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    BM DISC REVIEW – BASSMAN’S LIBRARY – 2023 May

    2023年5月にリリースされたアルバムから、注目作品のディスク・レビューを公開。

    『ミラー・トゥ・ザ・スカイ』イエス

    ベテラン・プログレ・バンドが放つ通算23枚目の新作

     前作『ザ・クエスト』から1年7ヵ月ぶりという短い間隔で発表される新作は、8分超えの3曲と14分弱の大作曲を含む2CDというヴォリュームとなった。シンフォニックなアレンジも導入し、優雅なメロディと流麗な展開で聴かせる曲の数々は、まるで天上の音楽かのように清らかで神聖な雰囲気に満ちている。ただし、ゆったりとしたリズムの曲中心なので、『危機』 や『燃える朝焼け』のような緊張感の高さを求めると少し物足りないかも。イエスの核だったベーシスト、故クリス・スクワイアの遺志を継ぐビリー・シャーウッドにとって2作目となるが、クリス譲りのハネるベースでイエス・ ミュージックの土台を支え、後継者の役割を見事に果たしている。(舩曳将仁)

    ◎作品情報
    ミラー・トゥ・ザ・スカイ
    イエス

    ソニー/SICP-31610~11(通常盤)
    発売中 ¥3,520 全9曲

    参加ミュージシャン
    【ビリー・シャーウッド(b)】 スティーヴ・ハウ(g)、ジェイ・シェレン(d)、ジョン・デイヴィソン(vo)、ジェフ・ダウンズ(k)

    『ひみつスタジオ』スピッツ

    ビートに彩を与え歌を躍動させる濃厚なベース・アレンジ

     約3年半ぶりの17thアルバム。今作でも国宝級のソングライティングを発揮する草野の楽曲に絡むのは、タイトルのごとく実験に多くの時間が費やされたのであろう、いつも以上に濃厚な楽器アレンジだ。なかでもプレイ/サウンドの両面で強烈なシグネイチャーを放つのが田村のベース。ロック・スピリット溢れるドライブ・サウンドで指板を大きく捉え、グリスを多用しながら動きビートを彩っては、メロディ・ラインへの高い理解度でフレーズを構築し、歌を躍動させる。①や③の美し過ぎる歌との絡み、エフェクティブな⑧でストレンジに魅了するサウンドなど、素直さと “ひねくれ”が同居するスピッツの精神を体現する名アプローチに溢れる充実作。(辻本秀太郎)

    ◎作品情報
    『ひみつスタジオ』
    スピッツ
    ユニバーサル/UPCH-2256(通常盤)
    発売中 ¥3,300 全13曲

    参加ミュージシャン
    【田村明浩(b)】草野マサムネ(vo,g)、三輪テツヤ(g)、﨑山龍男(d)

    flow冬にわかれて

    一遍の物語を観るように音に没入できる作品

     ピアノ&ヴォーカル、ベース、ドラムからなる3人の、約1年ぶりとなるフル・アルバム。バンドの特徴である多彩な音楽性は今作も健在で、ポップス、ジャズ、エレクトロニカ、アンビエント、昭和歌謡、モンゴル民謡など、さまざまなタイプの楽曲が作品を彩る。それはまるで物語でシーンが変わるかのようで、その場面転換が作品にストーリーを生み出す。伊賀航のベースもその物語の一端を担い、適切な音を最低限にポツンポツンと置いていくかと思えば、ロック的なベース・ラインで曲を牽引し、無機質なループ・フレーズも交えつつ、ときにはウッドのアルコを用い、低音という形で曲に命を吹き込む。そのベース・ラインを形成する、柔らかく温かみのあるサウンドも心地良い。また、その場の温度や空気感までを内包したような全体の音像も、この作品をうまく演出していると言えるだろう。寺尾紗穂の柔らかな歌声やメロディ、詞の世界観も含めて、鑑賞後には一遍の映画を観終えたような感覚に陥る、とにかく音に身を委ね没入できる一作となっている。(辻井恵)

    ◎作品情報
    flow
    冬にわかれて
    こほろぎ舎/KHGCD-003
    発売中 ¥3,300 全10曲

    参加ミュージシャン
    【伊賀航(b)】寺尾紗穂(vo,p)、あだち麗三郎(d)

    『SEE YOU』 OCEANS

    勢いを加速させる“エモさ”満点の低音アプローチ

     東京・八王子発の3人組による2ndフル作。感情をむき出しに、衝動のまま迫りくるギターロックは“エモ世代”に刺さること間違いないが、どこか懐かしくもあるメロディと、突き抜けるまでの疾走感は玄人リスナーにもぜひ推したいところ。所属レーベルがTHE NINTH APOLLOという面にも納得感があるし、前作と今作を聴き比べてみれば、“約2年間の活動休止期間を経て昨年9月から活動再開”というバックグラウンドも彼らにとっては必要な期間だったとうかがえる。ベーシストのごろうは、屋台骨を支える骨太なボトム・ラインでグルーヴを牽引するが、随所に緻密なフレーズを詰め込み、ベーシストとしての個性を確かに示す。緻密に音階を刻むランニング・フレーズを聴かす①、メロディアスなフレージングとスラップのプルで楽曲を装飾する②、軽快なフィルインから音価を巧みにコントロールしつつ疾走感を創出する⑨、しっとりしたバラードの⑩では歌心タップリのラインを奏でるなど、バンドはもちろん、いちプレイヤーとしての活躍にもぜひ期待を寄せたいところだ。(加納幸児)

    ◎作品情報
    『SEE YOU』
    OCEANS

    THE NINTH APOLLO/TNAD-0153
    発売中 ¥2,420 全14曲

    参加ミュージシャン
    【ごろう(b)】ギターマン安藤(vo,g)、ショウ(d)

    『ポートレイト』 chilldspot

    アンサンブル全体に作用する多彩で堅実なプレイ

     メンバー全員が2002年生まれ、大型タイアップを手がけるなど注目の4人組バンドによる2ndフル・アルバム。前作はR&Bの印象が強かったが、本作ではグランジやレゲエ、ファンクといったアプローチも。貪欲にあらゆる音楽性を取り入れる姿勢が感じられた。小﨑のプレイやサウンドも曲ごとにニュアンスが異なり、ベースやエフェクターの違い、ピック弾きと指弾きの使い分けなどで変化をつけている。たとえばレゲエのフィーリングを感じる①は、奥行きのあるギターに対してベースは引き締まった音色で、その対比で横揺れのグルーヴを創出。⑥では揺らぎのある音色でアンサンブルに広がりをもたらす、などだ。バリエーションがあるなかでも小﨑のベースはタイム感があり、常に堅実。俯瞰して“楽曲の心地良さ”を目指すプレイで、その演奏は全体のアンサンブルを動かす車輪のような存在ともいえる。つまりバンドの規模や音楽性の振れ幅が大きくなるほど彼のプレイも広がるはずで、本作はchilldspotと小﨑というベーシストに対する期待を高める一作だ。(神保未来)

    ◎作品情報
    『ポートレイト』
    chilldspot

    ポニーキャニオン/PCCA-06202
    発売中 ¥3,080 全12曲

    参加ミュージシャン
    【小﨑(b)】比喩根(vo,g)、 玲山(g)、ジャスティン(d)

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