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    リチャード・ボナが語る“練習”論「最低でも1日6時間は楽器を弾いている」【インタビュー前篇】

    • Interview : Koji Kano(Bass Magazine)
    • Translation : Akira Sakamoto
    • Photo : Chika Suzuki
    • Special Thanks:Tomotaka Sekiya(TRI4TH)

    2026年10月4日(日)から6日(火)にかけて、リチャード・ボナがクインテット編成でブルーノート東京に登場する。今回の来日公演に先駆け、2025年3月に来日した際に敢行したロング・インタビューをお届けしよう。

    本インタビューは、“ベーシストの練習”をテーマにした本誌2025年6月号表紙特集「練習しようぜ!」に掲載されたもの。


    リチャード・ボナが語るベースの“練習”論

    カメルーン出身の世界的ベース・プレイヤー、リチャード・ボナ。類稀なるプレイセンスから“ジャコ・パストリアスの再来”とも謳われ、長年にわたり第一線で活躍を続ける“生けるベース・レジェンド”だ。

    2025年3月中旬、マイク・スターン・バンドの一員として来日したボナをキャッチし、じっくりと話を聞いた。ビギナー時代のエピソードから、日々の練習に向き合う姿勢、そして音楽家として生きていくうえでの信念など、貴重な逸話を披露してくれた。

    リチャード・ボナ●1967年10月28日、アフリカ・カメルーンのミンタ村生まれ。グリオの祖父とシンガーの母を持ち、4歳でバラフォンを始める。11歳でギターを始め、13歳で大都市ドゥアラのジャズ・クラブでジャコ・パストリアスのアルバムを聴き、ベースに転向する。1989年にヨーロッパ、1995年にニューヨークへと本拠を移し、ジョー・ザヴィヌル(p)やマイク・スターン(g)、ボビー・マクファーリン(vo)などと共演。強力なリズム感とテクニック、美しい声による歌で世界を魅了し続けている。2025年までに9枚のソロ・アルバムを発表しているほか、参加アルバムも多数。
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    メカニカルな練習をするんじゃなくて、音楽を聴くことを重視しているんだ

    ジャコのようなベースの弾き方は初めて知るものだった。それまで聴いてきたどんなベーシストにもない、新しいスタイルだったんだ。リズムやメロディといった点だけでなく、シンプルでソウルフルな面もあって、いろいろな要素がひとつのスタイルに混ざり合っていたからね。

    ジョニ・ミッチェルでの伴奏なんかはとてもシンプルだけれど、音の選び方やアタックの付け方はほかのベーシストとはずいぶん違っていて、僕は彼のそんなところに注目したんだ。

    ▲ジャコ・パストリアスがベースを弾く、ジョニ・ミッチェル『Hejira』(1976年)

    そう、ベースを始めるまでの7年間、教会でオルガンも弾いていたし、ジョージ・ベンソンを聴いて歌いながらギターも弾いていた。初めてテレビ番組に出演したときにはベンソンの「Give Me The Night」を演奏したんだ。

    その頃はまだ、音楽学校へ行くつもりはなかったから、独学でジャコの演奏をコピーするところから始めたよ。“ここがCmaj7で、ここが……”とかいうんじゃなく、とにかく彼のフレーズをコピーして何度も弾くという練習だった。

    ジャコのやることは自分も全部やらなきゃと思っていたからね。1枚目のソロ・アルバム(『Jaco Pastorius』)に関しては、ベースだけじゃなく、ハービー・ハンコックのピアノ・パートでも何でもコピーしたよ。子供の頃から音楽が大好きで、それ以外のものには興味がなかったんだ。

    ▲『Jaco Pastorius』(1976年)収録の「Portrait of Tracy」

    なかったよ。楽器を弾くときには必ず、同じフレーズを一緒に声に出して歌うと効果的なんだ。僕は歌いながら楽器を弾くことで絶対音感を身に付けることができたし、弦をハジかなくてもフレットを押さえただけでパッとそのポジションの音が聴こえるようになった。

    逆に言えば、歌えるフレーズはすぐにベースでも弾けるんだ。ベースを教えるときには、みんなにフレーズを歌うように勧めているよ。

    声が美しいかどうかは関係ない。そこが問題じゃなくて、インターバルを認識できるようになることが肝心なんだ。歌いながら弾くことで、指板の感覚を体に染み込ませることができる。そうなれば歌えるフレーズはすぐにベースでも弾くことができるようになるわけ。だから、自分で練習するときにもメカニカルな練習をするんじゃなくて、音楽を聴くことを重視しているんだ。

    そうさ。と言いつつ、今はもう実際には歌っていないけれどね(笑)。

    そう。頭のなかで歌えればもう、自動的にベースでも弾けるんだ。だから、飛行機に乗っているときでも、頭のなかで歌えばそれがリハーサルにもなるわけ。音楽を聴くときにも、同時に頭のなかではベースを弾いている。そういうことを長年やってきたから、ポジションはしっかりと頭のなかに入っているんだ。

    ただ、たとえば自分が乗っているタクシーが赤信号で止まったとき、近くの店で鳴らしているBGMが聴こえたりすると、頭のなかで無意識のうちにそれを分析するクセが付いていて困るんだ。疲れていて車に乗っている間だけでも仮眠を取りたいのに、脳が勝手に分析を始めちゃうからね。“ひどいアレンジだなぁ”とか(笑)。

    ▲マイク・スターン(g)、マヌ・カッチェ(d)とともにプレイするボナ。

    最低でも1日6時間は、楽器を弾いたり自宅のスタジオで過ごしたりいるんだ

    レコーディングでクリックを使うことはあるけれど、タイム感は僕の脳ミソのほうが適しているね。僕はパーカッション・プレイヤーでもあるからさ。クリックは機械的なだけで人間味がない。

    僕ら人間にとっては、心臓の鼓動がクリックでもあるんだ。心臓はただ機械的に動いているわけじゃないし、道を歩くときだって、一歩一歩のタイミングは完全に等間隔なわけじゃない。人間には人間のタイミングがあるってことさ。

    僕も音楽をやりすぎて、どんな雑音でも音楽に聴こえてしまうようになっているよ。だからさっきも言ったように、寝ているときでも物音がすると音楽のアイディアが思い浮かんでしまって、目が覚めてしまうんだ。

    クリックに話を戻すと、クリックはもともと、タイミングよりもむしろ、テンポを一定に保つために使うものだけれど、僕はテンポがハシったりモタったりすれば自分でわかるから、できればクリックは使いたくない。もちろんテンポを数字で把握しているわけじゃないけどね。

    ▲ジョー・ザヴィヌル(k)のバンドでプレイするボナ。

    自然なものだよ。だから、クリックに合わせて演奏していて、途中でクリックを消して、しばらく経ってまたクリックを鳴らすと、ぴったり合うんだ。

    僕は音楽を“難しいもの”と考えたことはなくてね。自分の人生で何か“ラクなもの”があるとすれば、それが音楽なんだよ(笑)。だから正直な話、音楽をやっていて難しいと思ったことは今までに一度もないんだ。音楽活動に付随するいろいろな契約ごとなんかで混乱することはあるけれどね(笑)。

    ブルーノート東京のステージに上がって演奏するのは楽しいことで、難しくも何ともない。時差ボケで眠気に対処するほうがよっぽど難しい(笑)。ツアー中で大変なのは移動で、一番ラクなのが演奏すること。その点、同じクラブで毎日演奏できるときには助かるよ。

    家にいれば移動がないから、ずっと音楽をやっているよ。ピアノやウクレレ、ウード、アップライトも弾いている。まるでオモチャで遊ぶ子供みたいにね。家にいるときには最低でも1日6時間はそうやって、楽器を弾いたり自宅のスタジオで過ごしたりいるんだ。ツアーでは6時間も音楽を演奏することはできないよ(笑)。

    ミュージシャンは死ぬまで学生で、勉強を続けなきゃならない

    そう。2年間務めさせてもらったよ。

    ああ、ヴェルサイユの音楽学校にね。

    基礎的な知識は大事だからね。楽譜を読めるようになって、スタジオで渡された譜面を見ながら演奏できるようにしておきたかったんだ。学校ではクラシック音楽も勉強したよ。ミュージシャンは死ぬまで学生で、勉強を続けなきゃならない。だから僕も毎日音楽の勉強もしているんだ。

    今は主に、新しい音楽を聴くという勉強だけれどね。音楽の世界はものすごく大きい。ニューヨークに移ってからは、ステップス・アヘッドやマイケル・ブレッカー、ジョー・ザヴィヌル、ボブ・ジェームス、デイヴィッド・サンボーンなど、あらゆる人たちと演奏した。でも初めてインドへ行ったときに聴いた音楽は、これまでとはまったく違うものだった。音楽とはそういうものなんだ。

    モーツァルトとストラヴィンスキーだね。アレンジというか、オーケストレーションで最も興味を惹かれたのがこのふたりだった。音楽監督としてアレンジをするときにも、彼らの音楽を勉強したことが役立ったよ。

    マイルス・デイヴィスの「Bitches Brew」を聴いても、ストラヴィンスキーの影響が少し表れているのがわかる。マイルスもストラヴィンスキーを聴いていたっていうのがね。ストラヴィンスキーみたいな現代音楽の知識は絶対必要で、避けて通ることはできない。

    避けて通ってしまったら、知識に何らかの欠陥ができてしまう。その知識がなければ有名になれないとか、良いミュージシャンになれないとか言うわけじゃないけれど、現代音楽もジャズも聴いておく必要はある。素晴らしいミュージシャンがたくさんいるからね。

    ▲マイルス・デイヴィス「Bitches Brew」

    リハーサルの際には、僕が家で用意したパート譜をバンド・メンバーに渡していた。ハリーはミュージシャンたちがステージで譜面を見ながら演奏するのを嫌ったから、ツアー前にはいつも、みんなに曲を暗譜させるために1ヵ月かけてリハーサルしていたよ。

    ▲1997年から1年半の間、ボナはハリー・ベラフォンテのミュージカル・ディレクター兼バンド・リーダーというポジションで活動していた。

    自分のパートを自分で考えることもあったけれど、ほとんどの曲の譜面はパットかライル・メイズ(k)が用意してくれていた。あのバンドでは、ハリーよりも多くの時間をかけてリハーサルしていたから、自分のパートをすべて覚えることができたんだ。

    それはなかったね。音楽学校へ行く前にも音楽知識はかなりあって、そこにクラシック音楽などの新しい知識を加えることができたから。それで、たとえば自分で書く曲のメロディにバッハなどのクラシック音楽の影響が入るようにはなったね。

    何かを美しいと思って聴いていれば、その音楽が自分に影響するようになるんだ。世の中がグローバル化すれば、世界中のものが影響し合う。音楽も同じだよ。東京に生まれた人は、同じく東京生まれの人からは新しい影響を受けることはない。同じ地域で生まれ育っているからね。でも例えばインド人と友達になれば、新しいことがたくさん学べる。いろんな影響を受け入れることで、成長できるんだ。相手も同じように成長できるからね。(インタビュー後篇に続く ※近日公開

    バックナンバー紹介

    リチャード・ボナが表紙を飾った2005年2月号のインタビュー

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