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    INTERVIEW – 堀江晶太[PENGUIN RESEARCH]

    • Interview:Koji Kano
    • Live Photo:Viola Kam[V'z Twinkle]@vizkage

    ベースから生まれる流れが、楽曲全体にどう作用して変化するかを考えるようになった。

    ━━「Crier」はピック弾きだと思いますが、Aメロ部分などで聴こえるスラップ音は堀江さんの個性でもある“スラップ風のピック弾き”ですか? MVだとスラップしているシーンもありますが、レコーディングはどのように?

     MVだとスラップもしているんですけど(笑)、ここはおっしゃるとおり“スラップっぽいピック弾き”なんですよ。実はこの部分だけドロップDチューニングにして、4弦のリリース感にスラップ的なハネを持たせています。でもレコーディングの際はスラップも試したと思います。結局、指・ピック・スラップのそれぞれで一番変わる部分ってロー感なんですよ。指弾きが一番太くロー・エンドを鳴らせる一方、スラップとピックはローのコントロールが難しい。だから奏法を分けるとローのニュアンスが変わってしまうので、低音の質感を一定にするためにピックで完結させています。

    ━━ピック弾きでありつつ、サビ前はギターとタッピングでユニゾンしているのがおもしろいです。

     もともとギターのみのつもりではいたんですけど、ベースも入りたくなったのでレコーディングのときに急遽入れたって感じですね。自分はもともとピアノ弾きだったこともあって、こういう運指はむしろ楽なんです。だから難しい印象はなかったし、ステージ上でベースとギターが一緒にプレイしている画がカッコいいなと思ったので(笑)。

    「Crier」Music Video

    ━━今作のベース的トピックだと、「FEVER」はミュージックマンのスティングレイで録音したそうですね。堀江さんはパッシヴのJBタイプのイメージが強いですが、これにはどういった意図が?

     “JBタイプのみで一生いいかな”とは今も思っているんですけどね(笑)。僕は暇なときとかにYouTubeで楽器の演奏動画を見ることがあるんですけど、たまたまスティングレイの弾き比べみたいな動画を観ていたら、“スティングレイ、カッコいいな”って思ったんです。子どもの頃に聴いていたレッド・ホット・チリ・ペッパーズとか、ああいうロックとしてのスティングレイ像はずっとあったので、興味本位でスティングレイを弾いてみたくなったというか。それで以前イベントで大阪に行った際、空き時間に楽器屋さんに行ったらスティングレイが置いてあって、弾いてみたらすごく良かったからそのまま買って帰ってきました。ちょうどこの曲のレコーディングの前日に買ったので早速試してみたんですけど、やっぱりいい楽器ですよね。色がハッキリしているというか、唯一無二の音が気持ちいいです。

    ━━この曲のベース・ラインは今作のハイライトとも言えるような、かなり尖ったプレイですよね。指板を縦横無尽に駆ける予測不能なアレンジで、ベースが楽曲の中核として存在しています。

     ありがとうございます。好き放題やらせていただきました(笑)。曲を作るなかでベーシストとしてカッコいい瞬間を作りたいという思いがありまして。だからベースがはちゃめちゃに大暴れしてベーシストとしての自分にスポットが当たるような曲にしたかったので、この曲だけは好きにやらせてくれというか、オイシイところがベースになるようなイメージでアレンジを練っていきました。

    「FEVER」の録音で使用した2000年代製のアーニーボール・ミュージックマンのスティングレイ。“店内にあったいろいろなスティングレイを弾かせてもらったなかで一番自分に合ったモデル。安定感があって、身が詰まった音がお気に入りです”。

    ━━16分で刻みまくっているベースがいい意味で浮いていて、Aメロでは“スラップ風ピック弾き”も入れ込みつつ、ハイポジでの高速のオブリが効果的にキマッています。“ベース・プレイの限界まで追い込んでいく”ってイメージなのかなと。

     まさにそのイメージ。派手な部分はリズムだけで成立させていて、ほかの曲よりもベースの占める割合を多く取っています。自分の担当範囲を広げながら、“あとはみなさんお好きに”って構成なので、純粋にいちプレイヤーとしても弾いていておもしろい曲ができたと思います。正直、やり過ぎて僕自身どうやって弾いたか覚えていない部分もあるんですけどね(笑)。

    ━━印象的なベースの動きだと「変幻自在」も顕著で、ファンキーなショート・リフに始まり、サビでのスラップ→長尺のベース・ソロなど、こちらもベースが主体となって楽曲が進行していきますが、フレーズごとに音価がコントロールされていて、メリハリのある展開になっていますね。

     特にこの曲にわかりやすく表われているんですけど、最近は音のリリースとかサステインといった音価の扱い方をすごく意識していて。こういった要素で楽曲をより音楽的に聴かせられる、もういち段階上のミュージシャンになりたいんです。だからリズムとの向かい方を考えたとき、アタックを置く位置とか、音を伸ばす/切るって部分をより意識するようになったし、ベースから生まれる流れが、楽曲全体にどう作用して変化するかを考えるようにもなりました。この曲は特にそういった部分を意識して弾いた曲なんです。

    「変幻自在」Music Video

    ━━なるほど。メインのショート・リフは、ダイナミクスとか音の詰め込み方など、キャッチーでありながらもノリを生かしたフレーズですね。

     そうなんです。冒頭からのループ・フレーズは隙間の入れ方を意識していて、ずっと弾いているように聴こえるけどちょくちょくストップする瞬間があったり、レガード的に音はつながっているけどあえて持続音的なつながり方にしなかったりとか、そういった細かい部分を意識したフレーズになっています。

    ━━サビあとの長尺のベース・ソロは、ある意味ベースらしくないというか、音の選び方や伸ばし方に意外性を感じました。

     はい、そうですよね。例えば楽曲提供の際にヴォーカルのディレクションをやらせてもらうこともあるんですけど、いろいろなヴォーカルさんとスタジオで作業をするなかで、“歌としてのリズム”に意識がいくようになってきたんです。素晴らしいシンガーさんの歌を聴かせていただくと、フレーズ終わりの抜き方とか音が消える一瞬にその人の色が出ていることがわかる。この感覚を楽器にも応用したいなと思ったのが、このソロのインスピレーションとしてあります。リリースを意識することで楽曲に抑揚が出るし、“ヴォーカルでこれだけ楽曲が変化するなら、リズム楽器であるベースならもっと変わるのでは?”と思って音選びから工夫してみました。やっぱり弾くからには自分ならではの感覚を残しておきたい。だからそのためにベース以外のなるべく広い範囲からノウハウを持ってきて、それをどのようにベースに還元するかを考えますね。

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