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INTERVIEW – 桐木岳貢[神はサイコロを振らない]

  • Interview:Koji Kano

“ここ行きてー”っていう欲求をひたすら我慢した感じですね(笑)。

――「タイムファクター」のサビは高いほうのルートを使っていますが、ここは“あえて”狙ったんですか?

 そうなんです。ここはイメージとして“ひらけた感じ”を出したかったんですよね。サビは重くなりすぎても曲調に合わないかなと。

――2番Aメロではスラップも入れていますが、あえて音数を詰め込まず、プルやハンマリングのニュアンスを際立たせたフレーズ展開になっていますね。

 このフレーズはわりとデモ音源のニュアンスに近いですね。僕はそんなにスラップが得意じゃないので、めちゃくちゃ手こずりました……(笑)。

「タイムファクター」【Official Music Video】

――スラップだと「愛のけだもの」のフレーズはまた方向性が違っていて、カッティング・ギターのバッキングに噛み合った16分のフレーズになっていますね。

 この曲は5弦ではなくて、フェンダーカスタムショップ・タイムマシーン・シリーズの4弦ベースで録ってるんです。ウワモノ楽器との兼ね合いを特に意識したフレーズなんですけど、この曲も結構手こずりました。今作は全体をとおしてスラップには苦戦した印象です。もっとスラップの精度を高めていきたいですね。

――サビは4つ打ちのビートに対して音数を減らしつつ、リズムを立たせるようなアレンジになっています。ここはスラップと指を組み合わせているように聴こえますが、どのように弾いているんですか?

 実はここ、全部指弾きなんですよ。指でワザと思いきり強く弾いて、プルみたいな音を鳴らしています。よくスラップと間違えられますね(笑)。サビはスラップよりも指のほうがノリが出せるかなと思いましたし、ゴースト(ノート)の入れ方も工夫しています。“音数は少ないけど単調になりすぎない”みたいなバランス感は意識した部分ですね。

――Bメロは白玉に大胆なオブリを挟むなど、各所でベースが映えるアレンジになっていますが、全篇を通して“ベースを際立たせる”という思惑もあったのですか?

 この曲はキタニタツヤさんが参加していることもあって、入りのスラップは彼が考えてくれたフレーズなんです。最初はBメロまで同じフレーズが続いていたんですけど、何か変化が欲しいなってことで、自分でアレンジしました。でも目立ちすぎると歌が入ってこないので、歌とのバランスは考慮しましたね。イメージとしては指でゆるくなぞるようなフレーズ感にしています。

「愛のけだもの」【Official Lyric Video】

――シンセ・ベースについても話を聞かせてください。「巡る巡る」はシンベとエレベの共存、「1on1」はシンベのみのベース・ラインになっています。シンベ/エレベの使い分けはどのように決めているのですか? 

 基本的には柳田のデモのイメージに忠実なんですけど、最終的にシンベかエレベのどちらを使うかは話し合って決めています。シンベはレコーディングでは基本的に打ち込みなんですけど、ライヴでは僕が実際に弾いています。

――シンベはいつから弾いているんですか?

 弾き始めたのは3年ぐらい前からですね。もともと鍵盤楽器自体そんなに触ったことがなかったので、最初は結構苦労しました。

――「遺言状」はシンベで始まりつつ、バンドインからエレベに切り替わっていますよね。

 はい、それもあってよりバンド感が際立ったアレンジになりましたよね。この曲はライヴだとSE〜1曲目に入ることがあるんですけど、そのときもステージ上でシンベからエレベに切り替える演出になっているんです。

――この曲のエレベのベース・ラインはファンクっぽい16分の歯切れいいフレーズ構成になっています。桐木さんにはファンク的な素養もあるのですか?

 いや、ファンク的な素養はまったくなくて、むしろこれが初めてでした(笑)。だからめちゃめちゃ勉強しましたよ。ただ最近はインスタグラムでベースの演奏動画を上げてる黒人のベース・ラインをコピーしていて。何ていうか、曲をコピーする習慣がなくなった代わりにそういうSNS上のうまい外国人のプレイを参考にすることが多くなりました。そこからのインスピレーションがこの曲には入っていると思います。

――確かに“ブラック”なフレーズ感かと。ゴーストノートや空ピッキングが心地良いですが、これらは手グセでもある?

 ベース単体でもビートを感じさせるために、ゴーストを入れる位置は意識しています。昔からゴーストを入れてノリを出すっていうのは僕のなかに感覚としてあるんですよ。だから緻密に考えているわけではなくて……確かに手グセみたいなものかもしれませんね(笑)。

――「徒夢の中で」「あなただけ」「プラトニック・ラブ」といったスロー・テンポのバラード曲は特にシンプルなベース・ラインになっていますね。曲のキャラクターによってベースのアプローチも変えているということですか?

 神サイはバラードが強いバンドでもあるので、曲を一番に生かすアレンジにしたいなと。「徒夢の中で」は最初はもっと音数を絞っていたんですけど、ノイズが目立っちゃって。レコーディングでも“めちゃくちゃ弱く弾いて”って言われたんです。それでめちゃくちゃ弱く弾いたら“ウサギみたいな音だな”って言われて(笑)。どういうことって感じでした(笑)。

――おもしろい表現ですね(笑)。バラード曲は柳田さんから来たデモの時点でベース・ラインはシンプルなものなんですか?

 基本的にはそうかな。でも「あなただけ」は自分でもっとシンプルなベース・ラインに変えました。この曲はストリングスが前面にあるので、ストリングスの邪魔にならないようなアレンジを心がけたんです。“ここ行きてー”っていう欲求をひたすら我慢した感じですね(笑)。

「あなただけ」【Official Lyric Video】

――グランジ・テイストの「少年よ永遠に」はルートで支えることに振り切りつつ、また違った質感のベース・サウンドになっていますが、これは歪ませてピック弾きですか?

 はい、20曲中ピック弾きはこの曲のみです。ほかの曲はわりと小難しいことが多いんですけど、この曲は新録曲でもあったので、ライヴでのパフォーマンスも考慮してシンプルなベースを弾きました。ちなみにこの曲は一発録りでレコーディングしたんですよ。

――一発録りでの録音はよくやるんですか?

 この曲が初めての一発録りだったんですけど、緊迫感がすごかったですね。誰かミスったら全部イチからなので。でもすごく勉強になったし、ライヴもこれくらいの緊張感を持ってやらないとなと思いました。確か9テイクくらいかかりましたけどね(笑)。

――唯一この曲のみピック弾きを選んだ理由とは?

 リファレンスとしたイメージがピック弾きだったので、それに寄せた感じですね。最初は全部ダウン・ピッキングでやってたんですけど、どうもノリが出なかったのでオルタネイトに変えました。もっとピック弾きも練習していきたいですね。

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