PLAYER
ほかのベーシストでは出せない
そんな音を出せるベーシストでありたい。
━━「Don’t look back」のラストのサビ前は、かなりベースを歪ませて、ピアノの美しい音色とある種逆な音の作り方をしていますね。
曲のなかではストイックな部分とか音数が少ない部分を支えていることが多かったので、この間奏は夏フェスとかでベーシストが前に出てソロを弾くみたいな、そういうシーンにしたかったんですよね。あのフレーズが発想できて、それに合う音色を考えるときに、やっぱり歪んでいれば歪んでいるほどカッコいいだろうなと思って、あそこまで作りこんでいきましたね。
━━奥野さんは曲を映像的にイメージして作るんですね。
そうですね。昔からそういう思考は強かったです。曲を作るときは、ライヴで目の前にお客さんがいて、そのなかでWEAVERとして鳴らしていてカッコいいかどうかを想像して音を作っていくんです。今回僕が作った曲は、例えばBメロでオーディエンスの声っぽいコーラスがあったりとか、コール・アンド・レスポンスをできるところが多いって実感していて。自分のなかで一番キモにしているのは、ライヴで演奏する音楽であることなんだと改めて思いましたね。この曲はドラムが全部打ち込みで、ベースは歪みとして(NeotenicSound製)BottomBreakerを使って、そのエフェクト音とドライをProToolsで混ぜて、理想の音を作っていきましたね。
━━「光と呼ぶもの」はCDのみの特典音源ですが、なぜこういう形をとったのでしょうか?
今回のアルバムは、WEAVERのラスト・アルバムとしての作品作りをして、最初と最後の曲で物語の入口と出口を表現したんです。なので、この作品は12曲で完結させて、そこまででひとつの作品にしたいという考えがメンバーのなかであった。「光と呼ぶもの」はライヴ映像、ライヴ音源としては出ているんですけど、ちゃんとレコーディングした作品としてはまだ出せていなかったんです。コロナ禍に入る前の神戸で行なった10周年記念のワンマン・ライヴで初披露して、そこからお客さんに届けられていなかったので、それをどういう形で届けるのが一番良いかを考えたときに、アルバムとしては12曲で完結させつつ、この曲はファンやお客さんにはCDで手に入れてもらえるのが一番良いんじゃないかということで、特典音源という形にしました。
━━1サビはドラムとともに8分の刻みでテンポ感がありますが、2サビはゆったりとしたラインに切り替わっています。
以前に出した「カーテンコール」という曲でもそうなんですけど、BPM的にはそれこそ170とか180とかぐらいで、アップ・テンポな曲として扱われることがあるんです。でも、実際その歌詞のメッセージ性だったり、メロディ・ラインをひも解いていくとバラードなんですよね。この曲も立ち位置的にはバラードで、アップ・テンポのバラードみたいなイメージがあって、そのなかでメロディをちゃんと聴かせられる展開とか、リズム感を考えていくとああいう展開の仕方に必然的になった感じですね。
━━ラストのサビではグリスを使って動かすラインから高音のロング・トーン、楽器全体で4分で刻む流れがあります。その一連の流れが、感情の大きなうねり、高揚感を感じさせますね。
JポップとかJロックの魅力のひとつって、そのシーンがドラマティックに変わっていくことだと思うんですよ。1番のAメロよりも2番のほうが高揚感があって、より深く響いてくる何かが生まれてくるみたいな。それに伴って、ベースのフレーズもラストに向かってよりドラマティックに、エモーショナルになっていくのを昔から大事にしたいと思っていたんです。このラスト・サビも一番感情的になってくる部分なんで、必然的にベースもそういうプレイになったんです。
━━WEAVERの曲は、ドラマティックなストリングスの使い方や展開の持って行き方をしていて、それもファンに愛される魅力のひとつになっていると思います。
河邉の書く歌詞の世界観が、小説家になる前からすでに物語性をはらんでいたし、その映像が見えると昔から言われたんです。それがWEAVERの音楽の根底にはあって、それを音楽的に再現していくにはどうしたらいいんだろうっていうのをいろんなことをやりながら探していって、最近だったらストリングスとか、いろんな環境を加えることにつながったんですね。昔からあるものはどんどん具体的に、よりドラマティックに変化してきているというのはあるかもしれないです。
━━今後、ビルボード公演や12月からのツアーが始まりますが、これから活動をどのようにしていきたいですか?
この間、僕たちのホームである神戸VARIT.というライヴハウスでファンクラブ会員限定の3デイズ5公演のライヴをしたんですけど、そのときに実感したのが、音楽を演奏しているときだけは、救ってあげられるものがあるなということですね。僕たちにも言葉にはできない想いがあるし、お客さんにもあると思うんです。でも、音楽を鳴らしてひとつになってるときだけは、そこに真実があるっていうのをすごく感じたんですよ。これから先、もう数えるほどしかライヴはないんですけど、もっと誠実に音楽を全力で僕たちが楽しんでお届けすることで何かお返しできるものがあると思うので、そこにひたすら専念してやっていきたいなって思っていますね。
━━では、ベーシスト、奥野翔太としてのこれからは、どのような姿を想像していますか?
とにかく僕は本当にベースを弾くのが好きだし、WEAVERって今までけっこういろんなライヴ・アレンジとか、なかなかマニアックなアレンジに挑戦をしてきて、ほかのベーシストにはないスキルや機材を持っていると思うんです。最近そういうアレンジや音を欲しいと言ってくれる人がいるので、求めてくれているサウンドを今までよりもさらに洗練させて、ほかのベーシストにないような音を出せるベーシストでありたいなと思います。
Okuno’s Effect Board
【お知らせ】
現在発売中のベース・マガジン2022年11月号でも奥野翔太のインタビューを記載! アルバム制作の背景、楽曲のベース・ラインに関してなど、Bass Magazine Webとは別内容でお送りしています。
また同号では、特集『ベーシストのエフェクト・システム2022』を84ページの大ヴォリュームでお届け! ほかにも新譜大教典『BLOODIEST』を発布した聖飢魔Ⅱのゼノン石川和尚の特集やスラップ・フレーズ魔改造の手順など、盛りだくさんの記事を掲載しています!
◎Profile
おくの・しょうた●1988年8月18日生まれ、兵庫県出身。2004年に高校の同級生とWEAVERを結成。2007年に現在の編成となり、3ピース・ピアノ・バンドとして神戸を拠点に活動を展開する。2009年にダウンロード・シングル「白朝夢」でメジャー・デビュー。精力的な活動を続けるなかで2014年1月末からは半年間のロンドンへ留学も経験する。河邉徹(d)が書き下ろした小説をもとにした『流星コーリング』など、これまでに7枚のアルバムなどをリリースしているが、2023年2月に解散すること発表しており、10月21日発売の『WEAVER』がラスト・アルバムとなる。奥野はバンドとしての活動だけではなく、山本彩をはじめとしたさまざまなアーティストのサポートも務める。
◎Information
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