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INTERVIEW – 堀江晶太[PENGUIN RESEARCH]

  • Interview:Koji Kano
  • Live Photo:Viola Kam[V'z Twinkle]@vizkage

一瞬でカッコいいと思えるベース・フレーズが今の時代におけるベースの花形。

━━前述した“魅せる”プレイがありつつ、「祝祭にて」や「千夜祭」などルートに忠実な、シンプルなベース・ラインで構成された楽曲もありますよね。こういったアプローチを聴いていると、曲ごとにベースの立ち位置が明確に違っている点が読み取れます。

 やっぱり“楽曲と歌が望むようなベース・ライン”を弾きたいとは思っています。だからルートだけ弾いている曲は、それが一番楽曲を喜ばせる選択だったということ。さっき言った音のリリースとか減衰っていうのは、実はこういうルート弾きの瞬間にこそ意識すべきだと思っています。

「千夜祭」Music Video

━━というと?

 8ビートに乗せるルートって、どうしても“ダーダーダー”ってシンプルに弾きがちだし、リズムとかグリット上に収まっていればOKって考えがちですよね? でも音の粒の性質を理解しつつ、イメージした減衰から逆算して弾くことでまったく違う聴こえ方になるんですよ。ピック弾きでは特にそれが顕著だからこそ、自分の身体と楽器の相性を理解したうえで、ピックのアングルや右手の角度による減衰の仕方から逆算したアタック感で弾くようにしています。

━━では楽曲ごとにピッキングのニュアンスをコントロールしているということ?

 ビートとか楽曲としての見せたい風景で変えていきますね。ちょっとした変化かもしれないけど、その変化がすごくおもしろいんですよ。シンプルな8ビートでもピッキングのニュアンスを変えていくことで聴こえ方は変わってきますから。コンプとか歪み感、アンプかラインかでもリリースの減衰は大きく変わる。だからその場に応じて総合的に判断しつつ、自分の理想とする減衰を目指しています。

━━ベースの音作りで言うと、極めてクリーン寄りな楽曲もありつつ、「千夜祭」のようなピックのアタック感/ドライブ感を感じる楽曲もあったりと、サウンドのコンセプトも明確に分けられているように思います。こういった音色のコントロールはどのように?

 まずベースを歪ませることによる一番の影響って“粘り感”だと思っていて。だからリリースのニュアンスを粘らせるために歪みを加えることが多いですね。クリーンよりも粘ってほしいと思う楽曲なら歪みを入れたりとか。今作は音色別にいくつかベース・トラックを複製していて、それをブレンドしているんですよ。全体の音像に干渉するディストーション寄りのサウンドとか、シンセ・ベースみたいなぐちゃっとしたファズっぽい音は別のトラックで作っておいて、欲しい歪み感に応じて各トラックの音量を調整しています。楽曲ごとにそれらの塩梅を調整しましたね。

━━では、今作の録音で使用したスティングレイ以外のベースを教えてもらえますか?

 今回一番使ったのはフェンダーのジャズ・ベースで、ここ最近はレコーディングのメインとして使用することが多いですね。すごく使いやすくて、木材ならではの豊かなサウンドを持った一本なんです。そのぶんネックも太いんですけど、“この音が欲しい!”ってときはフェンダーを使いますね。

1〜2年ほど前に導入したという、フェンダー・ジャズ・ベース。主にレコーディング時のメイン器として使用され、今作のレコーディングでもメインで活躍した一本。“普通のジャズ・ベースではあるんですけど、すごく太いローを持っています”。

━━ちょっと視点を変えた別枠の質問をしたいのですが、堀江さんはボカロP(kemu名義)としても精力的に活動しているわけですが、ボカロのベース・ラインは特に個性的なものが多いと思っています。昨今のボカロ・シーンにおけるベース・ラインの特徴としてはどういったことが挙げられますか?

 ここ最近は特にミニマムでありながらも印象的なベース・フレーズが聴こえてきますね。この“ミニマム”っていうのは、一瞬でわかるループ・フレーズというか、2秒以内にフレーズが認識できるような、堂々としたベース・ラインが多いと思います。聴いたら一瞬で“あの曲のフレーズね”みたいな、楽曲の主軸になったラインが多いように思うし、自分自身も好きだなって思います。それはメロディとか音楽全体の流れとリンクしている部分でもあって、もちろん一曲かけてストーリーを作り上げるのも素晴らしいけど、一瞬でカッコいいと思えるベース・フレーズが今の時代におけるベースの花形でもあるのかなって思います。

━━そういう意味だと、今作でのベース・ラインは一瞬で“堀江さんのフレーズ”と印象付けられるプレイが揃っていますよね。

 ありがとうございます。それが最近の自分の思想でもあるし、特別暴れなくても一瞬だけ印象的な動きをすれば、曲を通して印象に残せると思っています。個人的にはその一瞬に集中するほうが向いているような気もしていて(笑)。だから常に耳に残す必要はなくて、リスナーにはアンサンブルで気持ちよく感じてもらえればいいし、その一小節、ワン・フレーズに関心をベースに向けてくれればいいなって思うんです。ベースの良いところって一瞬で印象を残せる部分だと思うので、こういったベースの特性は大いに活用していこうと思います。

━━では最後に、改めて今作を振り返りどんな一枚に仕上がったと思いますか?

 バンド/アーティストとしての軸で言うと、純粋に今やりたい、我々らしいバンド像を作れたと思います。そういう自負もあるのでたくさんの人に聴いてもらえたら嬉しいです。ベース/楽器軸で言うと、アンサンブルにおける自分の出音のコントロールによってどう楽曲が変化してどう各メンバーの音と融合するかを意識して作った一枚なので、フレーズはもちろん、アンサンブルとしての表情とか波を気持ちよく感じてもらえる作品に仕上がったと思います。

◎Profile
ほりえ・しょうた●5月31日生まれ、岐阜県出身。学生時代からDTMに没頭し、上京後、音楽制作会社に入社する。2013年からは独立し、LiSA、茅原実里、ベイビーレイズJAPANらの楽曲の作編曲を手がけた。2015年に自身のバンド、PENGUIN RESEARCHを結成し、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャー・デビュー。2023年5月10日 には3ndフル・アルバム『逆光備忘録』をリリースした。また、ボーカロイド・クリエイター“kemu”名義での創作活動も行なう。

◎Information
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堀江晶太 Twitter