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INTERVIEW – ニコライ・フレイチュア[ザ・ストロークス]
- Interpretation:Tommy Morley
音楽には“~すべき”といった
絶対的な決まりを定めるべきじゃないと思う。
━━「セルフレス」ではベースの和音弾きが披露されています。これはどのような流れで入れたフレーズですか?
あんまり覚えていないんだけど……セッションを開始する1時間くらい前にメンバーが揃い始め、ジャムりながら打ち合わせをしてね。そこでは“どんなサウンドにしなくちゃいけない”とか、逆に“何をしてはいけない”といった決まりを設けずに自由に話し合いをしてさ。そのなかでリックが“これはいいんじゃないか?”と指摘してくれたものをいくつか集めて作っていった。そのなかのひとつじゃなかったかな。1stアルバムもそんな感じでやっていたけれど、実はこういったスタイルってかなり久しぶりでね。5人だけで部屋に揃って自由に実験するってことが久しぶりに実現したんだよ。
━━「ブルックリン・ブリッジ・トゥ・コーラス」にはダンサブルなグルーヴがあります。最近の音楽だとフェニックスやダフトパンクに象徴されるようなサウンドに近いものを感じますが、そういった音楽に影響を受けることはありますか?
特定の何かに影響を受けていたわけじゃないし、やっぱりこれも僕らがひとつの部屋に集まって作業をしていたところから生まれている。その場で感じたものを大切にして、“この曲ではもっとパンチがあったり、ダンサブルなものがいいのかな?”って思ったってことだね。ほかの曲はテンポがゆっくりなものが多かったし、そういった曲では指弾きをトライしたものもあった。そんな工夫をして曲に合ったムードを作っていったんだよ。
━━「エターナル・サマー」はグルーヴのポケット作りが秀逸です。個人的にはビル・ワイマンや、ロニー・ウッドのベース・プレイのニュアンスも感じましたが、どんなイメージでしたか?
この曲では何ていうか……ちょっと変に聞こえるかもしれないけれども“トーキング・ヘッズとピンク・フロイドをミックスしたような感じでやってみよう”というのが、僕の頭のなかにあったことでさ。むしろほかの曲に、ビルやロニー、もしくはキース・リチャーズがプレイするベースみたいな雰囲気のものがいつかあったような気がするよ。
━━「ノット・ザ・セイム・エニモア」もリズムがキモになる演奏ですね。
20年近くベースをプレイしてきて気づいた、リズムの捉え方やタイトなプレイがうまく表現できた曲だと思っている。自分のプレイを通じて、どことなくメランコリックなムードを作り出したかったんだ。この曲は指弾きでプレイした曲で、まさにグルーヴをかなり意識したね。
━━「バッド・デシジョンズ」のビデオクリップは1970年代から1980年代のテレビコマーシャルをかなり意識した作りですね。こういったコンセプトは曲を作ったときから一緒にあったのですか?
1970年代くらいのああいったテレビコマーシャルって、視聴者に向かって“買ってくれ!”って感じで訴える雰囲気がすごく強かったよね。ある意味同じように“ぜひ君たちに僕らを買ってもらい、家で楽しんでもらいたいな”ってアイディアが根底にあったんだ。これが当時の風潮になんだか合致しているようなところがあったってことだね。
━━ザ・ストロークスにおいてベースが果たすべき役割とは?
“何かをすべき”という風に考えたことはないかな。音楽には“~すべき”といった絶対的な決まりを定めるべきじゃないと思う。僕らが集まって一緒にプレイするときは、何よりもフィーリングを重視している。どの曲にもさまざまな選択肢があるわけだし、やれることを最大限に何でもトライするのが当たり前で、むしろ何かをやり残すべきじゃないと思っているくらいだ。そうやってすべてを引き出したなかからうまくいくものを選び取っていくという姿勢が大切さ。今までだとアルバムを作り終えた頃に“こんなことができたな。あぁ、あっちのほうにしておけばよかった……”なんて思ったことが多々あったけれども、今回はそんなことが一切なかったよ。
━━納得度が高いんですね。
そう。特にリック・ルービンが思い描いていたのは、僕らみんなが一丸となって刺激し合いながら演奏することだった。それは実現できたと思っている。そういった点で考えると、このバンドでベースがやっていることといえば、たいていの場合ルートを弾いてグルーヴを保つってことになるのかもしれない。けれども、ヴォーカルやギターが自由にプレイしているなかで、ベースがメロディックなラインを弾くこともあるし、今はほとんどやっていないけれど、ダブル・ストップやタッピングのフレーズを混ぜてみたっていいと思っているんだ。とはいえ曲というものは固有のサウンドがあるわけだから、そこを守りながら実験的なプレイをやってみたいというのが本音だね。
━━なるほど。
バンドとして歩むと同時にこの楽器を学び、音楽全般的なことについても知るようになっていった。それにともないベースのアプローチも幅が広がっていったようなものでさ。ジャコ・パストリアスやヴィクター・ウッテンといった人たちを知ってテクニックについて学び、それをロック・バンドに持ち帰った際に新たなアプローチとなっていった。みんな知ってのとおり僕はほとんどピックでプレイするけれども、それ以外のアプローチもロック・バンドに持ち込むようになったんだ。
━━これまでに発表した楽曲で、一番気に入っているベース・フレーズは?
いろいろあるけれども、プレイしていて楽しいのは「レイザーブレード」(2006年発表の『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』収録)かな。モータウンっぽいファンキーなグルーヴがあって、曲が持つメロディと混ざったときのフィーリングが最高だ。でもプレイしていて楽しい曲もあれば、聴いていて楽しい曲もある。場面や気分によってさまざまなお気に入りの曲があるよ。
━━今作のレコーディングにおいて、メインで使用したベースについて教えてください。
今、僕が使っているのは1968年型のプレシジョン・ベースのリイシューだ。『カムダウン・マシーン』(2013年)くらいまではずっとジャズ・ベースをプレイしてきたけれど、僕たちの音楽だとベースってどうしても土台となって支えることが多いし、ギターがやりたい放題しているときのバックグラウンドをしっかりと作ることが求められたりする。プレベはパワーがあるし、アンプの設定やペダルの組み合わせ、ベース本体のトーン・ノブを調整することで、バックグラウンドを支えることはもちろん、それまでジャズ・ベースでやってきたことも充分にやれる。もちろん今作でもプレべだけじゃなくて、フレットレス・ベースやジャズ・ベースも使っているけどね。
━━メイン・アンプは何を?
スタジオに置いてあったアンペグSVTをメインで使った。ライン直という場合もあるよ。
━━なくてはならないペダルはありますか?
エレクトロ・ハーモニックスのマイクロ・シンセは頻繁に使っているね。目立った使い方をすることもあれば、ほんのちょっとテクスチャーを加えるだけだったりもする。スタジオに置いてあったボスのCE-2っていうコーラス・ペダルも使ったね。
━━今夏はフジロックのヘッドライナーとしての出演が予定されています。来日公演は2006年以来でとても久しぶりですが、日本のファンはみんな興奮していますよ。
僕らもさ。すぐにでも日本に飛んでいきたいと思っているよ(笑)。それくらい興奮しているってことだね!
━━ところで、ソロ・プロジェクトNickel Eyeはもうやらないのでしょうか? 現在はどんな音楽を志向していますか?
僕にはもうひとつサマー・ムーンというプロジェクトがあって、ジェーンズ・アディクションのドラマー(スティーヴン・パーキンス)と一緒にやっている。2016年か2017年にEPを出したけど、こういった状況が落ち着いたら、近いうちに新しいEPを出せる状態にあるんだ。メンツ的にどうしても活動はロサンゼルスが中心となってしまう。だからストロークスでの活動がひと区切りついたら、そっちでまた動こうかなという感じだね。
◎Profile
にこらい・ふれいちゅあ●1978年11月13日生まれ、米国ニューヨーク出身。1999年に幼馴染のジュリアン・カサブランカスらとザ・ストロークスを結成する。2001年にラフ・トレードからデビューし、1stアルバム『イズ・ディス・イット』が世界的なヒットを記録。“ロックンロール・リバイバルの騎手”として脚光を浴びる。2020年4月に通算6作目となるアルバム『ザ・ニュー・アブノーマル』を発表した。
◎Information
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