NOTES

2023年9月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

『世界』クレイジーケンバンド

“シン・クレイジーケンバンド”としての1stアルバム

 リード曲の「観光」を聴いて、衝撃を受けた。オリエンタルな意匠を配したループ・トラックが漂わせるアジア的な熱と高揚感、そしてその下を“静と動”の絶妙なコントロールで“間”を生かしながらシルキーに流れていくドラム&ベースの強力なファンクネス、横山剣の詞世界も研ぎ澄まされている。そんな新境地を感じさせる23作目の今作は、横山自身が“シン・クレイジーケンバンドとしての1stアルバム”と語っているように、新ドラマー白川玄大の正式加入や、ベーシストでありサウンド・プロデューサー&アレンジャーgurasanparkの作編曲への本格的なコミット、9割以上の楽曲で、打ち込みではなく“せえの”での同時録音を採用したことなど、いくつかのリニューアルが演奏陣のポテンシャルを引き出した結果生まれたキャリア最高の傑作と言えよう。マイケル・ジャクソンを彷彿する③での歯切れ良いスラップ、フォー・トップスなどの往年のモータウン愛に溢れる⑪でのメロディアスなラインなど、洞口のベースも冴えまくっている。(辻󠄀本秀太郎)

◎作品情報
『世界』
クレイジーケンバンド
ユニバーサル/ UMCK-1755 (通常盤)
発売中 ¥3,575 全17曲

参加ミュージシャン
【洞口信也(b)】横山剣(vo)、小野瀬雅生(g)、新宮虎児(g,k)、中西圭一(sax,flute)、河合わかば(tb)、澤野博敬(tp)、高橋利光(k)、スモーキー・テツニ(vo,per)、Ayesha(vo)、白川玄大(d)、他

『Sonicwonderland』上原ひろみ / Hiromi’s Sonicwonder

堅実にして華麗、そして軽快。アドリアン・フェローの技に酔う

 ハープ奏者とのデュオ、ソロ・ピアノ、弦楽四重奏との“ピアノ・クインテット”……このところの上原ひろみは偶然か必然かベース・レスによるアルバムが続いていた。しかし、新ユニット“Hiromi’s Sonicwonder”の旗揚げとなる本作はエレクトリック・ベースのスパイスが効きまくっている。弾き手は、チック・コリア(p)やジョン・マクラフリン(g)のバンドでも活動した達人アドリアン・フェロー。上原は2016年の“ザ・トリオ・プロジェクト”の来日ツアーで彼と演奏し、必要とされているベストの音を弾く能力と、多彩なハーモニック・コンセプトに感銘を受けた。“いつかアドリアンを念頭に曲を書いて、恒久的なグループで演奏できたら”。2023年、ついにそれが具現化したわけだ。アドリアンのプレイはまさに、あらゆる弦のあらゆるポジションを活用しているというべきもの。華麗なコード・プレイも楽しめるが、スロー・テンポ曲における重厚なシングル・トーンがまた絶品。低音の豊かなシステムで聴くほど快感倍増だろう。(原田和典)

◎作品情報
Sonicwonderland
上原ひろみ / Hiromi’s Sonicwonder
ユニバーサル/UCCO-1240(通常盤) 
発売中 ¥2,860 全10曲

参加ミュージシャン
【アドリアン・フェロー(b)】上原ひろみ(p,k)、ジーン・コイ(d)、アダム・オファリル(tp)、オリー・ロックバーガー(vo) 

『GUITARHYTHM VII』布袋寅泰

亀田誠治とKenKenが支える、布袋の真骨頂“GUITARYTHM”

 布袋寅泰のソロ作の代名詞と言える“GUITARYTHM”の名を冠した、通算21枚目となるアルバム。布袋流のダンディズムに満ちた作品像には一点のブレもなく、骨太かつ切れ味のするどいギター・プレイが作品を彩る。注目すべきは、元BiSHのアイナ・ジ・エンドをヴォーカリストに迎えた異色ナンバーの④。彼女の個性的な歌声にマッチした、ポップ・チューンに仕上げている。⑤はディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」を大胆にカバー。この超定番ロック・クラシックをエレクトロ風味に仕上げる手腕は、布袋ならではと言えるだろう。今作の本誌的なトピックと言えば、亀田誠治とKenKenの参加。亀田は“亀印”のベース・サウンドやフレージングで曲の骨子を支え、KenKenはトレードマークの派手なスラップこそ披露することはないが、そのグルーヴィなベースは、曲をさらにドライブさせる。この2人と、名手・山木秀夫(d)とのリズム体のプレイも注目していただきたいところだ。(辻󠄀井恵)

◎作品情報
『GUITARHYTHM VII』
布袋寅泰
ユニバーサル/TYCT-60215
発売中 ¥3,300 全10曲

参加ミュージシャン
亀田誠治/KenKen/ジェリー・ミーハン(b)】布袋寅泰(vo,g)、ニールX(g)、アイナ・ジ・エンド(vo)、山木秀夫/イアン・トーマス(d)、奥野真哉(k)、岸利至(prog)、他

『PLAYDEAD』SiM

壮大な世界観に飲み込まれること必至な“世界デビュー盤”

 前作から約3年の間に、本格的に世界へその名を轟かせた彼らの6th作。代名詞である“レゲエ・パンク”を主軸に、重量感や凶暴性を増して、より強烈に全身を揺さぶる楽曲が連なる。アニメ主題歌にも起用され、国内外で反響の多い⑫、昨年に米ビルボードのハードロック・チャートで1位を獲得した楽曲がオーケストラ・アレンジで収録された⑬など、活動の幅が大いに広がるきっかけとなった楽曲も収録。SINのベース・プレイは今作でも冴えわたっている。ヘヴィなサウンドから一転、間奏ではメロディアスなベース・ラインを聴かせる③、音数の極端に少ないブレイク・ダウンから徐々に熱を帯び、ウォーキング・ベースでサビの高揚感へ誘う④、ブレイク・ダウン後にスラップ奏法やヴィブラートを織り交ぜたベース・ラインが顔を覗かせる⑨など、楽曲のノリを生み出し、幅を持たせるベース・プレイが聴ける。⑧の壮大なサビから一転、静まるなか訪れるベース・ソロで魅せる、ウネる低音とメロディアスでグルーヴ感溢れるプレイも必聴。(水尾公弥)

◎作品情報
『PLAYDEAD』
SiM

ポニーキャニオン/PCCA-06217 
発売中 ¥3,520 全13曲

参加ミュージシャン
【SIN(b)】MAH(vo)、SHOW-HATE(g)、GODRi(d) 

ザ・シナー・ライズ・アゲイン』KK’sプリースト

重厚なメタル・サウンドを支える巧みなベース・プレイ

 元ジューダス・プリーストのK.K.ダウニングとティム“リッパー”オーウェンズらによって結成されたヘヴィ・メタル・バンドの2ndアルバム。ベースは元ヴードゥー・シックスのトミー・ニュートンが参加しているこのバンドの音楽は、ジューダス・プリーストよりヘヴィでパワフルなサウンドが特徴的で、ボトムの効いたベース・プレイが鍵となっている。緩急を織り交ぜた①やミドル・テンポの重厚な②では、ドラムのツイン・ペダルの連打に呼応した16分の刻みを取り入れたフレージングがポイントで、スピード・チューンの③ではポジションを幅広く使った動きの多いベース・ラインも聴ける。さらに、哀愁を感じさせるスロー・テンポのパートから始まり、テンポ・アップする⑦はメロディアスなベース・ラインや動きの多いプレイなど、ベースが目立った曲となっている。全体的にグルーヴに乗ったプレイが聴きどころだが、日本盤ボーナストラックの⑩⑪は④⑨のインスト・ヴァージョンで、歌がない分、ベース・プレイをはっきり聴くことができる。(Jun Kawai)

◎作品情報
『ザ・シナー・ライズ・アゲイン』
KK’Sプリースト
ビクター/VICP-65618 
発売中 ¥3,300 全11曲

参加ミュージシャン
【トニー・ニュートン(b)】ティム・オーウェンズ(vo)、K・K・ダウニング(g)、A・J・ミルズ(g)、シーン・エルグ(d) 

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