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INTERVIEW – ジョシュ・スミス[ヘイルストーム]

  • Question:Koji Kano
  • Translation:Tommy Morley
  • Photo:Jimmy Fontaine

世界へ再認識させる、“ハードロック・ベース”の概念

史上最高のハードロック・ディーヴァ、リジー・ヘイルを擁し、USハードロックの“正統的後継者”としてシーンのトップに君臨するヘイルストーム。彼らが約4年ぶりにリリースした5thアルバム『Back From the Dead』は、混沌とした世界情勢を彼らなりのハードロックで再現した一枚であり、重厚なサウンドのなかに多大なメッセージが込められている。パワフルかつ極太な低音でアンサンブルを支え続けるジョシュ・スミスは、今作ではよりストレートに、ど真んなかを行くベース・プレイを求めたという。彼が今作に込めたプレイ/サウンドの真意とは。そしてシーンのトップランナーが世界に届けたメッセージとは。

毎晩が人生最後のライヴなんじゃないかってくらいにハジけているよ。

――世界を襲ったパンデミックも徐々に落ち着きを取り戻しつつありますが、アメリカのロック・シーンの現状はいかがでしょうか?

 やっと戻ってきたって感じだね。昨年11月からはエヴァネッセンスと一緒にツアーも再開したんだ。ただ残念ながら彼らのなかで感染者が出てしまったから、公演を一部延期することになってしまったけど、それも今年に入って問題なく開催できた。ツアーには感染の検査を行なうスタッフも帯同していて、最大限、安全には配慮していたよ。再びツアーに出られていることに興奮しているし、この状況がずっと続いてほしいね。2年間の空白のあと、こうやってライヴがやれていることに対して幸せを噛み締めているところなんだ。

――ヘイルストームとしてはこのパンデミックをどのように捉え、その間どのような活動を行なっていたのですか?

 ロックダウンの直前にはプリプロやデモの録音をやっていたから、いつでもレコーディングに入る準備はできていたんだ。でもその矢先にすべての予定が白紙になってしまって、その代わりに曲のアイディアをメンバーで交換し合っていたよ。俺たちを待ち受ける未来がどうなるのかまったく考えられなかったし、感情の処理の仕方すらわからなかった。俺たちはライヴ・バンドだから、ライヴができないことですべてが真っ暗になった気分だったよ。隔離期間が半年ぐらい続いたけど、FaceTimeでミーティングをしたり、たわいもない話をしたりして、各々の状況は常に共有し合っていたよ。

左から、ジョシュ・スミス、アージェイ・ヘイル(d)、リジー・ヘイル(vo,g)、ジョー・ホティンジャー(g)。
『Back From the Dead』
ワーナー/WPCR-18504(日本盤ボーナス・トラック2曲収録)
https://wmg.jp/halestorm/discography/25749/

――再び活動を行なえるようになってからは、どのような考えでバンドを動かしていったのでしょうか?

 抑圧されるような気分だったけど、スタジオに戻れるようになってからはマスクを着用して日々作業をしていたね。世界中の誰もが同様の環境で仕事をしていて、次第に辟易し始めていることも感じたから、俺たちが得意としていること、つまり“ロック・ショウ”の興奮をリスナーに提示しようということになったんだ。パンデミックを前にした俺たちの感情は、ジェットコースターのように日々ドラマチックに変化していたし、今回のアルバムはパンデミックがなかったら丸っきり別のものになっていたことだろう。やり方・考え方は大きく変わったけど、“ロックをやる”って気持ちは変わらずで、最近はライヴをプレイすることに注力しているんだ。以前のようにプレイできるようになってからは、毎晩が人生最後のライヴなんじゃないかってくらいにハジけているよ。

――『Back From the Dead』は“人間の不安、希望、サバイバル、救済”がテーマに置かれているようですね。パンデミック以外にも、アメリカでは大統領選挙やブラック・ライヴス・マター運動などがありました。そういった社会的出来事も背景にはあるのでしょうか?

 政治や人道的な問題に対する社会の関心にも注目していたし、確実に影響を受けたね。これほどのことはいまだかつて経験したことがなかったし、時代の産物だと思っている。ただ俺たちはこれを壊滅的な出来事に捉えるのではなくて、人々が明るいこととして意見を感じられるようなものにしたかったんだ。

――ベース・プレイについて聞いていきたいのですが、今作はあなたの持ち味でもある、重厚なハードロック・サウンドを忠実に支えるプレイを堪能できる一枚です。どのようなベース・プレイを表現しようと考えていたのですか?

 今までの作品とは異なるもの、ストレートにど真ん中を行くようなものを求めつつ、最大限に強烈なベースを鳴らすことを考えていたんだ。以前は各楽器に固有の“声”を求めていたけど、今作は複雑なことはせずに、全員で同じ瞬間に音を鳴らすことを大切にしたね。今まで俺たちはライヴで学び、感じたことを次の作品に取り入れてきたけど、今回のアルバムにはたくさんの大きな会場でプレイしてきた経験を落とし込めることができた。大きな会場だとそれぞれの音を失いやすいけど、アリーナ級の会場でプレイする術、サウンドをビッグに保つ必要性を学んだんだ。その結果として、音の意味や価値をより意識するようにもなったね。

――今作はプロデューサーにニック・ラスクリネクツ(編注:フー・ファイターズやデフトーンズなどを手がける音楽プロデューサー)も参加していますね。

 彼との作業は今作で2枚目なんだけど、一緒にサウンドを作る作業はとても楽しいものだったよ。彼はグレイトな機材をたくさん所有していて、俺の好みに合わせて微調整をしながら“これだ!”っていうセットアップを作ってくれた。そのなかでもうひとつのトピックが、モーグのシンセサイザーを使って低音を太くしたことで、これによってビッグな低音を維持したままベース・ラインを自由に動かすことができたんだ。

――「Psycho Crazy」のイントロやAメロでは、シンセ・ベースのようなサウンドも鳴っていますが、これがモーグによって作られたものということでしょうか?

 そうだね。この曲はモーグのSub 37を使っているんだ。ライヴではエレキ・ベースでやることになるから、どうにか再現したいものだね。この曲ではシンセのダビングをやっているんだけど、これは俺がクラシック・ピアノをバック・グラウンドとしているからという理由もあるだろうね。ベース・プレイをピアノやシンセでやっているんだけど、そういったプレイに今までのどのアルバムよりもトライしていると思うよ。

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