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    【api】IKUO × TranZformer CMP/GTR

    • Text:Makoto Kawabe
    • Photo:Hiroki Obara
    • Shoot & Edit:Kazuki Kumagai
    • Sound Recording:Shohei Kasai

    スタジオ・レコーディング業務に携わるなら知らぬ者はいない業務用音響機器メーカーapiより、TranZformer CMPとTranZformer GTRという2機種のコンパクト・エフェクターが登場した。優れた音響特性と“アメリカン・サウンド”と評される特有の音色を持つ同社が生み出したペダルに秘められた実力とその効果を、国内屈指の実力派テクニカル・ベーシストであり、深い機材知識を持つIKUOとともに検証していきたい。

    IKUO × api TranZformer CMP/GTR

    apiとは?

    − レコーディング業界の雄 “api” の成り立ちと歩み −

     apiの成り立ちのカギを握るのは優れた電子回路技術者であるソール・ウォーカーだ。1927年生まれのウォーカーはアメリカ海軍でキャリアをスタートさせ、軍用電子システムの開発やいくつかの音響機器のプロジェクトなどに携わる。その後、1967年にサウンド・エンジニアであったルー・リンドアワーの依頼で開発製造した12トラックのレコーディング・コンソールが評判を呼び、需要が高まったことから翌年の1968年にリンドアワーらと共同で立ち上げたのがapi(Automated Processes Incorporated)だ。

     大型コンソールの設計にあたり、従来のオペアンプの性能に不満があったウォーカーは、api創立当初の1968年には独自の2520オペアンプを開発。以降のapi製品のほとんどに搭載され、api特有の音色キャラクターを決定づけることとなる。オペアンプとは理想的な動作をする増幅回路をパッケージ化した製品で、現代は一枚の半導体チップの上に回路を構成しモールドした超小型のIC(集積回路)が主流だが、2520オペアンプは音質を最優先にすべく個別の部品(ディスクリート)で構成された比較的大型のディスクリート・オペアンプだ。

     また当初から主要なコンポーネントのモジュール化も念頭にあったウォーカーは1969年に最初の500モジュールとなる500EQを開発、コンソールに導入した。1974年にはコンソールの各チャンネルのEQ、センド、パン、フェーダーをコンピュータによって制御するコンソールを開発するなど、現代へとつながるapiの基礎を築いたが、1980年代にはapiの経営から離れている。

     ウォーカーが去ったあともapiは業務用コンソールを中心に革新的な製品をリリースし続け、アメリカン・サウンドを体現するブランドとして世界の音楽シーンを支えてきた。500モジュールはマイクプリやEQ、コンプなど、さまざまなプロセッサーを横38×縦133mmの統一サイズで自社のコンソール用に開発したものだが、1985年に電源と入出力コネクターを一体化し500モジュールをアウトボードのプロセッサーとして使用できるようにした“ランチボックス”を正式にリリース。2006年には500モジュールを規格化した“VPRアライアンス”を公表し、これに準拠した他社製品も組み合わせて使用できるようになった。

     近年は大型商業スタジオ向けの1608やLegacyAXS、小規模のプロジェクトに最適なTHE BOXなど、デジタル時代に則しながらもapiらしさに溢れたフル・ディスクリートのコンソールやアウトボードを多数リリースしているほか、プラグインとしても知名度が高く、エンジニアに限らずDTMクリエイターからも高い評価を得ている。

    Legacy AXS console 

    − TranZformerシリーズの登場 −

     TranZformerシリーズは2017年にapiが初めてリリースしたギタリスト/ベーシスト向けのエフェクト・アイテムだ。ペダル型とはいえ妥協は一切なく、コンソールと同様のオペアンプやカスタム設計の出力トランスを採用するなど、高品位なパーツを多数使用し、apiならではの音質重視の設計となっているのが最大の特徴だ。先代のGT(ギター用)/LX(ベース用)は、コンプ、3バンドEQ、DIアウトなど豊富な機能を盛り込んだプリアンプDIで、その優れた性能からプロ・ミュージシャンを中心に絶大な支持を得ていたが惜しくも生産中止となっていた。

     2021年に復活した新型のTranZformerは機能を洗練させつつデザインも一新して大幅に小型化され、現在のラインナップは3バンドEQ&ブースター・プリアンプのGTRと、コンプレッサーのCMPの2機種となっている。新しいTranZformerシリーズに搭載される2510オペアンプは1983年から大型コンソールなどに採用されているapi伝統の製品で、コンパクト・エフェクターとしては極めて異例なカスタム仕様の大型出力トランスを搭載している点も大きな特徴だ。

    左:TranZformer GT、右:TranZformer LX

    TranZformer CMP

    音を“api色”に染める
    高品位な多機能コンプ

     TranZformer CMPは500シリーズのコンプレッサー527Aと同等の回路構成でスタジオ・クオリティの効果が得られるVCAコンプレッサーだ。INPUTでコンプレッションの深さ(スレッショルドは固定)を、SUSTAINでコンプレッション量を調整し、ドライ音をミックスするBLENDでエフェクトのニュアンスを微調整できる。アタック/リリース・タイムはFAST/SLOWをそれぞれスイッチで切り替えるタイプで、コンプレッサーの心臓部であるVCAタイプを “OLD(フィード・バック)”と “NEW(フィード・フォワード)”から選択することでナチュラル派もアグレッシヴ派も納得の効果を引き出せる。

     電源は外部供給による9~18V駆動だが、動作電圧によってダイナミック・レンジだけでなく音色キャラクターもわずかに変化するので用途によって使い分けたい。また、api2510オペアンプやapiカスタム仕様の出力トランスなど、apiらしさを引き出すセクションをバイパス時にも通過するバッファード・バイパスでapi特有の艶やかな音色を引き出せるのも隠れた魅力だ。

    筐体上面はフット・スイッチ方向に向けて傾斜が付いているため、足下でのスイッチ切り替えもスムーズに行なうことができる。現場目線で考えられた嬉しいポイントだ。

    【Specifications】
    ●コントロール:アウトプット、ブレンド、サステイン、インプット、タイプ・スイッチ、リリース・スイッチ、アタック・スイッチ、オン/オフ・スイッチ●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9 or 18V ACアダプター●外形寸法:117(W)×97(D)×77(H)mm●重量:680g●価格:オープンプライス(市場実勢価格:39,380円前後)

    IKUO’s IMPRESSION

    ギラっとした質感が出てゴーストノートが前に出る。

     僕は結構強くコンプをかけますが、そこにapiならではの高品位な音質が上乗せされるのがこの機種の大きな魅力ですね。ブレンドがあるのもポイントだと思うんですが、僕はフルテンにしてインプットを上げてパツパツにコンプがかかるようにして、そこから弱める方向で音を作りました。インプットを上げるとギラっとした質感が出てゴーストノートが前に出てきますね。音ヤセは皆無です。  
     原音の音色キャラクターがほぼ変わらないし、レンジも広いので、ナチュラル派の人にもオススメできますね。OLD/NEWのVCAタイプの切り替えもかなりニュアンスが変わります。OLDは倍音が多いヴィンテージ系のラック・タイプのイメージかな。NEWは楽器用のコンパクト・エフェクターのような自然なコンプレッションの印象です。僕は断然NEWが好きですね。供給電圧によってもニュアンスが違いますね。18Vだとレンジも広いのでエンジニア目線で繊細なニュアンスを、9Vだとプレイヤー目線でガッツリ、という感じで使い分けられると思います。

    ▼ IKUO’s Setting ▼

    TranZformer GTR

    apiの伝統と革新が詰まった
    新感覚EQ/プリアンプ



     TranZformer GTRはブースト機能のある3バンドEQ&プリアンプだ。ゲイン・ステージは最大で+40dB(100倍)ものブーストが可能で、ブースト・モードをCLEAN BOOST/OVERDRIVEから選択でき、出力側に装備された-20dBのパッドと組み合わせて、広大なヘッドルームとapi独自のオペアンプの個性を生かした明るいクリーンや、一歩前に出るドライブ系の音色など、幅広い用途に活用できる。

     EQセクションは3バンドのピーキング・タイプで200Hz、1.5kHz、5kHzを±15dBまで増減でき、5kHzのみシェルビング・タイプも選択が可能。api伝統の音色と素直で効きの良いレスポンスが魅力だ。EQの周波数ポイントはギターに最適化されているが、ベースに使っても低音を損なうなどの弊害はなく、むしろドライブ系の音色を嗜好するベーシストなどは中高音域に特化したEQとして重宝するだろう。また、CMP同様に2510オペアンプや出力トランスを搭載したバッファード・バイパスで、電源は9~18V外部駆動のみとなっている。

    【Specifications】
    ●コントロール:200Hz、1.5kHz、5kHz、ゲイン、モード・スイッチ、ピーク/シェルビング・スイッチ、アウトプット・パッド・スイッチ、オン/オフ・スイッチ●入出力端子:インプット、アウトプット●電源:9 or 18V ACアダプター●外形寸法:117(W)×97(D)×77(H)mm●重量:680g●価格:オープンプライス(市場実勢価格:39,380円前後)

    IKUO’s IMPRESSION

    レンジが広くて低ノイズ。果てしなく音量が上がる。

     EQはスラップのギラツキ感が欲しくてシェルビングで5kHzを上げると良い感じでした。ピーキング/シェルビングは好みの差かな。今回は200Hzと1.5kHzをフラットで使いましたけど、歪み系のエフェクターを組み合わせるときはブースト方向で使うと歪みの質感やピッキングのニュアンスを強調できて効果的だと思います。今回は18Vで使いましたけどレンジも広いしノイズも少なくて、果てしなく音量が上がる感じも良いですね。
     CLEAN BOOST/OVERDRIVEの切り替えもとても良くて、CLEAN BOOSTはソロの音量アップに威力を発揮すると思うし、OVERDRIVEはアンプを鳴らしているようなナチュラルな倍音のニュアンスが気に入りました。倍音が増えることによって弾きやすくなるしフレージングも変わりますね。
     ギターでも弾いてみましたけど、やっぱりEQは扱いやすいし細かい調整ができます。シェルビング/ピーキングの違いも明確になりますね。ブーストは音が太くなるし、質感もグレードアップすると思います。

    ▼ IKUO’s Setting ▼

    ●製品に関するお問い合わせは、ミックスウェーブ株式会社まで
    ✉️pa_info@mixwave.co.jp

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