SPECIAL
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FEATURED BASSIST-辻村勇太[BLUE ENCOUNT]
- Interview:Kengo Nakamura
感情を裏付ける理論。理論を超える感情。
感情をダイレクトに叩きつけ、エモーショナルで熱いライヴを展開するロック・バンド、BLUE ENCOUNT━━と紹介すると、なんともその姿がイメージしやすいバンドのように思えるが、その実、BLUE ENCOUNTは実態を掴みづらいバンドなのではないかと思う。“エモい”ギターロックもやれば、テクニカルなミクスチャー・チューンに、小洒落たポップス、日本人の琴線に触れるバラードもあり、卓越したメロディ・センスを生かしたジャンルに縛られることのない音楽性で、常に自己を革新し続けてきたバンドだからだ。そして同時にそれはベーシストの辻村勇太にも言えることだと思う。ロックをルーツにしないと公言しながら誰よりもロック的なカッコよさを体現し、本能的・感覚的なライヴ・パフォーマンスを行ないながら綿密に練られたベース・プレイを聴かせる。そのアンビバレンツな重層さが、彼らの魅力だとも思う。2年8ヵ月ぶりのフル・アルバムとなる『Q.E.D』でも幅広い音楽性は健在だが、そこには、これまで以上に芯の強さを感じさせるたくましさがある。彼らはこの『Q.E.D』で、何を“証明”しようとしたのだろうか。
INTERVEIW
一般の人にも“ベースってカッコいいな”って思わせたい。
━━『Q.E.D』は前作から2年8ヵ月ぶりのアルバムとなります。この間、コロナ禍ということも含めて、どういった期間でしたか?
いろいろなものを削いで研いで、ちゃんと刀を自分で整えられたかなって感じですね。特にコロナ禍のなかでは表立った活動は少なかったですけど、逆に、このタイミングだからこそロックのことは一度置いておいて、いちベーシスト/ミュージシャンとして勉強もできたんですよ。普段の忙しいなかではそこまで深く聴けなかったり、聴いてはいてもあんまり深く理解できなかったりしたジャズやクラシック、キューバ音楽なんかも聴いたりして。あとはオンラインでいろんなミュージシャンとセッションもやりましたね。改めてベースがうまくなりたいって思いましたし、すごくいい機会でした。
━━BLUE ENCOUNTとしては、昨年9月に出したシングル「バッドパラドックス」で初の外部プロデューサーとして玉井健二さんを迎えましたが、これについてはどういったフィードバックがありましたか?
玉井さんに参加していただいたことで、これまで僕たちが感覚でやっていたことを言葉や音楽理論で具現化して会話できるようになったんです。あとは、アンサンブルやグルーヴといったものに対して、これまではそれぞれのメンバーが自分なりに出した答えを持ち寄って、そこからバンドとしてのひとつの答えにまとめていたようなところがあったんですけど、「バッドパラドックス」は玉井さんが出してくれた答えに対してみんなで意思統一して向かっていけた。玉井さんがいるといないとじゃ、アルバムの新曲も全然違ったと思いますし、それだけバンドとして大きかったですね。
━━ベースに関しては何か話はありましたか?
実はベースに関してはまったく言われなかったんですよ。玉井さんには、ヴォーカルの息づかいとか歌詞、ギターの右手のストロークというところを見ていただいて。「バッドパラドックス」はミックスのときにベースの音がすごく上がっていて、“ベースはこれくらい聴こえたほうがいいよね”って言ってくださったんです。あそこまでベースを聴かせる曲を作れたのは嬉しいですし、玉井さんからはいい意味で本当に何も言われなかったので、逆に、自分が信じてきた道が合っていたんだろうなっていう自信にもなりました。
━━「バッドパラドックス」はイントロからスラップのベースが目立つダンス・チューンで、そのスラップがいなためのサウンドですね。
そうですね。サンズアンプとかでパキパキしたサウンドもいいんですけど、自分のルーツというかジャコやモータウンなど、いつも自分の頭のなかで流れている、ずっと鳴らしたいと思っていた音があって、それっていわゆる“フェンダー・サウンド”だったんですよね。これまでは自分が好きな音だとしてもうまく曲と混ざらなかったりもしたんですけど、今回はちゃんとまわりを納得させられる音が出せたと思います。2018年の9月に1962年製のジャズ・ベースを手に入れて、確かこの曲がそのベースを使って初めて弾いた曲でした。
━━そうやって印象的なスラップで曲は始まりつつも、2Aや3Aは指弾きのスピーディなリフになり、サビでも安易にオクターヴ・スラップにいかずに重厚なルート弾きをして、“スラップ推し”の曲にはなっていませんね。
4つ打ちのドラムに対してディスコ的な4つ打ちのベースって王道ではあるし、キライではないですけど、この曲の世界観はそことは違うかなと思ったんです。キーボードやストリングスが入っていなかったら、もうちょっと変わっていたかもしれないですけどね。例えばエイトとオクターヴを混ぜて弾くとか。それに、高音も混ぜて目立つ音を作るのは簡単ですけど、バスドラとかギターの低音弦でのミュートも含めて低音楽器が鳴っているなかでも負けずにちゃんと低音のフレーズを聴かせるのはベースの本質でもあると思っているし、そこについては意識しているところではありますね。
━━ギター・ソロの最後ではギターとのユニゾン・フレーズがありますが、繰り返されるフレーズの最後のアタマだけハモりにしているのが、なんともオシャレです。
ありがとうございます(笑)。こういう部分は入れてみたくなりますね。曲によりますけど、ベースって音も小さくて何をやっているかあまりわからないみたいに言われることもあるから、一般の人にも“ベースってカッコいいな”って思わせたいという気持ちもあって。こういうところで耳に残るといいなって思います。一歩引いて黙ってしっかりと届ける曲も大事だし、どうカッコよくなるかをベースで攻める曲も大事なので。
━━本作でのベースの派手なプレイというと、「VOLCANO DANCE」の高速スラップはインパクトがありますね。
これは大変です(笑)。この曲はほぼスラップでやっていて、スラップのフォームも、親指を立てるフォームと横にするフォームをけっこう変えながら弾いているんです。今までのBLUE ENCOUNTの曲にも、こういうアプローチの曲はあったんですけど、この曲はテンポが速いから、その切り替えも速いんですよ。自分がコピーする側だったら、この曲はイヤだなって思いますね(笑)。
━━でも、これはベース・キッズにはぜひチャレンジしてもらいたいですね。弾けたときの爽快感がすごそう(笑)。
この曲は僕がアレンジも担当させてもらったんです。6、7年くらい前からあった曲なんですけど、今とは全然アレンジも違って。これまでもシングルの候補としてあがることもあったんですけど決めきれずにいて、今回のアルバムで久しぶりにやってみようってことになり、アレンジを任されたので、これはベースはやってやろうと思いました(笑)。
━━アレンジはベースのフレーズから始めたんですか?
いや、全体です。曲を作ったりアレンジをすることも増えてきたんですけど、僕はベースが最後のほうがまとまりやすい。ベースを先で考えると、ほかの引き算を考えなきゃいけなくなって、“これはもしかして、ベースじゃなくてドラムのフィルを入れたほうがおいしくなるかも”って思ったりするので。だからベースの最初はルート弾きだったりもして、そこから全体を作って、その間を縫ってベースを固めていくんです。
━━隙間を縫った結果がこのフレーズっていうのもすごい(笑)。
そうですね(笑)。言ってみれば“濃度を上げる”イメージですね。最初はめちゃくちゃ音数も少ない感じでやって、“これだとスピード感が足りないな”とかで、だんだん濃度を上げていって、マックスまでいったのがこれです。
━━またこの曲は、中間のブレイクダウンの歪みベースの音が強烈ですが、これはどのように音作りをしたんですか?
あれは江口(雄也/g)のエフェクターを借りました。weedでモディファイしているギター用のオーバードライブですね。Aメロのスラップも同じ音で弾いていて音のツブ立ちがめちゃくちゃ粗いんですけど、あえてそういう感じにしてみました。ダークグラスとか、いろんなベース用の歪み系エフェクトも試したんですけど、ギター用のものが一番弾きやすかった。楽曲の世界観にマッチしていたんでしょうね。