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FEATURED BASSIST-辻村勇太[BLUE ENCOUNT]
- Interview:Kengo Nakamura
それは自分のなかで“音楽”じゃない。“音”で決めていないじゃないですか。
━━簡単にやっていそうなことこそ難しいという部分では、「あなたへ」のギター・ソロのうしろの“ドゥットゥー、ドゥットゥー”という音価は、まさにベースが全体のグルーヴを生んでいる好プレイだと思います。
そうなんですよね! あの曲はベースのリズムによってはめっちゃ軽くなっちゃうんですよ。ギターの軽いストロークに乗りすぎちゃうと、めちゃくちゃダサくなる。この曲はみんなでハンド・クラップしているようなイメージで、そこに対してゴスペル的な黒さでいたいなって。そういう意味では、ブラック・ミュージックというかR&Bもそうですし、昔のモータウンとかもそうですし、そういった音楽を聴いているのと聴いていないのじゃ、出てくるフレーズとか好きなリズム、欲しいグルーヴが全然違ってくる。BLUE ENCOUNTって、激しいバンドっぽい曲と、「あなたへ」みたいなポップスな曲もあるので、その2軸が使えるバンドってやっぱりすごいなって思うんですよ。自分自身も“ロック系のベーシスト”っていう枠だけには留まりたくないし、僕が好きなベーシストはロックを弾いてもポップスを弾いても極上なプレイをしますしね。
━━「あなたへ」のギター・ソロ後のBメロの前半は、ハイポジでスタッカート気味に弾いていますよね。その前のセクションが大きなグリスを低音弦で弾いているので、いい対比になっていると思います。
ここは和音で弾いていますね。この部分は、みんながわりと上に行っているから、あえて僕は下に行く考えもあるんですけど、それだと全体的に“上がっている”感じがしない。最初は下で弾くことを考えていたんですけど、テンション感がほかの人たちと合わないなって思ったから、そういう支え方ではないんだなと……って、めっちゃ理由をつけていますね、僕(笑)。
━━それって、今インタビューで聞かれたから改めて自己分析しているだけで、実際の現場では感覚で判断しているんですか?
そうですね。だから自分で言っていてびっくりしてます(笑)。
━━そうやってあとからでも分析できるっていうのは、ちゃんと自分のなかでの方法論が構築されていないとできないことなのかなって思うんです。そういう意味で、辻村さんってすごくクレバーなベーシストだと思っていて。
そうなんですかね(笑)。ただ、感覚的なことも理論的なことも、どっちも持っていたいなとは思うんです。ちょっと話はズレるかもしれないんですけど、ジャコがピアノを弾いている動画を観て衝撃を受けたことがあるんですね。あまりにうまいから。あとはマーカスもそうですけど、ベース以外の楽器もうまいじゃないですか。僕も最近ピアノを弾くようになって、久石譲さんとかビル・エヴァンスとかを練習していたりするんですよ(笑)。ベーシストはピアノを弾けたほうが絶対にいいですね。上のコードのことを知らないと、ベースのおいしさもわからなかったりするし、ベースのルートがどうなっているかで、ほかの人たちのアプローチが全然変わってくる。ジャズとかはモロにそういう音楽ですよね。ピアノを始めてから、自分の音での色彩感は増えてきたと思うし、いろんなことを吸収したいなっていう気持ちはいつも持っています。
━━なるほど。そういう姿勢の結実かもしれないですね。ベースのシンプルなプレイの極致という意味では、「ユメミグサ」や「ハミングバード」ではあえて白玉でアプローチしている部分もあります。
白玉は「ハミングバード」のほうが大変でしたね。この曲は全体的にピックでエイトをずっと弾くんですけど、白玉のAメロはピックを持って空いた指でピッキングしているんです。緩急は「ユメミグサ」よりも難しかった。「ユメミグサ」はギターがエイトでミュートしているんですけど、ベースはサビもエイトだし、この曲は激しいこともしていないので、そこの縛りのなかでどう変化をつけるかっていうところで白玉にしましたね。
━━ベーシストにとって白玉って一番勇気のいるアプローチでもあると思うんですよ。
そうですよね、あの間って怖いですから。疲れます(笑)。発音のタイミングや音の切り方も気をつかうし。でも音数があるところから白玉になるだけで存在感が出たりすることもありますよね。ウィル・リーがやっていたセッションで、16分で攻めたあとに4分で“ドゥンドゥンドゥン”ってやると、すごく盛り上がって聴こえたりもして、やっぱりカッコいいなって。うまく使い分けられるようになれるといいですよね。
━━「HAPPY ENDING STORY」はテンポの速い西海岸系パンクですが、的確な休符を挟んだスカ・パンク的なウラを強調したラインのAメロから、Bメロは一転して重ためなスラップで緩急をつけています。
ここはバキバキやりましたね。ギターがリフでパワー・コードを弾いているから普通に乗っかることもできたんですけど、ちょっとミクスチャーっぽくしたくて。あそこだけスカからミクスチャーに行って、そこからメロコアのサビみたいな感じ。レイジ(アゲインスト・ザ・マシーン)とかレッチリも好きだし、ああいうギター・リフに対してスラップで奏でるのって、やっぱりカッコいいなって。ベースもおいしいですし。ただ、ピックの持ち替えがすごく大変ですけどね。
━━Aメロとサビはピックで、Bメロがスラップですもんね。そこで、Aメロやサビを指で弾くという選択肢は?
それはないですね。それは自分のなかで“音楽”じゃないというか、“音”で決めていないじゃないですか。自分の演奏上の都合というか。
━━なるほど。
だから、わりと指弾き派とかピック弾き派っていう話になったりもしますけど、僕はそういう考え方はしないようにしようと思っていますね。理由が“音”じゃないから。見た目やパフォーマンスもすごく大事ですけど、“音”に対する選択肢がなくなるのはイヤなんですよね。今までピックで弾いてきたからこの曲もピックで弾こう、とか。人によって、そういうこだわりがあってもいいとは思いますけど、僕のやることではないかなって。
━━さてアルバム・タイトルの“Q.E.D.”は、“証明終了”とか“これが示したかったもの”という意味ですよね。このアルバムをとおしてBLUE ENCOUNTはどんなバンドで、自身はどんなベーシストだと?
昔からBLUE ENCOUNTって、“どんなバンドなの?”って言われたときに答えが出ていなかったと思うんです。いろんなタイプの曲があって、昔はライヴハウスからも“ブッキングを組みにくい”って言われたりもして(笑)。それに対して、前までは答えを出そうとしていた部分があったし、誰かに教えてもらいたいと思っていた部分もあったんですけど、今は自分たちで答えを出すつもりもなくて。聴いてくれた人が“これがBLUE ENCOUNTだ”、“これがベーシストの辻村勇太なんだ”って思ってもらったら、もうそれがどんなものでもいいというか。
━━いい意味でお客さんの反応を気にしないというか。どう思ってもらっても俺たちは俺たちなんだっていう。
そうですね。もちろん感謝はありますけど、前ほど臆病じゃないという感じですよね。お客さんに対して、“これを気に入ってくれるかな?”ではなく、“これでドヤ!”って感じ。自分たちが思うBLUE ENCOUNTらしいことができてきたのかなって感じではありますかね。そして『Q.E.D』って、本当はDのあとにもピリオドが付くんですけど、今回のタイトルでは入れていないんです。それは、ちゃんと次へ向かっているよっていうことでもあって。ベーシストとしてもバンドとしても、ここでひとつの形を提示はできたし、これが今の全力っていうのを受け止めてもらったうえで、次はまたどんな角度で来るのかなっていうのを楽しみにしてもらいたいと思いますね。
◎お知らせ◎
2021年1月19日発売のベース・マガジン2021年2月号にも、辻村のインタビューを掲載予定。本インタビューとは別内容でお送りします。お楽しみに!