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    【ベースの日】IKUO×日向秀和 ブルーノート東京を熱狂させたダブル・ベース・ヒーローの共演

    • Text:Zine Hagihara, Koji Kano
    • Photo:Takashi Hoshino

     ベース・マガジン 2020年11月号(Autumn)の表紙を飾ったIKUOと日向秀和(ストレイテナー/Nothing’s Carved In Stone/etc.)。圧倒的にテクニカルなプレイを楽曲中で効果的に活用するIKUOと、ブラック・ミュージック由来のグルーヴ・センスをロックに昇華する日向という、異なるスタイルを持つベース・ヒーローたちの哲学には“歪みベーシスト”という共通項があった(そんなふたりの邂逅の模様の一部は下記の動画でも確認できるので、あわせてご覧いただきたい)。
     この取材をきっかけにふたりは意気投合し、取材現場にてセッション・ライヴを行なうアイディアが生まれた。その現場となったのは、2020年11月11日……“ベースの日”のブルーノート東京である。ここではそのセッション・ライヴの模様と、彼らが当日に使用した機材類を紹介していこう。

    ふたりのベース・ヒーローが混ざり合い、
    生まれるは無限に広がる宇宙のグルーヴ

     この日のライヴは1stと2ndの2ステージが行なわれた。ここでは、ストリーミング配信の“行なわれなかった”1stステージを中心にレポートしていこう。2ステージとも事前の打ち合わせは一切なし、まさにぶっつけ本番の完全フリー・セッションとなった。

     1stステージのオープニング。会場が拍手で包まれるなかIKUOと日向が登場し、おもむろにベース・デュオで演奏がスタートした。そこには拍子の概念はなく、ただ感じたままに速いパッセージを弾き合うふたり。まるで挨拶を交わすかのような掛け合いだ。双方ともリヴァーブがかったサウンドにより奏でられる旋律は雄弁にそれぞれの個性を語り、大きな流れから徐々にリズミックに変化していく。そのさまはひとつのストーリーの誕生を感じさせた。

    左からIKUO、日向秀和

     ベース・デュオの演奏が続くなか、スタジオ・プレイヤーとして活躍する敏腕キーボーディストの中村圭作が登場。華やかなエレピのサウンドがデュオに彩りを加えると、ふたつのベース・ラインは徐々にユニゾンしていく。それに対して、次に現われた松下マサナオ(d/Yasei Collective)はシンバルをクレッシェンドしながら鳴らして躍動感を生んでいった。最後にSOIL&”PIMP”SESSIONSのタブゾンビ(tp)が参上し、トランペットを高らかに鳴らしてアンサンブルが完成する。その音像はまさにサイケデリック。無限のリズムの螺旋が、聴くものを恍惚の境地に誘う甘美なループ・ミュージックだ。日向がアフロ・テイストなファンク・リフを繰り出すと、松下はバス・ドラムを4分でキックする。それに反応したIKUOがすかさずスラップをプレイしてダンサブルなグルーヴが届けられた。

    中村圭作(k)
    松下マサナオ(d)
    タブゾンビ(tp)

     次のセッションは、松下のファンキーなドラム・プレイから始動した。それに対してIKUOは、愛器のESP製AMAZE-5-190でヘヴィなスラップ・プレイを繰り出す。歪んでいながらもミッドの効いたアグレッシブなサウンドが聴くものを圧倒する。一方の日向はオクターバー・サウンドでアンサンブルの低音部をブーストしてウワモノをリードし、タブゾンビのトランペットと中村の鍵盤がリヴァーブの効いたサウンドで歌う。言うならば“モダン・フューチャー・ダブ・ミュージック”といったところか。レゲエ調な裏打ちキーボードに対して、日向のオクターバー・サウンドやIKUOのアグレッシブなスラップが見事にマッチして新たな聴き心地の音楽を生み出す。高度なインプロヴァイズによって起きる化学反応に唾を飲み込んだ。

     MCを挟んでから、地を這うような低音で次のセッションが始まった。だが、この低音は松下のドラム・パッドによるサンプリング音声で、それに対してIKUOは、手元のツマミを操ってハーモニクスとヴォリューム奏法を組み合わせた装飾音的アプローチを鳴らし、日向はエフェクティブなサウンドで粘りのあるメロディをプレイする。パッドによる低音がアンサンブルの最下部を支えているためか、より自由な発想でふたりはベースをプレイし、さらにそのアプローチにそれぞれの個性が表われているのがおもしろい。日向が徐々に低音部でのプレイに移行すると、IKUOがベース・ソロを展開。高速の3フィンガーで充分なインパクトを与えてから高音部で音を伸ばし、そしてリア・ピックアップ付近でピッキングするファンキーなリフへとつなげていく。短いベース・ソロのなかにもしっかりと起承転結があり、スリリングなフリー・セッションのなかで自身の腕っぷしを発揮するIKUOの実力を再認識した瞬間だった。

     トラップ・ビートを想起させるゆったりとしたセッションを経て、MCでは最後の楽曲のテーマを観客から募集するというコミュニケーションが行なわれた。出されたお題は“ドリーム”。夢は下積みがあることで成功することから“途中でマイナーをメジャーに転調しよう”と宣言し、DREAMの“D”マイナーでアンサンブルが動き出した。ここでのIKUOはローB弦を鳴らして重低音で勝負。日向のトリルを混ぜながらときおり強くピッキングするトリッキーなプレイとの対比は高低差があり、同じベースという楽器でありながら、アプローチ次第ではアンサンブルのなかでの位置は自由自在に移動できることに気づかされた。徐々に演奏は熱を帯びていき、松下がブラシからスティックに持ち替えたタイミングで、宣言どおりにDマイナーからDメジャーに転調。日向のアルペジオとIKUOのヴォリューム奏法によってふわふわとした抽象的なリズムに変わっていき、ヒーリング・ミュージックを思い起こすような優しい表現でセッションは終了。スピーディかつアグレッシブなプレイから、癒しを与える甘美な聴き心地まで、非常に振り幅のあるインプロヴァイズで1stステージは幕を閉じた。

     2ndステージもベースのデュオからスタートし、感じたままに演奏するIKUOと日向を中心に高次元の駆け引きが満載のフリー・セッションが届けられた。ルーツからプレイ・スタイルまで、ほとんどの要素が異なるふたりが絡み合うことで、お互いの新たな一面を引き出し合っていたのではないか。スリリングに次々と展開するベース・アプローチの連続を観るとそう感じてしまう。確かに今回の企画の発端となった“歪みベーシスト”という点において共通しているふたりだが、ひたすらに研鑽を続けて自身のアイデンティティを確立し、その名をベース界を超えて轟かせているという意味で、IKUOと日向は多くのプレイヤーから羨望の眼差しを集める“ベース・ヒーロー”であることがなによりも大きな共通点なのだ。そんなふたりの一発勝負のフリー・セッションを堪能できたこの日のブルーノート東京のステージは、なんと贅沢だったのだろう。

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