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INTERVIEW – 岩永真奈

  • Interview:Koji Kano

歌あり/インストのどちらを聴いても両方楽しめる楽曲になったと思います。

――メタル/プログレ的なアプローチだと「Enlightenment」も挙げられますが、ギタリストは「Othello Game」と同じくイタリアのジェント系ギタリスト、ジャンルカ・フェロを起用していますね。8弦ギタリストの彼を起用した理由は?

 まず出会ったきっかけとして、前作を出すちょっと前くらいにギタリストのISAOさんがやってるSpark7というユニットの大阪公演に私がベースで参加した際、そのツアーのギタリストにジャンルカさんも呼ばれていたんです。それで彼と仲良くなって、前作で一曲ギターを弾いてもらったんです。その後2020年の5月にまた来日して一緒にツアーをする予定だったんですけど、コロナの影響でなくなってしまって、“コロナ大丈夫? また一緒にやりたいね”みたいな連絡のやり取りをしているなかで、ジャンルカさんにオファーをしてみたら快諾してもらえて。「Enlightenment」は日本のアニソンっぽいメロディなので日本人のほうが合うかなって思ったけど、海外の人に弾いてもらったらどうなるかっていう好奇心もあって彼にお願いすることにしました。

――ギターの細かいフレーズはギタリストに委ねているんですか?

 バッキングのリズムとかユニゾン部分は私が書いていて、メロディとかハモリもほぼ私が決めてるんですけど、“おもしろそうなことがあったらやってください”とか、“ソロの終わりの音は下がらずに上がってください”とかそういう注文はしています。だから基本的にソロなどは自由に弾いてもらいつつ、コンセプトからズレてないかを確認する感じですね。

――テクニカルなギター・フレーズもベーシストが考えているというのがおもしろいです。

 ベーシストらしくないかもですね(笑)。ただ私自身、テクいギターが大好きなんですよ。アーチ・エコーとかガスリー・ゴーヴァンとかもめちゃくちゃ聴いてきて、そういうところからも影響受けたので基本は自分で考えますけど、打ち込みで再現できない部分とかはお任せしちゃうことが多いですね。

――「Radical Dawn」は同じくプログレやメタル的アプローチもありつつ、フュージョンなどの要素も取り入れた多彩なジャンルを網羅する一曲で、各箇所で異なるベース・プレイを展開してますね。ベース・ソロはフュージョン寄り、ギター・ソロはメタル寄りなど、目まぐるしい曲展開も聴きどころです。

 そうですね。展開を多く作りたかったっていうのもあるし、この曲からメタル要素をなくしてフュージョン寄りにするとアルバムから浮いちゃうなって思ったんです。でもお願いしたいメンバーは自分のなかで明確にあって、(川口)千里(d)ちゃんに叩いてもらうならフュージョン要素があるといいなって思ったけど、彼女のロックな感じもすごく好きだから、その間をうまく行き来できるアレンジにしました。(白井)アキト(k)さんは何を任せても絶対大丈夫っていう信頼があるのでどんな方向にも行けるなって思ったし、“ギター・ヒーロー感”がほしかったので、(菰口)雄矢(g)さんには“ギター・ヒーロー感満載でお願いします”って投げたんです。各パートごとに誰にお願いしたいかなって思いながらアレンジをすることもありますけど、この曲は特にその方向性が出た曲だと思います。

――メンバーのチョイスに応じて曲のキャラクターが変わると。

 どちらかと言えば、“こういう曲にしたいからこの人にお願いしたい”っていうのがまず前提にあって、作っていくなかで各プレイヤーの違う一面も見てみたいから、アレンジを変えるアイディアもどんどん出てくるんです。

――ちなみにメタリックなバッキングの箇所はかなり速く刻んでますが、この部分は3フィンガーで弾いているんですか?

 これ2フィンガーなんですよ(笑)。私、3フィンガーがあまり得意じゃなくて、逆に遅くなっちゃうんです。ちょこちょこ練習はしてるんですけど、2フィンガーのほうが圧倒的に速いから今のところは2フィンガーで弾いてます。ピックも考えたんですけど、ここは2フィンガーで乗り切ろうと頑張りました。

――管楽器が入る「Lotusflower」はベースの方向性を一変させてますね。和音部分含め、伸びやかな白玉中心のフレーズで構成されていて、全体のコード感をベースが担っているイメージです。

 そうですね。私はあんまり普段やらないけどソロ・ベースが好きで、コード弾いて、メロディ弾いて、っていうことを家でよくひとりでやってるんです。でもそれを意外とどこにも見せてないので、見せられる曲にしたいなって。最初イントロはベースじゃなくてエレピで入れてたんですけどベースのコード弾きって響きがすごくキレイだから、ベースのほうがいいなってことでベースで弾き直したんですよ。とにかく伸びやかさを出しつつ、ミックスのときもコードが優しく伸びやかになる音色になるように相談しながら進めていきました。

――コード進行としては比較的シンプルなので、全体を通して各楽器でウワモノを際立たせつつ、ベースで下支えするアレンジに感じました。

 まさにそのとおりで、80年代のこういうジャンルの歌モノのベースって、どこかシンベっぽくて伸びやかでちょっとうしろにいるけどよく聴いたら低音で動いてるってイメージなんですけど、そこに現代っぽい感じを混ぜたいなって思ったんです。でもサックスのメロディにしたかったので、ウワモノを立たせてリズムに動きをつけるような、あまり目立たないベース・ラインにしています。

――今作のトピックとしては「空と無と零」「Geometry」の2曲にヴォーカルを入れたことですよね。歌を入れようと思ったきっかけは?

 もともと歌モノの曲を書くのも好きで、インストの曲でもライヴではヴォーカルの人に歌詞を書いてもらって歌ってもらうことが何回かあったんです。インストの良さはどこの国の人にもストレートに届くことで、逆に歌詞を入れるとイメージが限定されちゃうけどダイレクトに伝わるっていう、両極端な部分があると思うので、それもあって今まで入れてなかったんです。でもコロナの状況のなかでストレートに伝わる曲があってもいいのかなと思って、歌を入れてみることにしました。だからより多くの人に曲を届ける手段のひとつでもあったんです。

――歌が入ると一気にキャッチーでわかりやすいものになりますよね。

 そうですね。でも普段歌モノのバックでベースを弾くときは歌の邪魔にならないように弾きますけど、私のアルバムだし楽器の熱量は変わらないように弾いてほしかったから、参加メンバーにはそれは無視してくださいって伝えました。特にドラムやギターには“好きなように、やりすぎなくらい入れてください”って言いましたね(笑)。ただその代わり、ヴォーカルはそれに負けないような人を呼んでるから安心してくれと。なので歌あり/インストのどちらを聴いても両方楽しめる楽曲になったと思います。

――Geometry」は打ち込みのトラップ系ビートのほか、EDMテイストの同期音がメインですが、シンセ・ベースとエレキ・ベースの使い分けも注目ポイントですね。

 1番だとほぼシンベしか入ってないので、しっかりエレベの爪痕も残したいなって思ったんです。2番からはギターに入ってもらうので、そこからはバンド感が出るようにエレベもガッツリ入れるアレンジにしていますね。

――この曲のベース的ポイントは2番サビ以降ですよね。リズムは固定のまま16分の高速スラップに展開しています。一歩間違えたら事故になるんじゃないかと(笑)。

 最初は普通にリズムどおりに弾いてみたんです。でもそうすると1番とあまり変わらないので、もっと目立たせたいなと思ってスラップで合わせてみたら、もっと細かくしたいなって思っちゃって(笑)。エレキ・ベースはパーカッシブな方向に振ったほうがいいと思ったし、サビはシンベで下を支えているので、エレベでそこを重ねる必要はないかなと。そこで細かく弾いてみたら、意外とうまくハマったなって感じですね。

――トラップ系の図太いバック・ビートの隙間に拍をズラしたプルのニュアンスが際立ってますね。

 まぁちょっとチャレンジ過ぎるので、もしこれが他人の曲だったらやってないですね(笑)。自分のアルバムだから、おもしろいことをぶち込んじゃったって感じです。ちなみに音源だとビートは打ち込みですけど、ライヴだと生ドラムなんです。先日のライヴでやったときもゴスペルチョップス寄りなテイストになりましたけど、意外といい感じにハマりました。自ずとEDMにチョップス感を混ぜたかったのかもしれませんね(笑)。

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