのレジェンドたちと共演する機会が増えた。これは2006年のジェフ・ベックとのライヴの模様を収めたアルバムで、ピノのほか、ドラムスにヴィニー・カリウタ、キーボードにジェイソン・リベロという、この頃にはお馴染みのメンバーによる演奏。過去作の代表的なものを選んだベスト盤的な内容だが、ここではあえてレゲエの曲を取り上げてみた。
楽器は63年製プレシジョンと思われるが、最低音がC#なので、『Voodoo』でも同じチューニングで使用していたムーンの可能性もある。これらの楽器でチューニングを下げていたのは、ラベラのヘヴィーなフラット・ワウンド弦(おそらく0760M)のテンションが強すぎたからだそうだ。いずれにせよ、丸みのある太いサウンドはレゲエにぴったりだが、その中でもメロディックなフィルが入っているあたりにピノらしさが出ている。
9.「Just Wrong」
(ピノ・パラディーノ & ブレイク・ミルズ『Notes With Attachments』収録/2021年)
ピノがアメリカのシンガー・ソングライター兼ギタリスト兼プロデューサーのブレイク・ミルズと組んだ、最新のリーダー・プロジェクトによる1作目のオープニングを飾る曲。
ここではアコースティック・ベース・ギターのようなサウンドが聴かれるが、ミルズの公式YouTubeチャンネルの動画を観ると、ピノはメキシコの民俗音楽マリアッチなどで使用されるギタロンという楽器を使用している。大型のアコースティック・ギターのようなフレットレスの6弦楽器で、チューニングは普通のギターの5度下が基本だが、ここではギターの1オクターヴ下にチューニングされているかもしれない。ピノはこれにスティングレイのフレットレスを重ねていて、かすかにネオ・ソウルを思わせるゆったりとしたグルーヴと相まって、空気感のある心地よい低音域を演出している。
10. 「Taka」
(ピノ・パラディーノ & ブレイク・ミルズ『That Wasn’t A Dream』収録/2025年)
ブレイク・ミルズとのプロジェクト第2弾に収録された、アフリカの民族音楽風の曲。ミルズの公式YouTubeチャンネルにアップされている、アルバム録音時のものと思われる同曲の動画によれば、ピノはスティングレイをピックで弾いて、北アフリカのマグレブ諸国の民族音楽で使用される、グンブリやシンティールと呼ばれる楽器を思わせるサウンドを作り出している。
また、フルートのようなサウンドを出しているミルズのフレットレス・ギター・シンセとのユニゾンによるメインのメロディには、ムーンのラリー・グラハム・シグネチャーと思われる白いJBスタイルの楽器を使用している。「Just Wrong」もそうだが、このプロジェクトでは、これまでのセッション・プレイヤーとしての経験に加えて、ひとりのアーティストとしての感性が存分に発揮されていて、ピノの新しい側面をうかがうことができる。

◎執筆者プロフィール
坂本信(さかもと・あきら)●札幌市出身。ディープ・パープルの「Highway Star」を聴き、中学1年のときにベースを始める。その後は興味の赴くままに多方面の音楽を追求。伊東たけし(sax)や高崎晃(g)、マイク・オーランド(g)、坂田明(sax)、仙波清彦(perc)、一噌幸弘(能管)、三谷真吾(フラメンコg)などと共演するほか、長年にわたり西岡治彦(g)率いるトリオで活動。音楽出版社やレコード会社、楽器メーカーの記事執筆、英文翻訳、のべ1,000人近くのアーティストのインタビューや通訳を行なう。翻訳書は『ビートルズ・ギア』、『ジェームズ・ジェマーソン:伝説のモータウン・ベース』、『レッド・スペシャル・メカニズム』など。
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