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    <祝!デビュー30周年&映画大ヒット>柏原譲 フィッシュマンズ時代のアーカイヴ・インタビューを特別公開

    • Photo:(C)2021 THE FISHMANS MOVIE

    柏原譲『ORANGE』リリース時インタビュー(1994年11月号)

    ロンドン・レコーディングが敢行された4thアルバム『Orange』1994年11月号のインタビューでは、ベース・ラインにおけるヒップホップからの影響、またのちに柏原のサウンドを語るうえで欠かせない存在となるフォデラへの言及など、同作の制作背景についてはもちろん、次作からの“世田谷三部作を予感させるキーワードも顔を見せていた。

    色気のあるグルーヴがいい
    ベース単体じゃなくて、ほかの楽器との絡みのなかでね

    どのジャンルにも納まりきらない、不思議な世界をくり広げるフィッシュマンズ。アルバム・リリースのたびに彼ら特有の斬新な感性に驚かされてきたが、通算4作目にあたる新作『ORANGE』もまたしかり。彼らの無国籍ぶりがますます発揮され、従来のサウンドにロックのスパイスをより多く振りかけたような仕上がりだ。ウネったサウンドでバンドを先導するベーシスト、柏原譲に直撃インタヴューした!!

    ORANGE』(1994年発表)

    いわゆる普通のベースは苦手。

    ━━ロンドンでのレコーディングはどうでした?

     うちのバンドの場合、別にロンドンの音が欲しいということで行ったんじゃないんですよ。ただ、楽しそうかなということで(笑)。環境が日本より開放的になるかな、ということでただロンドンに行ってしまったんですよ。香港っていう話も前にあったんですけど、暑いだろうということで。でも結果的に良かったですよ。日本で一番暑いという時期に向こうへ行ってたんで。15度ぐらい違いますから。夜は長袖を着てないと凍え死んでしまうんですよ。

    ━━機材とかの面で、不都合はありませんでした?

     特になかったです。楽器は向こうでジャズ・ベースのオールドを借りたんですけど、逆に日本じゃそんなの借りられないから。楽器を貸すようなところはあまりないからね、そういう部分では感心しましたね。“こういう商売があるんだな”って。

    ━━新作では、どのようなベース・サウンドを作ろうと思ってたんですか?

     基本的には今までと変わらないんですけど。まあ、今時の音じゃないですよね、ハイファイな音じゃないというか……まあ、僕はずっとそれでやってるんですけど。そうやろうと思ったわけじゃないんだけど、自分の好きな音を普通に真空管のアンプにつなぐ、というのをやりたかったんで。わりとレコーディングになると、アンプも使わないんですよ。DIとかも使わない。チューブのマイク・アンプっていうのがあるんですけど、それに直接挿してしまって、そこから卓に送るんです。その状態でほとんどEQもせずに、ベースの素の音で録っておいて、あとからEQでカットしていくという感じなんです。

    ━━柏原さんの音って、特殊な音ですよね?

     普通かなって思ってたんですけど。たぶん弾き方じゃないかな。それはドラムとのコンビネーションでもあるんですけど。たとえばジェームス・ジェマーソンとかを聴いてると、うちのバンドはドラムとベースの関係が普通と逆だと思うんです。普通ベースだと“ドーン”とか“トーン”で表わすじゃないですか。でも僕の場合は絶対“トゥー、ン”って入っちゃうんですよ。そういうラインを作るように心がけてるから、そう聴こえると思うんですけどね。

    ━━では、奏法的に何か変わったことをやってるというわけじゃないんですね?

     うん、全然。あ、ただちょっとあれかな。僕はレゲエとかが好きで……普通はジャズ・ベースだったらフロントのピックアップの上で弾くのが標準なんですけど、レゲエの場合はもっとネック寄りなんですよ。ネックとボディのジョイントしている部分の上あたりだから。かなり立ち上がりとかも遅いし、倍音とかもそんなには出てないですよね。そういう音のほうが自分の作るラインには合ってるから。ただテンポとかで弾くところは変わりますけど、基本的にはそのへんで弾く。

    ━━粘っこいしっとりとした音じゃないですか?

     そうですね。ネック寄りで弾いて、そう聴こえるタイミングで弾けば、そのような音が出ると。まあ、伸びるように弾こうとしてるから。そう、普通よりタッチもすごい弱いし。本当はジャズ・ベースを弾く人って、強く弾かなきゃダメだって言うじゃないですか。それが気持ちいい歪みを生んだりするわけだけど、僕は全然違うんですよ。弱く弾いたほうが、ハイからローまで絶対に出てるし、歪まないでそのまま取り込めるんで、あとから作りやすいんですよ。

    ━━音数も少なくてシンプルですけど、耳に残る変わったラインですね。わざとハズしているんですか?

     やっぱ、何かがハズれてるように感じるんですねぇ。最近、あまり普通のベースというのを聴いてないんで……もちろんレゲエが多くて、あとはヒップホップとか。ヒップホップのベースって、サンプリングして適当に小節を切っていくじゃないですか。そういう意味で、感覚は麻痺しているかもしれませんね。逆に、普通だと言われるものをやろうとすると、苦手だなーって。

    無茶できるのがバンドのおもしろさ。

    ━━今、何か欲しい機材はあるんですか?

     ニューヨークの手作りのやつが、けっこうあるでしょ、フォデラとか。そういうのが欲しいですねぇ。スタインバーガーとかって全然嫌いなんですよ、見た目が。ライヴとかでは絶対に使いたくないんだけど、音はやっぱいいんですよ。だから、わりと上から下までドーンと出てて、それでいて色気があるみたいなベースを探してるから。そういうのがあったら欲しいですね。そういう意味で、ハンドメイドのが一番しっかりしてる。しっかりしてて、色気がある。音もドーンとしてるし。

    ━━自分にとって色気があるベースとは?

     難しいんだけど、僕の場合はグルーヴに色気があったら“いいねえ”って感じますね。ベース単体で色っぽいというのは、自分のなかではありえないんですよ。ほかの楽器との絡みのなかで、というのが自分にとっては一番いいですね。

    ━━今回、特に気に入ってる曲はありますか?

     「MELODY」という前にシングルになった曲があるんですけど、それを再録したんです。それが気に入ってますね。自分のなかでは色っぽいんですよ。あとは「気分」と「忘れちゃうひととき」というのが好きです。

    ━━ベース・ラインで特に苦労したのは?

     「感謝(驚)」かな。時間がなくて、デモとかも何もなく3日前ぐらいに詞とフォーク・ギターだけで来た曲で。アレンジを含めて急いでやったんですけど。だから、ほかのパートがどう来るかわからなかったから、その場で変わっていった曲なんです。それが苦労と言えば苦労ですね。で、この曲はさらに、最初いいのが録れてたんですけど、それが消されてしまったんですよ(笑)。それが苦労かな。アシスタントの人が日本人と全然遅って、パンチ・インするという考えがないんです。最初に1曲目を録って“パンチ・インしてみようかな”て言った途端にもう走らせてて、消してたんですよ。それで、その先パンチ・インはやらなくなってしまったんです。自分では消されたほうのが良かったんだけど“まあ、これもいいかな”と。エンジニアの人にも説得されて“これも、いいよ”とかって(笑)。やっぱ、いいテイクが残ってないというのはツラいですよ。

    ━━何か新しいものを見つけるために、普段からいろんな音楽を聴いてるんじゃないですか?

     そんな変わったものは聴いてないですけどね。最近はMTVをよく観てますね。もう暇な日は、1日6時間とか8時間とか観るんですよ。ただ、ぼーっと観てるんです。いろんなタイプの人がいるじゃないですか。まあいろいろ文句付けながら観てるんですけど、“つまんねえなあ”とか(笑)。それが結果的に瞬間的な判断につながってるんで、自分にはいいトレーニングですね。特にベースを聴いてるというわけじゃないんだけど、感覚を養うにはいいんじゃないかな。

    ━━今回メンバーに言われたことはあったんですか?

     キーボードの人とはコードとかでぶつかりますね。あんまりコードを考えてベース・ラインを作るほうじゃないんで、どうしてもコードのなかでいうととんでもない音を使ってたりするらしいんですよ。それを直そうとすると“いいところがなくなっちゃうんだよ”みたいな。でも大事な音は変えないで1個だけ経過音を入れて“ホラ、入ったでしょ”とか言ってだましたりしながら(笑)。要はお互いに“それ、あまり好きじゃないよ”って言ってんだけど(笑)。そんなもんでもできあがりを聴いてみると、もとからこうだったような気がするから、それは不思議ですよね。それに自分の考えてたものと違うから、結果的には楽しいんです。

    ━━それがバンドでやることの意義みたいなところですね?

     そうそう。バンドじゃないと、そんな無茶できないですよ。セッションとかだと、第一に人と合わせなきゃいけないですからね。バンドは、その無茶できるところがおもしろいんでしょうね。

    ━━最後に新作の聴きどころをお願いします。

     ほとんど一発録りなんで、生のグルーヴが聴けます。全9曲のオリジナルなポピュラー・ミュージックを、いろいろ楽しんでください。

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