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INTERVIEW – フィル・ブレイク[ナッシング・バット・シーヴス]
- Interpretation:Tommy Morley
UKロックの次世代を牽引する歪みベース
UK/サウスエンド出身の5人組ロック・バンド、ナッシング・バット・シーヴス。フー・ファイターズ、カサビアン、ミューズ、ジェフ・バックリイなどから影響を受けたという彼らは、アルバム・デビュー前から大型フェスへの出演を果たし、日本でもサマーソニック2015に登場。そのライヴ力の高さを見せつけた。その後、2015年に1stアルバム『ナッシング・バット・シーヴス』、2017年に2ndアルバム『ブロークン・マシーン』をリリースすると、チャート・アクションでもめざましいものを見せ、世界各国で人気を拡大している。そんな彼らが、通算3枚目となるアルバム『モラル・パニック』をリリース。ヴォーカリストであるコナー・メイソンの卓越した歌唱を軸に、鋭利なギター・リフや躍動的なリズムがせめぎ合う充実作について、ベーシストのフィル・ブレイクに聞いた。
ディストーションって何百種類とあるけれど、
僕たちが欲しいのって、モダンなサウンドのなかで使えるもの。
━━アルバム『モラル・パニック』は、前作『ブロークン・マシーン』から3年ぶりのアルバムとなります。制作にはいつから取りかかっていたのですか?
EP『ホワット・ディド・ユー・シンク・ホウェン・ユー・メイド・ミー・ディス・ウェイ?』(2018年10月発表)をリリースしてすぐに取りかかったよ。17曲くらいデモを作って、去年の今頃には本格的なレコーディング作業に入っていったね。作業中も作曲の手を止めることはなくて、少しでも良い曲ができないか常にトライし続けていたよ。実質2ヵ月で録音作業は終わったんじゃないかな。
━━バンド内ではどのようなアルバムを目指そうと話していたのですか?
具体的な何かというよりは、僕らは単に“より良いもの”を目指していた。もっとロックしたかったし、エレクトロニックなところはさらに追求したかった。感情的な面で言うといくつかのラヴソングにもトライしたし、バンドのサウンドという点でいろいろなチャレンジをしている。アルバムの出来にとても満足しているし、これを上回る作品を作るのは相当大変だろうと思っているよ。むしろそのときが来るのを恐れているところもあるくらいさ(笑)。まぁそれだけハッピーということだね。
━━1曲目「アンパーソン」から、ベースの激しい歪みサウンドが炸裂しています。この曲はどのようにサウンドメイクしたのですか?
3年前に楽器店で見つけたアースクエイカー・デバイセスのDirt Transmitterというペダルが僕の秘密兵器でね。あるとき、それを失くしてしまってしばらく使うことなく過ごしていたら、一緒に住んでいたドム(クレイク/g)がクローゼットのなかにあるのを発見してくれた。今回、初めてレコーディングで使用してみたんだけど、それがこのアルバムのサウンドのひとつになったんだ。このペダルは僕が今まで使ってきたなかでもズバ抜けて最強なサウンドが得られたよ。レコーディング中はコントロール・ルームが揺れていて、何でもクリッピングを起こしていた。今でもネット上では手に入るだろうけれども、生産はしていないんじゃないかな。リード・シングルになった「イズ・エヴリバディ・ゴーイング・クレイジー?」も含め、いくつかの曲で第一選択肢として使っていた一番のお気に入りのペダルだね。
━━これまでもあなたは『ブロークン・マシーン』収録の「アイ・ワズ・ジャスト・ア・キッド」や「アムステルダム」など、効果的にベースの歪みサウンドを楽曲に取り入れてきました。歪んだベースの音という点で、どのようなこだわりがありますか?
モダンなサウンドのディストーションを得ることだね。もはやディストーションって何百種類とあるけれど、僕たちが欲しいのって、モダンなサウンドのなかで使えるものなんだ。Dirt Transmitterもモダンなアプローチのなかで使えるところがお気に入りのポイント。透明さもありながらトレブリーなところもあって、少し頭ひとつ出たサウンドになる。それでいてロー・エンドも充分にあるわけだしね。僕はデス・フロム・アバヴ 1979のジェシー・F・キーラーから影響を受けていて、彼らのサウンドって最強にクールなベース・サウンドだよ。僕はジェシー・F・キーラーのサウンドを目指しているけれど、まだそこには達してないって感じかな(笑)。ディストーションって本当におもしろいサウンドだと思うし、僕らのバンドのなかでもかなり効果的に使えているよ。レイドバックし過ぎないベース・サウンドっていうのはかなり重要なポイントだし、僕らの音楽に力を与えてくれる。
━━「イズ・エヴリバディ・ゴーイング・クレイジー?」での歪みベースはファズっぽくもあり、シンセ・ベースのような質感になっていて、ミューズのクリス・ウォルステンホルムを思い起こしました。
確かにクリスはアメイジングで、ベース界のゴッドのひとりと言えるだろう。彼はベースという楽器で何ができるかを僕らに示してくれたひとりで、ミューズを聴くときには僕はいつも彼のサウンドを追ってしまう。彼らの曲ではベース以外にも素晴らしいサウンドが繰り広げられているけれど、そこには不思議と耳がいかなくなることもあるよ(笑)。シンベ的なサウンドについて言うと、僕らはエレクトロニックな要素も取り入れているから、もちろんシンセ・サウンドも存在している。プロデューサーを務めたマイク・クロッシーはシンセをはじめ機材オタクだったから、モーグのシンセもDIを通して使ったりしたよ。
━━「リアル・ラヴ・ソング」はシンプルな8分音符でのルート弾きですが、なるべく低音弦を活用するために、スライドも交えて12フレットあたりまで上がって弾いているようですね。
そうだね、それがベースにとって最も温かみのあるサウンドが得られるからだよ。スライドによって作り出される動きってマジカルなものが潜んでいる。12フレットあたりに向かって上昇する感じって、僕にとってかなりエキサイティングなものなんだ。音階的には表現できないものではあるけれど、ベースだからこそできるとてもロマンチックなことでもあるよ。
━━同じく「リアル・ラヴ・ソング」のイントロ〜Aメロは、ロー・ポジションからハイ・ポジションへスライドして上がるフレーズがシンセ・ベースのようなサウンドです。どのようにサウンドメイクをしているのですか?
確かこれはモーグのペダルを使っていたと思う。あまりにも多くのモーグのペダルがあったからどのモデルだったかまで覚えてないけれども……正確にはリアンプする形でモーグを通していたんじゃなかったかな。かなり特別なサウンドになったよね。けっこう小さくて真っ黒なタイプのやつだったと思うけど……なんてったってレコーディングは1年前だったから記憶にないものも多いんだ。ごめんね(笑)。