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INTERVIEW – TOMOMI[SCANDAL]

  • Interview:Kengo Nakamura

最強ガールズ・バンドのイメージを革新する10枚目のリアル

2021年に結成15周年を迎えたSCANDALが、活動の中心であるというライヴが奪われてしまったコロナ禍において、個人としてもバンドとしても自分たちと向き合い、今をリアルに映し出した楽曲を編んだ10thアルバム『MIRROR』をリリースした。現代的なダンス・ミュージックやクールなロック、ゴスペル、ナチュラルなフォーキーさなど幅広い音楽要素を取り込み、これまでよりもテンポを落として制作された楽曲群は、従来のSCANDAL像を革新していく仕上がりで、彼女たちに対してある種の先入観を持っている人には大きな驚きを与えるだろう。“これまで”よりも“これから”を見据え、そのポテンシャルの高さを改めて感じさせた本作について、ベーシストのTOMOMIに聞いた。

答えがないというか、まだ迷っている。
そういうものがそのままアルバムになった。

━━前作『Kiss from the darkness』は2020年2月リリースで、ちょうど新型コロナウイルスの問題が大きくなり始めた頃でした。そのあと“コロナ禍”という状態になり、ライヴのキャンセルなども含めていろんな予定が大きく変わっていったと思いますが、この2年間を振り返ると?

 最初はめちゃくちゃ落ち込みましたね。前作のアルバムのツアーを回れなくなったことが本当にショックな出来事で。自分たちにとってはライヴが活動の中心で、ツアーのためにスケジュールも割いていたから、それがなくなってしまうと本当に何をしたらいいのかわからないみたいな状態だったんです。緊急事態宣言が出てステイホームの期間中に、“ライヴができないなら曲を溜めよう”みたいな話にはなったんですけど、落ち込みすぎて、みんな何も浮かばなくなっちゃって。本当に、“何にもない”みたいな日々が結構続いたんですよね。だから今作は、取りかかるまでにすごく時間がかかったし、自分たちが今後どういう風に音楽活動を続けていけばいいんだろうとか、どういうものを表現していくべきなんだろうみたいなことを、迷いながら、明確に答えが出ないまま、曲作りを進めていったんです。今までのアルバムは、コンセプトを先に決めていたりだとか、タイトルが先にあったりとか、いわゆる答えや結論みたいなものを曲に落とし込んでいたんですけど、今は、まだコロナ禍ということもあるし、答えがないんですよね。見つけられていないというか。まだ迷っているし、そういうものがそのままアルバムになったなと思います。

━━そういう迷っている自分たちを正直に見せていくことが、今の自分たちのリアルであると。

 リアルだと思うし、自分たちには今、それしかできなかったですね。だから、アルバムにはボーナス・トラックも含めて12曲入っているけど、結論づけている曲がほぼなくて。答えを出さないままの曲が自然と集まったっていうのは、自分たちにとってはすごく新鮮で、新しいものが生まれたなっていう感覚があります。

━━確かに新作『MIRROR』は、これまでのアルバムとは違った質感がありますね。楽曲的には現代的なダンス・ミュージック要素やクールなロック、ナチュラルなフォーキーさなど幅広いですし、メンバーそれぞれがメイン・ヴォーカルを担当する楽曲も含めて、多彩さが印象的でした。

 それぞれがお家で過ごしたりする時間が長かった分、自分と向き合う時間が長かったんですよね。それに去年は結成15周年ということもあって、バンドとしても、自分たちと真剣に向き合ったんです。だから、そういうひとりひとりの趣味嗜好も混ざっているし、15周年を経てこれから先、できるだけ長くこのバンドを続けていくために、どういうサウンドで、どういうテンポで音楽をやっていこうかみたいなことを、毎週ミーティングで話していたんですね。そういうものの表われかなと思います。

━━また、ライヴを想起させるようなアッパーなロックの要素は控えめで、いい意味でライヴを想定していないのかなと思いました。家でリラックスして聴いていても楽しめる音楽というか。

 そうですね。自分たちは普段そういう音楽を聴いているし、憧れていたりもするから、そういうものが表現できるようになったのは嬉しいなと思います。コロナ禍でライヴができなくなったり、声が出せなくなった状況だから、これまでの“ここでコール&レスポンスができたらいいね”みたいに曲作りしていたやり方とは、まったく違うやり方で制作しています。

『MIRROR』
her/VICL-65653(通常盤)
左から、TOMOMI、HARUNA(vo,g)、RINA(d)、MAMI(g)。

━━YouTubeでドキュメンタリー映像『“her” Diary 2021 on YouTube』を公開していますよね。そのなかでTOMOMIさんは、2021年最初のシングルであった「eternal」が、サウンド面でも転換点となる曲だと言っていました。

 まず「eternal」は、レコーディングのスタイルもこれまでと変えたんですよ。コロナ禍ということもあって、アレンジをお願いしたシライシ紗トリさんの自宅スタジオに、メンバーがひとりずつ行って重ねていくやり方にしたんです。今までも重ねていく作業はあったんですけど、全員がスタジオに入って意見を出し合いながら構築していくとか、まずは全員で一発録りしてからとか、そういうやり方だったんです。「eternal」は、それぞれが違う日にひとりずつ行ったというのもあって、けっこう自由に時間を使えたっていうか。パッと録れちゃったらそれはそれでいいし、こだわりたかったらとことんこだわれるみたいな環境で、それがそのときの自分たちにフィットしたし、こういうやり方もアリなんだなっていう新しい制作スタイルを見つけられたような気がしました。

━━なるほど。

 あと自分たちのなかでは、ずっと“テンポ”っていうのがテーマにあったんです。これまでは、わりとテンポが速くて展開が多くて複雑なものをやりがちで、それは“ライヴに行って楽しい”ということを考えていたからだと思うんです。でも、コロナ禍でみんなお家にいる時間も長くなったし、まわりの私たちくらいの世代の人を見てみると、家族ができたりっていう環境の変化でなかなかライヴに足を運べなくなったりしていたんです。そういうこともあって自然と、プライベートで自分たちが聴いて心地いいもの、お家で聴いて楽しめる音楽が作りたいなって思うようになった気がします。これが、またライヴで声を出せるようになったらどうなるかわからないんですけど、それでも、歳を重ねても長く表現できる音楽っていうことを考えると、今のこういうサウンド感が、自分たちのなかのスタンダードになっていくのはいいんじゃないかなっていう気がしています。

━━「eternal」のベースに注目すると、2番に入る前のセクションで、フレーズを大きく動かすのではなくハイポジの1音をリズムの変化で聴かせて場面展開をしているのが巧みだと思いました。

 ちょっと前までは複雑なことをするのが楽しかったし、いっぱい動いてちょっと派手に聴こえるフレーズとかが好きだったんです。でも今の気分なんですかね、フレーズがシンプルであればあるほど、削ぎ落としていけばいくほど自分にフィットしている感覚がありますね。

━━タイトル曲の「MIRROR」は、今っぽいダンス・ミュージックをバンドで再現したような曲で、スケールの大きな曲ですね。

 この曲はMAMI(g)が作曲してくれたんですけど、K-POPがリファレンスだったんですよ。今、K-POPのサウンドがすごくカッコいいなと思っていて、MAMIとかは本当にK-POP漬けみたいな感じなんです。世界的にも流行っているし、お家で聴いていても楽しめるサウンドが、今の時代にすごくフィットしているなと思っていて。自分たちも好きで聴いているし、それをバンドで表現したらどうなるかっていうところから始まった曲ですね。

「MIRROR」 Music Video
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