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INTERVIEW – 堀江晶太[PENGUIN RESEARCH]

  • Interview:Koji Kano
  • Live Photo:Viola Kam[V'z Twinkle]@vizkage

衝動と感情が織りなす、クリエイター型ベーシストの“野生”

PENGUIN RESEARCHのベーシスト兼コンポーザー、“kemu”名義でのボカロP活動、そしてアーティストへの楽曲提供など、堀江晶太の音楽活動は多岐にわたる。その姿はまさに生粋のクリエイター型ベーシストと言えるだろう。PENGUIN RESEARCHの新作『逆光備忘録』でもメイン・コンポーザーを担った堀江は、タイトルにもある“光”をテーマに楽曲を導き出したというが、特筆すべきは、“堀江印”とも言える楽曲ごとに表情を変える独創的なベース・プレイの数々。“ロック・ベーシスト”としての堀江の頭脳を覗いてみると、そこには“衝動と感情”というキーワードがあった。感情むき出しで迫りくる今作でのベース・プレイの裏側、そしてベーシストとしての信念を語ってもらった。

“ステージに上がる生き物であり続ける”っていうのは大事なこと。

━━堀江さんはベーシストであると同時にメイン・コンポーザーとしてバンドを牽引する存在でもあるわけですが、3枚目のフル・アルバムとなる今作『逆光備忘録』にはどのようなコンセプトを構想していたんですか?

 あまり気負わずに今の自分たちが作りたいものを作りつつ、ちゃんとバンド活動している感じというか、“やる気ありますよ!”みたいな部分を世間に見せたかったんです(笑)。自分たちのことを忘れられないようにアルバムを出して、リリース・ツアーを回りたいって思いがあったし、何よりPENGUIN RESEARCHでライヴしたかったんですよね。だから今作は特定のリスナーやシーンを狙ったものではなくて、理想とするバンド像というか、“我々ってこういう音楽がやりたかったよね”って部分を第一に制作を進めていきました。あと僕はバンド以外の活動も多いので、自分としてもバンドへの強い意欲を見せたかった、というのもありますね。楽曲が揃っていくなかで、タイトルにもある“光”をメイン・テーマとする案が出てきたので、光/影、明/暗、美しい/醜いとか、そういう“対比したもののなかで眩しいものを見る”ってコンセプトに仕上がった一枚ですね。

━━その“光”には、どのようにインスパイアされたんですか?

 「FORCE LIGHT」を書いているとき、なんとなく“光”のことを歌っているイメージが湧いて。もともと光とか美しいものへの憧れが自分にはあって、同時に眩しい場所とか、光を自ら放つことに対してコンプレックスを抱いていたんです。そういうのは自分がすることじゃないというか、自分は光を浴びるような人柄じゃないというか……。PENGUIN RESEARCHって元気な人とか明るい人はいるけど、そういう思いを持っているメンバーが多いんですよ。だからあえて僕らから見える光、僕らなりの眩しいものを書こうと思った。やっぱり眩しいものは眩しいし、美しいものは美しい。そこから目を背けるのではなく、肩肘張らずに美しいものを作ってみようって思いでしたね。

『逆光備忘録』
ソニー/VVCL-2233(通常盤)
左から、堀江、新保惠大(d)、生田鷹司(vo)、神田ジョン(g)、柴﨑洋輔(k)。

━━堀江さんはPENGUIN RESEARCHのほかにもkemu名義でのボカロP活動、アーティストへの楽曲提供など多方面で活躍していますが、バンド楽曲と提供曲ではどのように頭を切り替えているんですか?

 バンドの場合は楽曲の原案が自分たち自身になってくるので、まずそこから考えなきゃいけないって部分がありますよね。それが楽な人もいればそうじゃない人もいるけど、自分は後者。だから自分たちの楽曲だと、我々は何を歌いたいのかとか、そこから考える工程が必要になってくるので、自問自答する必要があるっていうのは大変かな。

━━バンドの楽曲だと、“ベーシストとしてステージでライヴをする”って部分も大きいのかもしれませんね。

 やっぱりバンドをやっている理由のひとつとして、ステージに上がる自分を残しておくというか、“ステージに上がる生き物でありつづる”っていうのは大事なことだと思っています。そこがバンドをやっている醍醐味でもあると思うので、ライヴのことは強く考えますね。自分たちで作った楽曲を自分たちで披露するからこそ、どうすればライヴで花が開くかなとか、そういうことを考えながら作る必要もありますから。

━━今作にはフュージョン/ファンク・テイストな「フェアリーテイル」など、これまでのPENGUIN RESEARCHにはなかった新しい方向性を提示する楽曲もありますよね。こういった、新しい一面を見せるというのも重視した部分?

 決して無理に新しいことをやろうとしたわけではなくて。ウチはメタルが好きなドラムの新保(恵大)さん、フュージョンが好きなキーボードの(柴﨑)洋輔くんがいたりと、いろいろな音楽性が集まったバンドなんです。今までは良い意味でも悪い意味でも“我々はこうあるべき”って考えがあって、それにそぐわない部分はあと回しにしていたところがあったんです。でも今はメンバーが弾いていて似合う曲ってなんだろうって考えるなかで、こういう新しい方向性も自然と出てくるようになった。僕自身も楽曲を作る側として、もちろんリスナーさんに聴いてもらうことも考えますけど、メンバーが楽しそうに弾いてくれる曲とか、セッションしていて楽しい曲を作りたいって思いもあって。せっかくカッコいいメンバーがいるんだから、彼らがもっとカッコよく見える曲を作ろうって思いから自然と出てきた方向性だと思っています。

━━この曲のベース・プレイは全篇にわたってスラップが展開されていますが、ここまで振り切ったスラップ・プレイは堀江さんとしても珍しいような。

 確かにスラップはあまりやってこなかったプレイではあるんですけど、楽曲的にハネ感とかアタック感が欲しかったんですよね。ちなみにこの曲のベースを録ったとき、たまたま車にベースが積んであったから、“ほかの楽器と一緒に録っちゃおう”みたいなノリで録音したんです。今作に関しては一曲も生アンプで録った曲はなくて、スタジオのミキサーにそのままつないでラインで録ったり、そもそも宅録のものも多かったので、ひたすら楽器と自分の力に向き合うレコーディング期間だったと思います。

━━急遽レコーディングというのは、その場でフレーズを構成したということですか? もしくは作曲者であるが故、デモの段階で頭のなかにベース・ラインができあがっているということ?

 僕は昔から思いつきでベースを弾く人間なので、一応デモ段階でベースも弾いてはいるけど、ほかの楽器の動きによってベースのアレンジはその場でガンガン変えていきます。この曲も動いているフレーズはその場で思いついてその場で採用されたもの。だからほかの楽器の様子を見てからベースのフレーズを決め込むようにしています。

━━堀江さんの細かいフレージングって、ある種、計算されているかような緻密なプレイに感じるんですけど、実際は即興だったと(笑)。

 考えると逆に思いつかないんですよ(笑)。ベーシストの友だちにも“どうやって弾いてるの?”ってよく聞かれるんですけど、野生で弾いてるからうまく答えられなくて。だから全体のイメージを想像しながら実際に左手を動かしてみて、好きな場所までハイポジに上がってみたりとか、ふさわしいフレーズを弾くだけ。肉体的にはやりたいことをやるけど、頭では冷静に音楽性とかコード進行を考えながらって感じですね。好き勝手に動いていい部分ってある程度想定できるので、あまり決め込まずにその場の衝動をフレーズに乗せています。だからライヴだとそのときの感情によってフレーズが変わることもありますね。

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