PLAYER

UP

INTERVIEW – 巽 啓伍[never young beach]

  • Interview:Shutaro Tsujimoto
  • Photo:Yosuke Torii

“この曲を通してどういう気持ちを伝えたいのか”
を考えながらフレーズを選べる人になりたい。

━━各曲の細かいプレイについても教えてください。アルバムは基本指弾きだと思うのですが、「Oh Yeah」はピック弾きですか? ミュートがかった音がすごく心地良かったです。

 そうですね。これはメイン・ベースの1963年製のプレベで弾いたんですけど、ピックで弾いてもあまりエッジーな音になり過ぎないっていうのはこのベースの気に入ってるところなんです。

━━「Oh Yeah」のサイケデリックなパートからCメロにかけてのベースは、ビーチ・ボーイズでのキャロル・ケイのピック弾きを彷彿するような音作りとフレーズで、ミニマルながら各ノートが絶妙な音程と音価で配置されていて、すごく良かったです。

 言われてみれば、確かにキャロル・ケイ的なニュアンスはありますね。彼女はピックでもめちゃくちゃグルーヴィに弾くじゃないですか? このセクションは、出発点としてはデレク・アンド・ザ・ドミノスやドアーズ、最近のバンドだとキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードがやっていたような、楽曲のなかで構成が急展開するアイディアを参考にしていたんですけどね。でもちょうどその時期、個人的に「Good Vibration」のときのビーチ・ボーイズの動画とか観ていたんですよ。インスタとかでもキャロル・ケイのわりと近年の動画とかが流れて来ますけど、普通の4分を弾いてるだけなのにピック弾きがめちゃくちゃグルーヴィで、すごいですよね。確かにそういうのは研究したりしてました。

━━「風を吹かせて」のベース・ラインは今作で最もシンプルで、白玉中心のプレイをしています。これは最初から狙っていたのか、制作の過程で音が削ぎ落とされていったのか、どうでしたか?

 これはベースの入っていない簡素なデモがあって、バーナード・パーディの『Soul Is… Pretty Purdie』に入っている「Song for Aretha」っていう、わりと明確なリファレンス曲があったんです。ドラムの健ちゃんとも相談して、この曲はベースがシンプルなほうが歌が際立つだろうということで、基本的に白玉で本当にたまに動きを入れるくらいにして。前作では、こういう音価の長いベース・ラインの曲はいくつかあったんですけど、今作はわりと詰め込んでるプレイが多いので、そういう意味で自分のなかでバランスを取ったというのもありました。

━━「風を吹かせて」と、「こころのままに」もそうですけど、ドラムのシンプルなプレイも絶妙ですよね。ヘタな人がやったら単純にもたついてるように聴こえてしまうような、ギリギリまで引っ張ってちゃんとポイントに当てるようなプレイというか。

 健ちゃんはもう“マシン・ドラム”みたいになってますからね(笑)。このあたりはスネアの音色とか、一発鳴らしたときの空気感を楽しむ曲で、“行間を読む”ような曲だなと思います。ある意味すごく日本的というか。なので、ここでベースが動いて勇磨のドライな歌い方を暑苦しいものにしたくなかったし、ハモンド・オルガンと歌メロのバランスがすごく好きだったので、これで良かったなと思いますね。

━━「毎日幸せさ」はエレクトリック・アップライトで弾いたそうですが、これはどういう経緯で?

 単純に僕がアップライトを練習していて、楽しいから一度スタジオに持っていったらそのまま採用されたっていう。この曲はスライド・ギターが入ることはもともと決まっていたので、音程の若干揺れる感じがギターと組み合わさるとおもしろいかな、と思ったんです。あとは歌詞も、シニカルさやポリティカルな内容を想像させるけど、気負うことのない勇磨のユーモアでうまいこと柔らかくしているっていうのもあって、オケの音程に揺れがある感じも曲のテーマと合うんじゃないかなと。

━━「毎日幸せさ」はギター・ソロ後のウォーキング・ベースも、曲に起伏を作っていて印象的でした。

 ドラムがずっとシンプルに刻み続けてるので、もうひとつ曲を転がすにはどうしたらいいかなと思ったときに、“逆にベタベタにやってみよう”って思ったんです。あと、そのときにスタジオで坂本九の「上を向いて歩こう」か何かを聴いていたんですけど、それも途中からウォーキング・ベースっぽくなるんですよ。最初はシンプルだけど、途中から走り出していく感じが気持ち良くて。明確なリファレンス曲があったわけじゃないですけど、そういうノリが使えるかもしれないなと思って入れましたね。

本作のレコーディングでメインで使用した1963年製フェンダー・プレシジョン・ベース。2018年に入手した一本だ。“レスポンスがすごく速いのと各弦の分離感があるのが良いですね。1弦と4弦も同時に鳴らせる。あと勇磨の曲ってキーがFの曲が多いんですけど、このベースの3弦のFの音が超気持ち良いです”。今作では本器のほかに、「らりらりらん」で安部が所有するKay製ベース、「Hey Hey My My」で安部が所有するヘフナー製ベース、「毎日幸せさ」でアップライト・ベースも使用した。
本作のレコーディングで使用したnoble製Dual Vacuum Tube Preamp(プリアンプ/DI)。“ヴルフペックのジョー・ダートが使っていると聞いて知り、コロナ禍に入る直前くらいに導入しました。真空管が入っていて、音にコシが出て、ちゃんとカラーがつくDIです。ミュートした音や、トーンを絞った音も良いんです”。なお今作ではアンプはすべてアンペグ製B-15Rを使用し、ラインとアンプの2系統をミックスして音作りをしたとのこと。またライヴ、レコーディングともにエフェクターは使用せず、本機とチューナーのみをエフェクター・ボードにセットしている。

━━「蓮は咲く」は、Aメロの折り返しでハイハットが16分の細かい刻みになりますよね。細かいリズムの変化で展開を作っていて、おもしろいと思いました。

 ウワモノは変わらないまま、どうやってリズムでノリをプラスして後半に持っていこうかと考えて、こうなりましたね。ベースも途中からゴーストノートを入れだしたりとか、曲を通して展開していくようになっているんです。勇磨は“歌の伸び”みたいなものを意識しているので、ベースが動いてると“そんなに動かないで”と言ってくることがあるんです。なので反復するフレーズのなかでこっそり展開を作っていくにはどうしたらいいかな? というのはよく考えるところですね。

━━アルバム全篇を通して、ベースは刻むプレイ/流れるようなプレイ/白玉でのどっしりとしたプレイの使い分けが巧みだと感じました。この曲も間奏のところでベースは白玉になりますもんね。それによってガラッと曲に広がりが出るし、ベースで展開を作っている場面が多くあると思いました。

 確かに、音価をどこで切るかっていうのは繊細なので一番気をつかっていると思います。刻んだほうが絶対ラクだけど……みたいな場面も多いんですけどね。

━━今作の制作を経て、今後の展望など見えたものはありますか?

 “曲のなかでポケットを見つける”というのが自分のなかで課題だなと思ったのと、“その曲がどういう感情に訴えるものか”をもっと考えられるようになりたいとは思いました。例えば、“コードがマイナーにいってるから、単純にマイナーの音をに弾こう”というよりも、“この曲を通して勇磨がどういう気持ちを伝えたいのか”を考えながらフレーズを選べる人になりたいなと。小節のなかの、1拍のなかの、どこに置けばその感情や情景が一番伝わるかを意識して、ベース・プレイからその曲の情景が浮かぶようなプレイヤーになれたら1番いいなと思います。

「こころのままに」(Official Video)

◎Profile
たつみ・けいご●1990年1月25日、兵庫県神戸市出身。never young beachは2014年春に結成。2015年に1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』を発表し、FUJI ROCK FESTIVALに初出演。2016年に2ndアルバム『fam fam』をリリースし、2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャー・デビュー作『A GOOD TIME』を発表。2019年には4thアルバム『STORY』をリリースし、初のホール・ツアーを成功させる。2023年6月、約4年ぶりとなる5thアルバム『ありがとう』をリリースした。近年は上海、北京、成都、深圳、杭州、台北、ソウル、釜山、バンコクなどアジア圏内でもライヴに出演。9月より本作を携え全国10都市を巡るワンマン・ツアー『never young beach- “ありがとう” Release Tour 2023』を開催する。

◎Information
巽啓伍 Instagram
never young beach HP Twitter Instagram