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INTERVIEW − 前田恭介[androp]

  • Interview:Kimiya Mizuo
  • Photo:Taichi Nishimaki

経験を積んできたことで音楽との向き合い方が変わってきた。

━━「Black Coffee」はベースの音色が特徴的ですが、パーム・ミュートで親指弾きで弾いていますか?

 あれは親指弾きではなく、フランシス・“ロッコ”・プレスティア(タワー・オブ・パワー)がやっているような左手ミュートで弾きました。この曲は6、7テイク録っているんです。昔、真船(勝博)さんが“これでもかってほど弾いたあとに引き算していって作るのもおもしろい”と言っていたのを思い出してそれをやってみようと思って。たぶん全然オッケーは出ないだろうなと思いながら弾きまくって(笑)。そこからシンプルになりすぎずにいい塩梅に落ち着くまで、引き算して試行錯誤していきましたね。

━━なるほど。「Black Coffee」はドラムもグリットどおりではない、レイドバックしたリズムになっていておもしろいですよね。このようなリズムに合わせてベースを弾くときは、どのくらいクリックを聴いてプレイするのですか?

 あんまりクリックは聴いていなくて。クリックってお客さんは聴こえてないじゃないですか。なのでドラムを聴くようにしていて、特にスネアの位置をしっかりとらえることを常に意識しています。

━━それとヴィブラートも多用していますよね。楽曲に取り入れるうえでのコツはありますか?

 ヴィブラートといえばやっぱり山口寛雄先輩ですね。ヴィブラートって抜けるところで使わないといけなくて、ほかの楽器や歌の隙間を縫ったほうがおいしく使えるな、とは思います。音圧じゃなくてウワモノっぽい役割で聴かせるものなので使いどころはすごい大事ですね。いわゆるレイドバック系の音楽って、絶対みんなディアンジェロ作品でのピノ・パラディーノのプレイに影響を受けていると思うんですけど、僕自身もピノにはめちゃめちゃ影響受けていますね。

━━「Happy Birthday, New You」 はBメロの“何億光年前から待ってた”の歌詞部分で徐々に降下していくように入るベース・ラインがとても印象に残りました。

 展開を作ろうと思ってコード・トーンをクロマチックで降りていって、歌うように弾いたらあの感じになりましたね。注目してくださって嬉しいです(笑)。あそこはバロック的というか、不思議な雰囲気になっていますよね。


━━「Hyper Vacation」は夏らしく軽快な楽曲で、ベース・ラインはハネるようなフレーズを一定で刻んでいますね。

 この曲のベース・ラインはほぼデモどおりになりましたね。最初の音決めの際にデモと違う感じで僕なりに弾いてみたんですけど、そしたら“J-POPっぽすぎるんじゃないか?”という意見が出て、ほぼデモどおりに弾くことになりました。あと、2番Bメロの“冷めた視線に〜”のところで一瞬“タタッ”て弾く場所があるんですけど、あれは伊藤彬彦(d)に“ランディ・ホープ・テイラー(インコグニート)みたいな感じを入れろ”と言われて入れました(笑)。

━━「Toast」は多幸感に溢れる楽曲で、ベースは4弦開放のE音よりも低い音も弾いていますね。

 ここ4、5年ぐらいはゴスペル調の雰囲気の曲をやることも多いんですけど、僕的にはこれもそのなかのひとつだと思っています。ゴスペル系の曲はキー的にけっこう低いところが出てくるんです。そういうとき、今までだったら4弦ベースでオクターヴ上で弾いていたんですけど、ゴスペル系のミュージシャンたちが大体5弦ベースを使っているので、5弦の帯域を弾くほうがそれっぽいのかなと思って今回は5弦で録りました。

━━「Toast」では、ベースがキックと同タイミングで“ドドーッ”とシンコペーションで入る感じが、楽曲の持つ穏やかな雰囲気のなかで、優しく背中を押されるような感覚がありました。

 そんなふうに聴こえますよね。もともとはデモに一瞬だけ入っていたフレーズなんですけど、それを“これいいな”と思って全篇に導入しました(笑)。

━━キックとタイミングを合わせるというのは意識しましたか?

 いや、キックに合わせるっていう意識はあんまりなくて、本能的というか。音決めで一度録って聴いてみたときに、自分が弾いた感覚と曲が合ってないことを感じると、“こっちのほうがいいかも”って自分なりに変えてみる。そういう方法でベース・ラインが決まっていくので。キックとベースの関係とかって昔はめちゃめちゃ考えてレコーディングに挑んでいたんですけど、経験を積んできたことで音楽との向き合い方がだいぶ変わりましたね。

━━ベース・ラインはロング・トーンを中心に構成されていますが、音価の調整にはかなり気をつかいましたか?

 たしかに気はつかいましたね。僕は自分で気持ちよく弾こうとすると音が短くなりがちのタイプの人間なので、しっかり伸ばす/切るっていうのはもうバンドを始めてから14年間ぐらいずっと意識しています。なので正確には“気をつかっている”というより、先ほど話した“何が来ても自分が思ったものを表現できる状態にしておこう”という意識がそこにつながっているんだと思います。

━━“当たり前のように気をつけている”というか、もはや“気をつけている”という意識すらない?

 そうです。その意識もないところに自分を持っていきたいと思っています。 ただ、そんななかで自分なりにベースを弾いていると、今自分がどの方向を向いているのかが自分ではわからない瞬間があったりするんですよね。そういうときはメンバーに“どうすればいい?”って聞いて、“こっちのほうがいいんじゃない?”って言われたときにちゃんとその方向を向けるように準備をしておく。日々そういった鍛錬をしておくことで、“バンドのみんなで音楽を作る”ということができるんじゃないかなって思っています。

━━間違いなく、理想のバンド像のひとつですね。

 たぶん音楽を表現するうえではそのほうが楽しいんじゃないかなって思いますね。

━━今作はどういう環境でレコーディングしたんですか?

 普段のレコーディングはライン録りが大半なんですけど、今回は気まぐれで「Toast」と「Hyper Vacation」はアンペグのSVT-15Eにマイクを立てて録りましたね。竿は曲によって複数のベースを使い分けています。

MAEDA’S GEAR

フェンダー・アメリカン・デラックス・ジャズ・ベースV。右のモデルが「Toast」で使用された。
「Hyper Vacation」で使用した1969年製フェンダー・ジャズ・ベース。
「Black Coffee」で使用した1960年製フェンダー・プレシジョン・ベース。
1960年製フェンダー・ジャズ・ベース。「Arata」「Happy Birthday, New You」で使用された。左に積まれた上段のアギュラー製DB751(アンプ・ヘッド)は今作のレコーディングでも使用された。下段はバグエンド製S12-B(キャビネット)。
アーニーボール・ミュージックマン・スティングレイ。フラット弦を張っており、「Parasol」で使用された。

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