PLAYER
SLAP STYLE ANALYSIS
葛城のパフォーマンスを観ていると、ワイルドな動きで、さながら野獣のような形相で低音を響かせているのが印象的だ。ただ、彼の演奏スタイルを分析すると、それとは裏腹に洗練されたスムーズな演奏テクニックを持っていることがわかる。
では、スラップのスタイルを見ていこう。まずサムピングについては、ボディからけっこう離れた位置から動きがスタートし、かなり勢いをつけてヒットしている。低音弦でのサムピングで刻むリフものでは、ネック・エンドから比較的離れた位置で思い切り振りかぶってサムピングする。それに対して、例えばサム・サム・プルなどといった小回りの必要なプレイではネック・エンド付近にピッキング・ポイントが近づいていく。また、それにはサウンドのラウドさを調節するという使い分けの意識もある。
“スラップにも正解がないと思っているので、そのときに出したい音が出せる弾き方が正解だと思ってます”。
プルは中指と人差指のどちらか、また両方(ダブル・ストップ)で行なう。手首の回転により弦を引っ張っているが、ポイントはかなりギリギリまで弦に触れ続けている点で、弦が指から離れて指板に打ちつけられるまでの距離が大きいため、ラウドなサウンドを作っている。また、サムとプルの合間で、右手の指をラスゲアードのニュアンスで弦にすべらせたりしてギターで言うところの“ブラッシング”的なアプローチを行なうことで、スパニッシュなリズムを作り出しているのも葛城流だ。
特殊な奏法としては、親指によるサムピングをしたのち、同一弦に小指を叩きつける打楽器的なプレイもある。手首の回転を利用することによって親指と小指を交互に速いスピードで弦に当て続けることができる。
“スラップの全体に言えることとして、大事なのは「回転」ですから。円の動きで循環して動くことで疲れることはないですよ”。
では、最後に左手を見ていこう。スラップの基本とも言えるが、なによりも重要なのは鳴らしていない弦のミュートだ。最もベーシストが多用するであろう4弦開放では1〜3弦をしっかりとミュートするのはもちろん、ほかにも3弦開放をサムピングする場面などでは、親指をネック上から出して4弦に触れていて、そのほかの指で1〜2弦に触れてミュートしている。プルの場合では、例えば1弦をプルする際には人差指で押弦しつつ、親指で4弦を、中指・薬指・小指で2・3弦に触れて確実にミュートしている。葛城は繊細なミュート技術を操るが、本人は無意識下で行なっているという。“ミュートは気合いですから。「絶対にいらない音を鳴らさないから!」という気持ちで弾けば、手の形がおのずとそうなっていく”。また、左手で余弦をミュートしながら鳴らしたい弦だけをサムピングする際には、右手の親指でほかの弦もヒットすることで、実音とともにアタック音を鳴らしてよりパーカッシブなサウンドを生み出しているのも特徴のひとつだ。
PICK UP SLAP PHRASE
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(『Kyotaro&Rikuo』収録)
この曲は一番最初にバズった曲で、けっこう思い出の曲のメイン・リフを弾いてみました。やってることがけっこう獣っぽいから、いろんな人がコピーしてみたの動画をネットでアップしてくれているんですけど、その野生っぽい部分がコピーしづらいところだったりするので、今回選びました。そういう部分っていうのは譜面に起こしても、その感じがなかなか出ないんですよね。フレーズの特徴としては、スラップってルートから入ると思うんですけど、このフレーズはルートがウラから入るんですよ。あと、ウラに対してアクセントを置いているっていうところがポイントですね。今回選んだ曲のなかでこのフレーズだけ速いので、ゆっくり弾いたものも撮ってもらったんですけど、フレーズ自体はそれで覚えてもらって。プレイするときの重要な部分としては、思いとか感情を込めているからこそ野生的なプレイになるわけで、その部分を意識して思いを乗せて弾いてほしいです……まあ、実際にカッコよくなればOKです(笑)。フレーズそのものじゃなくて、ノリとかヴァイブスをコピーしてほしいですね。
(『WILD TOKYO』収録)
ヴァース部分のスラップですね。この曲は僕がスラップを弾いた曲のなかでも、ちょっと緻密っていうか。普通は下向きのスラップならやりにくいかもしれないことを、コードの動きに合わせてやっているフレーズです。プレイのポイントとしては、“出したくない音は絶対に出さない!”っていう気合いのミュートの部分。例えば歌うような高音弦でのサムとかプルは、親指が上向きのスラップのほうがやりやすいプレイだと思うんですけど、それをあえて下向きのスラップでやることによってパーカッシブになるし、表現の幅を広げているフレーズですね。“ゴリラがスーツ着てる”みたいな感じですかね(笑)。あとは、音数で埋めないように耐える感じというか、そういうごまかしの効かない音の数でカッコよく弾くフレーズです。
(『縁魂』収録)
アルバムの1曲目の“ラスサビ前”っていう一番オイシイところでスラップしている部分を弾いてみました。スラップってドーンとインパクトがあるので、こういう1小節ぐらいのプレイでも充分だとも思うんですよ。そのあとのプレイも生きるし。このアルバムのなかでも一番オイシクできたなって思っています。プレイとしては、スラップの瞬間はかなり細かくリズムを感じていて、それがそのあとの指弾きのパートのもっと楕円的で大きなリズムの取り方に対して差が出ているっていうところがポイントです。音の緩急で表現を変えていくっていうことをけっこう意識しているので、この曲に関してはその緩急に開きがあって、それがカタルシスを生んでいる。とはいえセクションごとにめちゃくちゃに変わるわけではなくて、芯となるシャッフルのリズムは一貫していて。細かいグルーヴと大きなグルーヴは常に共存してます。
◎Profile
かつらぎ・きょうたろう●1998年1月3日生まれ。2016年よりKyotaro&Rikuoというベースとドラムの2ピース形態でストリートでの活動を始める。そのパフォーマンス動画が世界中のSNSやネット・ニュースに取り上げられ、累計2000万回再生を超えた。2017年には、無一文でベースを持ち、47都道府県ストリート・ライヴ“らぎ旅”を敢行し話題となる。2018年、アメリカで行なわれた世界最大の楽器フェス2018 NAMM Showにてパフォーマンスを披露。海外での活動やCM、ドラマ、映画などのサウンド・クリエイターとしての活動も続ける。2019年には、金子ノブアキによるプロジェクト“RED ORCA”のメンバーとなり、2020年3月に1stアルバム『WILD TOKYO』をリリース。近年ではソロ・プロジェクトも始動し、1stソロ・フル・アルバム『縁魂』が2021年3月にドロップされた。
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