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59年製のプレベはロックにはあまり向いてないけど、
確かに現代にも通用するベースなんです。
━━ベースの話に戻り、今作でのスラップの奏法についても聞かせてください。前作『KNO WHERE』のインタビューで、近年は親指を下向きにするフォームから上向きにするフォームが増えてきているという話がありました。今作ではどうでしたか?
今回はすべて親指が上向きのスラップをしていますし、最近はほとんど上向きですね。ライヴで昔の曲をやるときも、上向きに矯正して弾いているものが多いです。
━━“上向き”の何が気に入っていますか?
サムのアプローチの細かさが出ることですかね。初速的にはあまり変わらないかもしれないですけど、キックに張り付かせるサムピングの精度が高いというか。下向きは音の円が広くてパワーで出している感じがあるので。親指が上向きのほうが“ボーンって出すかグッて出すか”をコントロールしやすいことに気づいて。前にJINO(日野”JINO”賢二)さんに会ったときに、“全然上向きできないんですよ”って言ったらやり方を教えてくれて、それから3年くらい練習してますね。80年代ぐらいまでの、ルイス・ジョンソンとかラリー・グラハムとか櫻井哲夫さんとか、冗談みたいにうまい人たちの上向きのサムピングも“チョッパー”って感じでいいですよね。
━━今作ではハマさんプロデュースの2曲以外はいわゆる“禁欲的なプレイ“というか、ルートに徹するようなアプローチが多いですよね。 これは“メンバー内プロデュース”の影響もあるのでしょうか?
今作に限らず普段から“こう弾いてくれ”って言われることってあんまりないんです。ただ僕がプロデュースをした2曲っていわゆるOKAMOTO’Sにおけるミュージシャンズ・ミュージシャン寄りな曲というか、プレイ・テクニック的なものが光る曲なんですけど、1曲目(「Gimme Some Truth」)以外はわりとメロディがいい曲なので。何にも考えないでベロベロ弾いちゃうとやっぱりメロに当たっちゃう。ソウルな曲だったら動いてもいいんですけどね。それで結果的にルートや経過音をどうするかに集中したシンプルな演奏になりました。ショウさんの「Gimme Some Truth」はもう悪夢みたいな曲なので(笑)、これだけちょっと違いますけどね。だってこの曲、おかしいじゃないですか?
━━“こんな組み合わせアリなの?”っていう曲ですよね。ガレージ・ロックで始まり、サイケ期のビートルズもいて、ブライアン・メイ的なギター・ソロがあり、ピアノ・アレンジやもちろん楽曲タイトルもですけど、ジョン・レノンのソロも常にテーマとしてあってという。
そうですね。セックス・ピストルズから始まって、クイーンみたいになって、メロトロンがあって、みたいな。
━━メロトロンの部分は、急にベースも表情が変わりますよね。ビーチ・ボーイズでのキャロル・ケイのプレイを思い出しました。
そういう感じですよね。あそこは親指弾きでパーム・ミュートをして弾いています。この曲は、セクションごとに録ったっておもしろくないので、クリックも使わずに頑張って一発で録ったんですよ。バンドの原点回帰というか、ちょっと笑えるよねって感じで録ったので、これはかなりアクティブに弾いてます。
━━ちなみにチューニングは半音下げですが、サビで出てくるE♭を開放弦で弾きたかったということですよね。
そうですね。サビの開放弦はやっぱドーンと落ちたほうがいいので、さすがに半音下げにしましたね。
━━あと、途中の2:30付近で“デッデッデッデ〜”ってベースがひとりになるところは音の切り方がすごく独特ですが、どうやって弾きましたか?
あれは人力じゃなくて、1音を機械的にループさせてるんです。CDの針が飛んだ感じの、ちょっとバグった感じにしたくて。あそこだけはちょっと編集しましたね。
━━今作では、1959年製のフェンダー・プレシジョン・ベースを使っているのは「Last Number」だけですね。この曲で59年製を選んだ理由は何でしょう? そのほかは「Gimme SomeTruth」「Flowers」「いつも、エンドレス」「Sugar」では1965年製のフェンダー・ジャズ・ベース、「オドロボ」は別のプレベを使用したとのことで。
“59”はもうずっとトマスティックのフラット・ワウンド弦を張ってあるし、本当にジジイなので(笑)。ロック・ミュージックが演奏されるようになる時代より前に誕生しているから、ロックな音じゃないんです。ソウルとか、そういう曲調のほうが合うんですよ。
━━確かに「Last Number」のベースの音って、めちゃくちゃイナたいというか、渋い音ですよね。
イナたいですよね。これはやっぱりああいう音に特化した楽器で、ラウンド(ワウンド弦)を張る楽器じゃないんだなって思います。「オドロボ」もプレベですけど、“59”だと全然あの感じにはならない。キャラクターが全然違うんです。
━━ちなみに、ハマさんがベーシストとして参加したSTUTSさん率いるMirage Collectiveが昨年話題になりました。その楽曲「Mirage」では、ビデオを観る限り59年製プレベを弾いていますよね? こちらはある意味シンベ的というか、すごく深い帯域の低音が鳴っていて逆にものすごく現代的なサウンドを鳴らしていると言えるとも思います。
確かにこれは“59”で弾いてます。おもしろいですよね。だからロックにはあまり向いてないけど、確かに現代にも通用するベースなんです。レコーディング音源はSTUTSが低音成分を若干足したと言ってましたけど、多分YouTubeにあるスタジオ・ライヴの音は低音は足していないと思いますよ。
━━ちなみに、「Mirage」のイントロはユーミンさんの「中央フリーウェイ」でリーランド・スクラーが弾いたアウトロのフレーズへのオマージュかと思いましたが、いかがですか?
お、そうでしたか? 僕、あの曲のレコーディングが近年一番トラウマというか、もう全然自分のなかで正解がわからなくて。遠からずというジャンルでもないはずなんですけど、自分のなかで音の長さとかを決めるのにすごく手こずってしまったんです。それでひとりで悩んでもしょうがないから、ギターが長岡亮介さんだったので、“どうしたらいいと思います?”ってトーク・バックでアドバイスをもらいながら録ったんですよ。ちょっとふがいないなと思いながら……。できたものにはすごく満足してるんですけどね。
━━さて最後に、4月にかけてOKAMOTO’Sは今作を引っ提げてのツアーを展開します。意気込みを聞かせてください。
コロナ禍でも僕らはライヴ配信やホールのツアーなどライヴができていた身ではあるんですけど、今回のツアーは27本ということで、久しぶりにOKAMOTO’Sにとっての平均的な公演数の全国ツアーがやれることがすごく嬉しいです。今回のツアーは歌わなきゃいけないですし(笑)、いろんな意味で怠けた体をたたき起こして楽しめたらなと思っています。
【お知らせ】
現在発売中のベース・マガジン2月号【WINTER】では、インタビューでも触れられたMirage Collective「Mirage Op.3 – Collective ver.」のスコアを掲載!
本誌のメイン特集では、ジャコ・パストリアス、スタンリー・クラークをはじめ、1970年代のクロスオーバーを盛り立てた主要ベーシスト10名を紹介しているほか、アメリカ以外でのシーンの動向、クロスオーバーに影響を受けた日本人ベーシストへのアンケートなど、70ページで展開しています。
そのほか、フェンダー・アメリカン・ヴィンテージIIや小型コンボ/ヘッドフォン・アンプといった機材企画、来日公演が来月に迫ったレッド・ホット・チリ・ペッパーズの最新作『Return of the Dream Canteen』でのフリーの奏法分析など、さまざまな記事を掲載しています。ぜひチェックしてみてください!
◎Profile
ハマ・オカモト●1991年、東京生まれ。中学生の頃よりバンド活動を開始し、2009年にOKAMOTO’Sに加入。バンドは2010年に『10’S』でデビュー。これまでに9枚のオリジナル・アルバムを発表している。1月から4月にかけて全27公演の全国ツアーを展開中だ。ハマはバンド活動以外に、星野源をはじめ数々のアーティストの楽曲にも参加。2013年には日本人ベーシストとして初となる、米国フェンダー社とエンドースメント契約を締結し、2本のシグネイチャー・モデルを発表している。
◎Information
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