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    なぜフリーは『Honora』に“もうひとりのベーシスト”を迎えたのか?——アンナ・バターズが語る制作秘話

    • 取材:辻本秀太郎(ベース・マガジンWEB)
    • 通訳:トミー・モーリー
    • Photo:David Haskell

    今年3月、フリーがキャリア初のソロ・アルバム『Honora』をリリースした。レッド・ホット・チリ・ペッパーズで築いてきたロックの文脈から一歩踏み出し、ジャズへと深く踏み込んだ本作では、長年取り組んできたトランペットも自ら演奏。フリーが思い描いてきた音楽を、ついに形にした一枚だ。

    そのサウンドの核を担ったのが、フリー自身が“理想のバンド・メンバー”として集めたLAのミュージシャンたち。グラミー賞受賞作、ミシェル・ンデゲオチェロ『The Omnichord Real Book』(2023年)をプロデュースしたジョシュ・ジョンソン(sax, prod)をはじめ、ジェフ・パーカー(g)、ディアントニ・パークス(d)、マウロ・レフォスコ(per)、そしてアンナ・バターズ(b)をはじめ、ジャンルを越えて活動する精鋭が名を連ねている。

    なかでも興味深いのが、世界最高峰のベーシストであるフリーが、自身のソロ作にもうひとりのベーシストを招いていることだ。その人物、アンナ・バターズは、コントラバスとエレキ・ベースを自在に操り、ジェフ・パーカー率いるETA IVtet(ETAカルテット)やSML、自身のソロ名義で活動する一方、インディ・ロック界はフィービー・ブリジャーズらのサポートも務めてきた。フリーはなぜ、アンナを『Honora』に必要としたのか。ふたりの出会いとレコーディングの舞台裏、そしてフリーを惹きつけたアンナの音楽的な歩みに迫る。

    彼はジャズでのベース・プレイをもっと学びたがっていた

    パンデミックのさなか、2021年にフリーと出会ったの。彼はジャズでのベース・プレイをもっと学びたがっていて、ウォーキング・ベースのラインやハーモニーについて知りたいようだった。共通の友人を通じて連絡をもらい、何度か会ううちに、レッスンのようなことをするようになった。それが私たちのつながりの始まりね。

    彼は、私がジェフ・パーカーと活動しているETA IVtet(ETAカルテット)の大ファンでもあったの。それで自身のレコードに向けてバンドを組む際、グループから私とジョシュ・ジョンソン(sax, synth, etc)、ジェフ・パーカー(g)を呼んだんだと思う。おそらく、このメンバーで音楽を作るイメージが、すでに彼のなかにあったんじゃないかしら。

    ▲アンナがコントラバス、フリーがエレキ・ベースをプレイする演奏する『Honora』収録の楽曲「A Plea」。

    ジョシュとは2010年にインディアナの大学で出会ったから、もう15、16年ほど一緒に演奏していることになるわ。ジェフとは2015年頃から活動をともにしていて、彼と私はほぼ同じ時期にLAへ移ったの。その後まもなく、ジェフがジョシュと私、そしてドラマーのジェイ・ベルローズを集めてETA IVtetを結成した。それ以来、このカルテットでは継続的に演奏しているわ。

    ジョシュとはSMLというバンドでも活動していて、そこではネイト・スミス(d)をはじめ、さまざまなミュージシャンと共演している。だから、ETA IVtetとSMLのメンバーは、私にとって最も重要なコラボレーターたちね。彼らは私のレコードに参加し、私も彼らの作品に参加している。そうやって、とても強い音楽的な関係を築いてきたの。

    とても驚いたけれど、本当に光栄だったし、すごくワクワクしたわ。彼が私のことを高く評価してくれていたのも嬉しかったし、私だけでなく、ジョシュやジェフ、ディアントニ・パークス(d)といった、私たちのコミュニティの仲間たちをレコードに迎えたいと思ってくれたことにも心を打たれた。このコミュニティは、私にとって本当に大切なものだから。

    レコーディング以前から少し面識はあったけれど、フリーはとても美しいエネルギーと、グレイトなヴァイブを持った人。だから、きっと楽しい仕事になるだろうと最初から確信していたわ。

    Photo by Sam Lee

    オーストラリアで育って、2014年にLAに引っ越した。その前はインディアナ大学で音楽を学んでいて、そこで修士号を取ったわ。卒業後にLAへ移ったけれど、最初からずっと住むつもりだったわけではなかったの。当初はニューヨークに行くことも考えていた。でも、ちょうどその頃、私が一緒にプレイしたいと思っていたミュージシャンたちがLAに移り始めていて、ジェフもそのひとりだったのよ。

    それに、Blue Whaleという素晴らしいジャズクラブもあって、シーン自体がとてもおもしろく感じられた。ジャズのギグをしながら、インディ系のアーティストやバンドとプレイしてツアーに出たりと、活動の幅を少し広げられるところも魅力だったわ。結果的に、私にとってはすごく良い選択になったの。

    今は、私たちが深く関わっているレーベル〈International Anthem〉も一部はLAを拠点にしているし、ここにはちゃんとコミュニティがある。その一員でいられることを、とても楽しんでいるわ。

    イエス! 私たちは高校の同級生で、同じクラスにもいたのよ! もちろん今でも時々連絡を取り合っているわ。彼は本当にグレイトなベーシスト。それを聞けて嬉しいわ。アメイジング!

    フリーは、良い形が見つかるまで私たちの提案を受け入れてくれたし、違うやり方を試すことにもオープンで前向きだった

    Photo by Josh Weichman

    そのことは知っていたけれど、スタジオに行くまで何も聴いていなかったの。彼らはすでに2週間ほどスタジオでトラッキングや作業をしていたみたいで、私はそこに少し遅れて参加したから、すべてをスタジオで初めて聴いたのよ。

    とても良かったし、楽しかったわ。正直なところ、レコーディングはかなりスムーズに進んだと思う。フリーもすごくワクワクしていたし、みんなも同じ気持ちだった。それぞれが自由にアイディアを出したり、いろいろなアプローチを試したりできる余地がたくさんあったの。

    フリーは、良い形が見つかるまで私たちの提案を受け入れてくれたし、違うやり方を試すことにもオープンで前向きだった。何かが閉ざされているような感覚がまったくなくて、そういう意味でもとてもやりやすかったわ。

    それに、ベーシスト同士で一緒に演奏する機会は意外と少ないから、フリーとプレイできたこと自体が本当に楽しかった。彼と一緒に演奏した時間は、とても幸せだったわ。

    そうね。まずはソファに座ってデモを聴き、曲を覚えるところから始めたわ。それからスタジオに入り、みんなで一緒に演奏しながら形にしていったの。

    思い返してみると、フリーやジョシュから「ここはこうしてみたら?」と提案されることもあったわ。一方で、曲を聴いた私が「よし、これをやってみよう」と自分で決めることもあった。進め方は曲によって少しずつ違っていたと思う。

    この曲には、私がスタジオに入る前に、フリーのエレキ・ベースだけで録音されたバージョンがすでにあったと思う。誰のアイディアでコントラバスを加えることになったのかは覚えていないけれど、そこに私も加わって一緒に演奏したの。

    フリーのプレイはとても動きが多く、リズミカルだったから、私は低い音域を中心に、少しスペースを持たせて弾いたわ。音色にも違いがあって、フリーのエレキ・ベースはかなりブライトで、私のコントラバスはダークなサウンドだった。そのコントラストによって、ふたつのベースが同時に鳴っても、音が混み合ったり濁ったりせずに済んだのだと思う。

    何度かテイクを重ねて、それで終わり。あとから音作りについて話し合うこともなかったわ。

    そうだったと思う。私がレコーディングに加わるタイミングで、フリーも録り直すことになり、ふたりで同時に演奏したの。私の記憶では、ドラムやジェフも含めて、みんなで一緒にプレイしていたわ。

    すごくクールだと思ったわ。フリーがこの曲を持ってきたときも、とてもカジュアルだったの。「こんな曲を書いたんだけど、やってみない?」と言って、トランペットで聴かせてくれた。

    オーネット・コールマンが書きそうな曲だと感じたし、すぐに惹き込まれたわ。決まったハーモニーを設けず、即興を交えながら演奏したいと考えてくれたことも嬉しかった。彼にとっては大胆な挑戦だったと思うし、実際に演奏するのも本当に楽しかったの。

    セッションのなかでも、この曲は特にお気に入りね。何度か演奏したけれど、フリーがこういう曲を書いたこと自体、とてもクールだと思ったわ。

    何か指示があったかは覚えていないわ。正直に言うと、私はこういったスタイルで数多くプレイしてきたし、特にジェフやジョシュと一緒にやっているから、曲を聴いたときにはもう、どうプレイしたいかわかっていたのよ(笑)。アプローチのイメージもすぐに浮かんだし、フリーから具体的にどうベースをプレイしてほしいと言われた記憶はないわ。

    いい質問ね。まず、曲全体の形をどう作るかを考えるの。メロディがあっていくつかソロが入るとして、ベースがただひたすら同じことを繰り返さないように、どう形作るかを考える。多くの場合はどんなソロがプレイされているかによって、自分のプレイを変えている。

    例えばギター・ソロのときはあるアイディアやフィールでプレイし、次のソロでは別のアプローチで違う空間を作るといった具合いにコントラストを作り出すのよ。ベース・ソロでは“ロン・カーターならどうプレイするかな?”ってロン・カーターを少し意識したし(笑)、ハービー・ハンコックの何かの曲からちょっとしたアイディアを拝借し、それを開始点にして自由に展開していったの。

    でもこういうスタイルの音楽では事前に決められたことってほとんどないから、聴いてその場でレスポンスすることが大事。決まった形式もハーモニーもなく、メロディが生まれ出たとしても決められたものがあるわけではないの。だからみんながやっていることにレスポンスして形を作り、おもしろいものを作る。それで全員が同じページを開き、同じものに向かってプレイしているのよ。

    はっきり思い出せないけど、もともと誰かのアレンジをもとにしているの。ビートルズだったような気もするけど、誰かのアレンジを拝借し、そのレコーディングに忠実にプレイした感じね。以前に別のアーティストでこの曲をプレイしたことがあったから、曲自体は知っていたわ。

    スタジオでニック・ケイヴと一緒にレコーディングしたわけじゃなくて、彼はあとからヴォーカルを重ねてくれたの。レコーディング中は、フリーがメロディを美しく控えめにプレイすることに集中していたから、私はそのトランペットのアプローチに合った距離感や雰囲気を作ろうとしていたわ。

    毎日スタジオで一緒に過ごし、彼が音楽に向き合う姿を見ているうちに、距離がぐっと近づいたわ。もともと彼には大きなリスペクトを抱いていたけれど、このレコードを作り終えたあとは、その気持ちがさらに強くなったの。

    彼は音楽に対して本当に情熱的だし、『Honora』は彼にとって、とてもパーソナルで、自身の“脆さ”までさらけ出した作品だと思う。あれほど成功したキャリアを築いてきた人が、トランペットという新しい楽器を手に、まったく異なる音楽へ挑戦するのは、とても勇気のいることよ。そんなふうに自分を開いて制作に向き合う姿に感動したわ。

    彼はとても謙虚で、みんなの意見に耳を傾けながら、少しでも良いものを作ろうとしていた。ジャズという音楽や、私たちが演奏していた曲に対しても深い敬意を持っていたし、そうした姿勢が強く印象に残っているの。それに、とても思いやりがあって誠実で、人の話をじっくり聞く人でもある。彼と過ごした時間は、私のなかに深く残っているわ。

    そして何より、彼はただひたすらベースを弾いていたいし、ずっと練習していたいと思っている。そこも本当にリスペクトしているの。

    ツアーで日本へ行けるかどうかは、まだわからないの。でも私は一度も日本へ行ったことがないから、本当に行ってみたい。このプロジェクトでも、ほかの活動でもいいから、いつか絶対に行きたいわ(笑)。

    フリーのライヴは、レコーディングに参加したメンバーで行なう予定だから、すごく楽しみにしているの。フリーとふたりでベースをどう組み合わせることになるのか、とても興味があるし、私はエレキ・ベースとコントラバスの両方を弾く予定よ。まだリハーサルをしていないから、実際にどうなるかはわからないけれど、きっとすごく楽しいライヴになると思うわ。

    PROFILE
    アンナ・バターズ●1991年生まれ、オーストラリア・アデレード出身。幼少期よりクラシック音楽などに触れ、フルートなどを演奏。その後、コントラバスに転向する。2012年にアデレード大学のエルダー音楽院を卒業後、2014年よりLAに渡る。マカヤ・マクレイヴンやジェフ・パーカーといった多くのアーティストの作品に参加し注目を集め、ETA IVtetやSMLといったバンドでも活躍。現代ジャズ・シーンで、最注目のひとりと言えるベーシストだ。また、ソロ・アーティストとしての顔も持っており、2024年には2枚目となるソロ作『Mighty Vertebrate』をリリースした。

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