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【第90回】アドリブ入門① アドリブは意外と簡単! 石村順の低音よろず相談所 〜Jun’s Bass Clinic〜

  • Text:Jun Ishimura

“アドリブってどう弾いたらいいんですか?”ってよく相談されます。やっぱアドリブで弾けたらカッコいいですよね。今回はアドリブのハードルを下げます!

アドリブ(ad-lib)は即興演奏のことです。インプロヴィゼーション(improvisation)とも言います。

実は、アドリブそのものは意外と簡単なんです。今回は、“アドリブって難しそう”っていう思い込みを取っ払いつつ、出発点となるヒントを紹介します。

まず知ってほしいのが、“実はみんなすでにアドリブしてる”ってことです。これ、日常会話のことです。台本どおりに会話する、とかないですよね。僕らは小さい頃から毎日、アドリブで会話しています。だから、ある意味みんなアドリブには慣れているわけです。

次に知ってほしいのが、“アドリブとは新しいフレーズを作り出すことじゃない”ってことです。日常会話で新しい単語とか新しい言い回しなんて作らないですよね。知ってる単語や言い回しを組み合わせて、話の流れに合わせて自分の言いたいことを言う。また、声量とか抑揚とか声のトーンを使って感情を表現する。そして相手の話も聞く。

音楽のアドリブも同じで、ほとんどの場合、その場で新しいフレーズを作っているわけじゃないんです。知っているフレーズを、どの文脈で、どのタイミングで、どう組合わせて使うか、というのがアドリブ演奏なんです。だから、もし2〜3個しかフレーズを知らなくても、それを即興で組み合わせれば立派なアドリブ演奏です。これならできそうでしょ? アドリブは簡単です。もちろん、それだと話す内容が限定されて言いたいことが言えない。だから、母国語でも外国語でも音楽でも単語や言い回しをたくさん覚えたほうがいいんです。

フレーズの引き出しを増やす

音楽の場合、主に耳コピでフレーズの引き出しを増やします。もちろん楽譜から覚えてもいいですが、耳を鍛える意味でも耳コピはたくさんやるといいです。最初は、自分が好きなジャンルとか好きな曲の好きなフレーズだけでも全然いいので、とにかく数をこなします。音を聴きとる作業にも慣れるし、コピーするスピードも上がるし、何よりフレーズの引き出しが増えます。ただ、“耳コピして弾けるようにして終わり”だと応用ができないので、フレーズの意味とか使いどころを知ったほうがいいです。

フレーズの意味や使いどころを知る

耳コピしたフレーズの曲のキー、そのフレーズの背景のコード、フレーズに出てくる音の度数、フレーズのリズムの形ほかの楽器のフレーズとの関係などを分析すると、フレーズをもっと深く理解できます。それに、演奏中にほかの楽器の音を聴きとる能力も鍛えられるので、アドリブ演奏が独り言じゃなくて会話になっていく土台にもなります。ただ、フレーズの使いどころがわかっても、そのまま使うだけだと、特に有名なフレーズの場合、“あ、あの曲のあのフレーズそのままだな”って思われちゃいます。まあ、意図的にそういう風に使う場合もありますけど。なので、フレーズを分析したら、その次はバリエーションを作ります。

フレーズのバリエーションを作る

違うキーに移調して弾く
違うコードに移して弾く(例えば元のフレーズがメジャー・コードでのフレーズだとしたら、どの音をどう変えたらマイナー・コードでも使えるか、ということを試す)。
元のフレーズのリズムの形と使う音は同じまま、音が出てくる順番を組み換えてフレーズを作る。
元のフレーズのリズムの形だけ生かして、違う音づかいでフレーズを作る
元のフレーズに出てくる音だけを使って、違うリズムでフレーズを作る

こうやってバリエーションをたくさん作ると、大半はダサいフレーズかもしれないけど、なかには良いフレーズも出てきます。 こうやって自分なりのフレーズの引き出しを増やしていきます。

ユニットを組み合わせてフレーズを作る

それから、耳コピとは別に、フレーズと呼ぶには短い2音〜4音くらいの音のユニットを組み合わせたり、音をズラしたり順番を入れ替えたり、リズムを変えたりしてフレーズを組み立てていく練習も役に立ちます。フレーズ作りの基礎体力が鍛えられるし、本番でもこのやり方でアドリブでフレーズを作っていくこともできます。

というわけで次回は、今回ご紹介したやり方をもう少し具体的に見ていく予定です。石村順でした!

石村順
◎Profile
いしむらじゅん●元LOVE CIRCUS、元NEW PONTA BOX。日食なつこ、ポルノグラフィティ、東京エスムジカ、K、JUJU、すみれ、大江千里、松山千春、宇崎竜童、石川ひとみ、種ともこ、近藤房之助、豊永利行、Machico、紘毅、城南海、西田あい、つるの剛士、SUIKA、Le Velvets、葡萄畑など、多数のライブや録音に参加している。ロングセラー『ベーシストのリズム感向上メカニズム グルーヴを鍛える10のコンセプトとトレーニング』の著者。Aloha Bass Coachingではベース・レッスンのほか全楽器対象のリズム・レッスンを行なっている。

◎Information
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