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INTERVIEW – モヒニ・デイ

  • Interview:Kimiya Mizuo
  • Translation:Tommy Morley

超絶技巧のベース・ヒロインが世界に羽ばたく
待望のデビュー・アルバム

超絶テクニカルなベース・プレイにより、新世代ベース・ヒロインとして全世界から注目を集める、インド出身のベーシスト、モヒニ・デイ。2019年にはB’zのツアー・ベーシストに大抜擢され、圧巻のパフォーマンスを魅せてくれたことも記憶に新しい。ここでは、1月18日発売のベース・マガジン2月号に掲載されたモヒニのインタビューより、前半部分を公開! “出すべきタイミングが来るのを待っていた”という待望のソロ・デビュー作『MOHINI DEY』に込めた熱い思いを大いに語ってもらった。さらにベース・マガジンの公式Youtubeチャンネルでは、今作の収録曲「Introverted Soul」をモヒニ自らが解説するプレイ動画も公開している。本誌とあわせて、ぜひ彼女の超絶技巧を体感してほしい。

そのほか本誌では、『ベーシストのための”新世代ジャズ”入門』と題して、サム・ウィルクス、TJコレオソ(エズラ・コレクティブ)、アドリアン・フェローといったベーシストたちへのインタビューに加え、シーンの解説や、ディスク・ガイド、12人のプロ・ベーシストに“現代のジャズ名盤”を聞いたアンケート企画など、現代のジャズを紐解く特別企画を掲載している。

音楽が正当に評価されるそのときまで待っていたの。

━━B’zのサポート・ベーシストとして来日した2019年以降、日本でのあなたの知名度は飛躍的に増し、あなたの活躍を楽しみにしている日本のファンも多いです。今作『MOHINI DEY』はどのような思いが込められているのですか?

 初めて作った曲は「Introverted Soul」で、13歳の頃だった。それ以来ずっと曲を書いてきたけど、この曲がシックリこなくて録音せずに過ごしてきたの。27歳になるまでにデイヴ・ウェックル(d)、ヴィニー・カリウタ(d)、スティーヴ・ヴァイ(g)、ガスリー・ゴーヴァン(g)、そのほか本当にたくさんの人たちとこの曲をプレイしてきたけどどれもが違うサウンドになっていた。それは彼らが皆クリエイティヴな声を持って曲を愛しながらプレイしてくれていたからで、アルバムを作るなら絶対にこの曲を入れなければならないと思っていた。それがいつになるのかはまったく決めずにね。13歳の頃の私は自信を持っていなかったし、アルバムを作るならもっとプレイして学んでからと思っていた。あの頃に作って、若いこと、女性であること、インド出身ということで注目されるのは違うと思っていたし、それでは音楽が正当に評価されないと思っていた。

━━アルバムを出すタイミングをうかがっていた?

 そう。それから私はインド南部のミュージシャンたちとプレイして経験を積み、アメリカにも渡ってたくさんの西洋のミュージシャンたちともプレイするようになった。プログレをプレイするようになってからジョーダン・ルーデス(k)とプレイするようになり、さまざまな人たちと知り合うようになった。そうやってさまざまな活動をしていくなかでも自分の音楽を作り続けていて、それに並行する形で映画音楽家A.R.ラフマーン(編註:2009年に『スラムドッグ$ミリオネア』でゴールデングローブ賞の作曲賞、第81回アカデミー賞で作曲賞や歌曲賞など、多数の賞を受賞したことで知られる)と8年間の活動をしていたけど、違う音楽を歩むべきと思うときが来た。そんなタイミングでB’zとプレイすることになったの。日本で過ごしていた時期に初めてのシングル「Can You Feel Me?」を書き、スティーヴ・ヴァイ、ジーノ・バンクス(d)、ジョーダン・ルーデス、マーク・ハートサッチ(sax)たちをフィーチャーしてリリースに至ったの。私がベースだけじゃなくて歌も歌うってことに誰もが驚いたと思うけど、たくさんの変化って自然と起こるものなのだから驚かしてやろうと思っていたくらいよ(笑)。その時点ですでに4曲アルバム用に書いていてあと数曲書けば充分なところまで来ていたけど、まだアルバムを出す話は固まっていなかったわ。それからしばらくアルバムを出すべきときが来るのを待っていたという感じね。

『MOHINI DEY』
P-VINE/PCD-25374

━━本作には名だたるプレイヤーが参加していますが、彼らとともに作品を作ることで得られたものはありますか?

 彼らが皆、私を好きでいてくれたからこそ参加してくれたということね(笑)。私のアルバムへの参加をお願いしたとき、彼らは皆“もちろん喜んで!”とリスペクトの気持ちを持って応じてくれたわ。彼らは皆一緒に仕事をしたことがあったり私のプレイを見てくれたことのある人で、私のプロフェッショナルとしての姿勢や音楽への誠実さをわかってくれていた。事前にパートの割り振りも私は自分の部分だけでなく依頼する部分も把握していて、自分が主役としてプレイすることよりも彼らミュージシャンとプレイしたり彼らが見せ場となることを意識していた。アレンジメントやサウンドの作り方でも新しいことにトライし、その曲の参加メンバーたちで何ができるのかも実験していた。私がポジティブな気持ちでチャレンジすることは皆わかってくれていたと思うし、必ずそれを良い形で着地させていた。

なるべくして今の私になった。

━━あなたはウェザー・リポートやチック・コリア・エレクトリック・バンドなどに影響を受けたそうですが、初めてジャズやクロスオーバーに触れた当時のことを教えてください。

 7、8歳の頃だったかな? 父がマイケル・マンリング、レベル42、ブラザーズ・ジョンソンといった人たちのレコードを聴かせてくれたの。ルイス・ジョンソンのひたすらスラップしまくるベースには驚いたものね(笑)。ほかにも本当にさまざまなアーティストたちの音楽が学校から帰ると寝るまでずっとかかっているような家だったので、今の私になるべくしてなったと思っている。7、8歳の頃に私が父のベースを小さな体で抱えてヴィクター・ウッテンの曲や「Got a Match?」や「The Chicken」、「Cantaloupe Island」、といった難しい曲をプレイしているビデオがあって、たぶんまだ誰にも見せたことがないから、いつか投稿してみたいなと思っているの。

━━インドのジャズ・シーンについても知りたいです。ベーシストに限らず、好きなインド出身のジャズ・ミュージシャンを教えてください。

 インドって文化的にかなり多様だから、ジャズ・ミュージシャンを挙げることが難しいのよね。ひとつの分野のなかでよりも、さまざまなジャンルでグッドなミュージシャンになるべきと思っているところが強くてね。それに世界中でいえることだけど、ジャズだけをやっていても収入を得るのが難しくて他の音楽をプレイせざるを得ないという事情もある(笑)。それでもひとり挙げるなら、今作に参加してくれたドラマーのジーノ・バンクスの父のルイ・バンクスを挙げるわ。彼はビッグなミュージシャンたちと世界に向けてプレイしてきて、インドのトップのジャズピアニストたちともプレイしてきた。もちろんジーノも驚異的なドラマーで、西洋と東洋をミックスさせた感覚を持っている。そしてリズム・ショウというギタリストもかなり驚異的なミュージシャンのひとりね。インドにも優れたロック・ドラマーはけっこういて、「Happy To Slap It」で叩いてくれているニシャント・ハガーはインド北部での出身でヘヴィ・メタルを得意とするドラマーね。

━━同世代の20代や30代のベーシストで、インスパイアされるベーシストを挙げるとすると?

 残念ながらインドって音楽学校のコミュニティーが非常に小さくて、ベーシストがなかなかいないのよね。少数過ぎてまだ名の知れたレベルの人はいないけどこれから活躍していくことになるであろう新しい世代は生まれていて、将来のインドのベース・シーンがどうなっていくかに興味を持っているわ。だからインドに限らず世界に目を向けると、ジアンヌ・ランゲルというベーシストがいて彼女はかなりグッドだし、私自身Instagramでフォローしているの。あとはキーボーディストでもあるジャスティン・シュルツがカバー動画をアップしていて、それもよく見るわね。彼の妹のジェイミー・シュルツはドラマーだけどなかなかクールなベースをプレイしている。彼女はまだ二十歳なのに本当に驚異的なベースをプレイしているのよ。最近はInstagram上に本当にたくさんのグッドなプレイヤーがいて、名前を覚えるのが大変なくらいで(笑)。

━━「Introverted Soul」と「First Food Then You」ではインドの伝統的な復唱法“コナッコル”を取り入れていますが、取り入れた経緯は?

 もともとはマルコ・ミネマン(d)にプレイするパートを伝えるときにやってみたもので。彼はドラムでシンコペーションをプレイするのを好んでいるからね。マルコは覚えるのが早くて、いつも驚かされるわ。彼がプレイするとさらに驚異的に感じられるの。ヴォーカルとベースでプレイしているものにマルコが合わせてプレイするセクションがあったらクールなものになるだろうと思ってこのパートを作ったのよ。この曲はドラムとベースによる音楽のパーフェクトな代表例のような曲だと思うし、インド風というよりもモヒニ流のフュージョンという感じね(笑)。

本誌では、『MOHINI DEY』に収録されているその他楽曲でのベース・プレイのほか、今作で使用した機材を紹介しています。続きはベース・マガジン2024年2月号にて!

続きは発売中のベース・マガジン2024年2月号をチェック!

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◎Profile
モヒニ・デイ● 1996年6月20日生まれ、インドのムンバイ出身。父はブロ・ベーシスト、母はシンガーという家庭に育ち、幼少期から父の手ほどきを受けてベースを手に取る。動画サイトでの演奏デモンストレーションが話題を呼び、一躍、注目べーシストとなる。2019年にリリースされたB’zの21thアルバム『NEW LOVE』では複数曲のレコーディングに参加し、同年のツアー・メンバーにも抜擢された。2023年11月15日に、ソロ・デビュー・アルバム『MOHINI DEY』をリリース。

◎Information
モヒニ・デイ:Official HP Instagram YouTube