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    INTERVIEW – TENDRE

    • Interview:Zine Hagihara

    ストーリーを加速させるヒューマナイズされた低音

    コロナ禍で変わった環境は、芸術家のインスピレーションに影響を及ぼすだろう。ベースを始め、ギター、鍵盤、サックスまでこなすマルチ・プレイヤーのTENDRE(テンダー)は、そのなかで2ndフル・アルバム『LIFE LESS LONLEY』を完成させた。ベースが最も体に馴染む楽器であるTENDREにとって、トラックメイク然としたポスト・プロダクションを特徴とする彼の音楽のなかでベースは“人間らしさ”を加える重要な要素であると語る。渾身の2ndアルバムに込められた感情表現は、どのように昇華されて音となったのか。オンラインの画面を通して話を聞いた。

    ちょっとしたハンマリングやプルが、
    主役を引き立てる演技になる。

    ━━コロナ禍であることは、音楽活動にはどのような影響がありましたか?

     ライヴを披露する場がなくなって、そのなかで時間だけがたくさんできるんですが、それを前向きに捉えれば制作に充てられると思えるようになっていました。まわりも含めて“どんどん作っていこう”という風になりつつも、それゆえにちょっと考え込んでしまう時間が増えてしまったところもあります。良いように作用するときもあれば、やっぱり今の世の中の空気感を感じてしまうこともあって、それが曲を作るうえでの原動力になりづらかったりもしましたけど、そのなかでも制作に向き合っていきました。今作(9月23日にリリースされた新作『LIFE LESS LONLEY』)のおもな曲が揃い始めたときにコロナ禍が始まってしまっていつも以上に腰が重い時期もありましたが、無事に作れたという感じです。

    ━━自粛生活だと、何かを取り入れるために外に出向くようなことも難しいですから、アウトプットにも多少の影響はありますよね。

     そうですね。外部から取り入れる刺激が少なくなってしまうのはどうしてもありました。楽器に関するアウトプットに注視すると、誰かのライヴを観に行くことだったり、歌や歌詞で言えば海外などの行ったことがないところに旅をしてみたりとか、いろんなインスピレーションを得て、そうやって培ってきたもので自分の表現を追求していくもんだと思うんですけど、そういう刺激が少ないとやっぱり寂しいものがあります。

    ━━ある意味では鬱屈したなかで感じたことがこのアルバムに込められているのだと思いますが、悲しいことを歌っているような曲でも、気持ちよく聴ける演奏の出来栄えが絶妙で、この感情と演奏のバランス感がTENDREらしさでもあると感じました。

     まあ、捉え方によっては、“悲しい”と感じることができるということが素晴らしくもあるというか。外に出られないと見ている景色が似てくるわけで、だからわりと過去のことを振り返ったり、今年思ったことをいろいろと感じながら、それを演奏に落とし込んで色として付けていくような作業でした。過去を振り返るようなことも、ただスタジオに入って音を出しているだけではなかなかないことですから。そういう意味では、より心象的なところに音楽として目を向けられたかなと思いますし、こんな状況でもアルバムを完成させられたのは自信につながりました。ひとつのアルバムを作ると、また次のアルバムにつながると思うんです。アルバムをひとつ作って終わりということはなくて、そのなかで2020年は計らずとも自分の心象を表わし切れた内容の濃いアルバムになった気がしています。

    ━━機械の音や水滴などの実験性の高いサウンド・アプローチや、楽曲のセクションによってエレキ・ベースとシンセ・ベースを使い分ける点など、複雑な心情を表わすように音楽的な工夫が随所にありますよね?

     楽曲を作っていくなかで、そうやっていろいろ試してみて実験的なことを行なったりもするんですが、なぜ実験するのかが大事だと思うんです。“なんか良いから”という直感的な発想もおもしろいですけど、なにかの気持ちにひも付いた音であるなら、そのほうが人に伝わるんじゃないかな、と。そうやって根本の部分を持たせて、ベースのサウンドで実験したり、いろんなサウンド・マテリアルを使っていったりしたんだと思います。

    ━━TENDREさんはベースを始めとした生楽器を活用しながらもポスト・プロダクションではトラックメイク的アプローチで楽曲を構成しているのが特徴的ですよね。そのなかで、トラック的なアプローチに対する“ヒューマナイズ”された部分はベースが担うことが多いのでは?

     確かにそうかもしれないですね。インスピレーションとしては、ビート・ミュージックにおいての自分の要はベースであることが多いと思っているので、ベースでヒューマナイズされたものを込めることが多々あります。管楽器、鍵盤にも同じことが言えますね。あとは、生で録ろうと思うものは人力だからこその揺れ感や曖昧さを大事にしています。とはいえ、自然にやっていることなので、よくよく考えたら、という意味合いではありますが。

    『LIFE LESS LONLEY』
    Rallye Label/SPACE SHOWER MUSIC
    DDCR-7113

    ━━「FRESH」は管楽器もたくさん鳴っているなかでベース・ラインは積極的にメロディを演奏するプレイになっています。それぞれが有機的でアグレッシブな動きをしていながら、しっかりと織り重なった巧妙なトラックメイクとなっているのがさすがでした。

     なんとなくですが、“縫い目”というイメージですかね。人が音楽を聴いているときに、やっぱり1バースのなかで最も印象に残るのは“ここでヴォーカルが歌っている”というようにひとつだと思うんです。そこに縫い目をつけるようなイメージで音を配置すると、メロディの強化だったりグルーヴの強化だったりにつながっていくと思います。そのなかでは歌ものに関しては“4小節の間にメロディが鳴っていないといけない”ということもないので、管楽器があるポイントまで鳴ったあとにベースがヌッと入ってきて縫い合わせることで、クロスフェード的な手法で、舞台の演出のようなものになるというか。当然、舞台の主人公はメロディだったり、バースごとのリード楽器だったりだとは思うんですが、そのまわりでどのような登場人物が引き立たせるのかというのを考えるのが好きなのかもしれないですね。

    ━━なるほど。

     ベースのちょっとしたハンマリングやプルだけで、グッと前に出てくれるじゃないですか。そうやって要所でスタンプを残していって主役を引き立てるっていう、そういう使い方が大事なのかなって。それによって曲の印象も変わりますからね。これは正しくミックス作業と曲作りは同じで、舞台の監督じゃないですけど、まさに“自作自演の極み”という感じだと思います。

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