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    INTERVIEW – タイラー・ハイド[ブラック・カントリー・ニュー・ロード]

    • Question:Shutaro Tsujimoto
    • Translation:Tommy Morley
    • Live Photo:Mark Allan
    • Artist Photo:Rosie Foster

    基本インプロヴィゼーションのパートはなくて、
    すべてアレンジされたもの。

    ──「Concorde」の途中のベース(3:20〜)は、オモテとウラが入れ替わるおもしろいフレーズになっていますが、これはどうやって発想したのでしょうか?

     これは多くのメンバーがいろいろなパートを作るなかで、その重ね合わせのなかで生まれたものね。私たちの場合、誰かがひとつのテンポや符割でアイディアが浮んだとしても、それについてほかのメンバーが分析している過程で新しいパートができてくることがあって。付箋に書いたものをどんどん貼っていくように、新しいセクションが生まれていくというか。ベースに関しても、そのパートを“誰がリードして作るか”ということに影響を受けているの。私たちは自分たちにとってチャレンジングなものに挑みたいと思っているし、こういうことでもしないと飽きてフラストレーションが溜まってしまうからね(笑)。

     “Concorde” (Official Video)

    ──BC,NRの作曲クレジットはメンバー全員になっていますよね。楽曲の制作プロセスにおいて、タイラーさんはどういう役割を担っていると思いますか?

     バンドの誰にでも言えることだけど、役割は常に変化していて誰かが常に特定のことをしているわけではないのよ。ちょっとしたリフを考えて提供するなんていうのはごく一部の役割でしかなくて、6分間の曲のなかでみんながさまざまな役割を交代しながら果たしているわ。

    ──メンバーが7人もいると、誰かが持ってきたアイディアに納得がいかないこともあるかと思います。そういったとき、どうやって着地点を見つけているのでしょうか?

     第一に、私たちはそれぞれが発言する権利を持っている。もし誰かがずっと黙っていたら、どう思うかを尋ねるようにしているけど、ほとんどの場合はその場で起きていることに賛同しているから意見を特に出してないだけで、まったく問題ないことが多い。でも例えば私が曲の一部のパートを変えるべきだと感じることがあっても、私以外の人がけっこう乗り気になって興奮していたら、そのまま流れに任せるようにしているわ。私たちは最高の友人だし、互いのことをしっかりと理解している。だから自分以外の6人がそれでOKと思っているのなら、そのまま彼らの意見を信じておこうと考えるし、一方で誰かひとりでもなにかを強くネガティブに捉えて食い下がることがあれば、それも尊重すべきだと思っていて解決策を探るようにしている。もしみんなが揃ってハッピーでなければ、そのまま進めていくことはできないわ。

    ──ところで、BC,NRの音楽は即興的に演奏しているように聴こえる部分もありますが、実際これらはレコーディングではインプロヴァイズしているのでしょうか? それともすべてに綿密なアレンジが施されていますか?

     基本的にアルバムにはインプロヴィゼーションのパートはなくて、レコーディングされているものはすべてアレンジされたものね。

    ──ライヴでは音源から離れて即興的なプレイをすることはありますか? それとも極力音源の再現を意識していますか?

     基本的に音源に忠実にプレイしていることが多いけど、かといって絶対にアルバムと同じようにプレイしなきゃならないというプレッシャーを感じているわけでもない。音源と同じパートや構造のまま演奏することは意識しているけど、ルーズさを持つべきだとは思っていて、変化を加えることに対してはオープンに接しているの。前作の曲なんてかなり変わってきていて、もはや別のバージョンでプレイしている曲もあったりする(笑)。

    ブラック・カントリー・ニュー・ロード

    ──「Intro」 から「Chaos Space Marine」の流れは一連のシーケンスっぽいプレイも相まってリターン・トゥ・フォーエヴァー時代のチック・コリアっぽいサウンドを感じました。あなたたちはそこまでジャズやフュージョンについて詳しく口にしてこなかったと思いますが、そういったジャンルからの影響もありますか?

     この曲はそういう影響が強く出ているわよね。私も含めて何人かがそれなりにジャズを聴いてきた。特にルイス(・エヴァンス)はフルート、ジョージア(・エラリー)はヴァイオリンでジャズを学んできたから、彼らはその影響を感じさせずにはいられないのだと思う。私はルイスとジョージアのパートに反応するなかで、彼らがプレイするスタイルを偶然にもコピーしてしまっている。誰かが持っている知識が誰かのなかに入り混んでくるっていうのがほぼ無意識的に行なわれていて、このやり方に私たちは慣れてしまったところがあって。異なった経験を持った仲間から互いに吸収し合っているというのはおもしろいところね。

    ──ちなみに本誌2月号の表紙は元ソニック・ユースのキム・ゴードンなんです。BC,NRは昨年ライヴ番組で彼女と共演し、対談も行なっていましたよね。彼女の活動や音楽からインスピレーションを受ける部分はありますか?

     彼女がやっていることを尊敬しているし、2019年の彼女のソロ・アルバムは私の大のお気に入りよ。私は特定の人をアイドル視するようなことはしないようにしているけど、でも長きに渡ってグレイトな音楽を作り続けてきた人たちを見るとそれだけでインスパイアされてしまうものよね。

    ──昨年のBBCのライヴ番組『6 Music Festival 2021』では、サッカー日本代表のユニフォームを着ていましたよね。あれはどうしてですか?(笑)

     あれは私が子どもだった何年も前に手に入れたもので、私は昔から日本が好きだし何度か行ったことがあるの。多分あれは父(編注:アンダーワールドのカール・ハイド)が買ってくれたものだと思う。幼い頃の私はサッカーに夢中で、ちょうどその頃日本のサッカー女子代表がワールド・カップで世界一になったのよ。

    “Track X” (6 Music Festival 2021)

    ──まだ日本ではライヴをしたことがないと思いますが、日本でプレイをするならどんなステージになりそうですか?

     日本でプレイする機会がやってきたら……私たちがどんなバンドなのか伝えられるようなものにしたいわね。BC,NRのライヴは常にその瞬間の私たちがどういったものであるかを正直に伝えるもので、そしてそれはその時々によって変化している。だから私たちですら日本でどんな風にプレイしているのか予想できないのが正直なところで(笑)。特に今はコロナ禍でのロックダウンを経ていて、自分たちがどう変わったのかが未知数でもある。そっちに行ってプレイする頃には今までの私たちとはあまりにも大きく異なっているだろうから自分でも想像できないし、その変化を私たち自身も楽しみにしているところね。

    ◎Profile
    たいらー・はいど●幼少期にクラシック・ギターを学び、16歳からベースを始める。2015年にケンブリッジで8人組のハードコア・パンク・バンド、ナーヴァス・コンディションズを結成するも2018年に解散。その後、同バンドのメンバーだったアイザック・ウッド(vo,g)、ジョージア・エラリー(violin)、ルイス・エヴァンス(sax)、メイ・カーショウ(k)、チャーリー・ウェイン(d)とブラック・カントリー・ニュー・ロードとしての活動を開始すると、ロンドンのアンダーグラウンド・シーンで支持を集め、2019年1月にはダン・キャリーが主催するスピーディー・ワンダーグラウンド(Speedy Wunderground)から7インチ・シングル“Athen’s, France”でレコード・デビューを果たす。バンドはその後ルーク・マーク(g)が加入し7人編成となったのち、2021年2月には初のフル・アルバム『For the first time』を発表。全英チャート初登場4位という快挙に加え、多くの媒体の年間ベスト・アルバムのリストに選出されるなど各方面から高い評価を得た。間髪を置かず、続く2作目となる『Ants From Up There』が2022年2月4日にリリースされることとなったが、リリースの4日前にフロントマンのアイザック・ウッドがバンドからの脱退を発表。バンドは、6人編成で継続することをアナウンスしている。

    ◎Information
    ブラック・カントリー・ニュー・ロード
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