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    多弦ベースの世界 | 5弦ベースからベースVI、複弦ベースまで【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第38回

    • Text:Makoto Kawabe

    この連載では、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。今回は5弦や6弦ベースをはじめとする“多弦ベース”についてレクチャーしていきます。

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    はじめに

    一般的なエレキ・ベースは4弦仕様ですが、5弦仕様や6弦仕様といった多弦ベースが存在することはご存知かと思います。なかには“初めて手にしたエレキ・ベースが5弦ベース”、なんていうビギナーの方もいらっしゃるかもしれません。

    今回は、“4弦ベースを弾いているけど多弦ベースにも興味がある”という方のために、4弦ベースとは何がどう違うのか? メリットやデメリットを詳しく解説していきます。

    多弦ベースとは?

    多弦ベースとは5本以上の弦が張られたベースのことです。

    現代で最も普及している多弦ベースは、4弦ベースの低音弦側にさらに低い音域をカバーする弦を1本追加した“ローB仕様”の5弦ベースかと思います。

    さらに高音弦側に弦を追加した6弦ベースを演奏するベーシストも多いですし、昨今は7弦や8弦といった多弦ベースも流通しています。

    当然のことながら弦の本数が増えることで、演奏できる音域が拡張されるのが多弦ベースの最大のメリットです。

    こういった音域の拡張を目的とした多弦ベースとは別に、4弦ベースの各弦の本数を増やした“複弦ベース”という楽器もあります。

    5弦ベースの魅力を深掘りした本誌2020年1月号の特集『5弦ベースの真実』。

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    最も一般的な多弦ベースは?

    ローB仕様の5弦ベース

    5弦仕様のフェンダー製ベース“Player II Modified Active Jazz Bass”

    ローB仕様の5弦ベースのチューニングは、4弦ベースの完全4度(半音5個 = 5フレットぶん)のインターバルを保って低いほうからB,E,A,D,Gとするのが標準的です。

    ローB仕様の5弦ベースが普及した背景には、音楽の録音媒体がアナログ(テープやレコード)からデジタル(CDをはじめとするデジタル・データ)へ移行したことで音質が格段に向上し、従来よりも超低音域が記録再生しやすくなり、こういった音域を積極的に活用する音楽スタイルが増えたことなどが挙げられます。

    特にラウド系ジャンルではヘビーさを求めてより低いチューニングで演奏するスタイルが浸透していますし、もはやローB仕様の5弦ベースは不可欠な存在でもありますね。

    とはいえローB弦の開放弦(B0音)の基音は30.9Hzと大変低い周波数であり、この周波数をしっかりと再生し聴き取るには、楽器本体はもちろん、音響装置や再生環境にもそれなりのクオリティが求められます。

    この超低音域が再生できない市販のベース用スピーカー・キャビネットも多いのですが、それでもローB弦の音域を弾くと“低音域感”が得られるのは、ローB弦特有のニュアンスによるところが大きいかと思います。

    高い音域をカバーする5弦ベースも?

    ハイC仕様の5弦ベース

    5弦ベースにはローB仕様ではなく、4弦ベースの高音弦側にさらに高い音域をカバーする弦を追加したハイC仕様も存在します。

    ハイC仕様の5弦ベースのチューニングは低いほうからE,A,D,G,Cと、ローB仕様と同じ完全4度のインターバルが標準的です。

    ハイC弦は“アンサンブル上のベース”に求められる音域よりも高い音域であり、従来の4弦ベースでは不可能な高音域でのフレージングはもちろん、高音域での和音やアルペジオといったアプローチがしやすいのが大きなメリットです。

    ちなみにローBとハイCの仕様変更は弦の太さを変えるだけではできず、大抵はナット交換や各種調整が必要になります。

    D.A.N.の市川仁也は、アダモビッチ製のハイC仕様の5弦ベースをメイン器として使用。詳しくはこちらをご覧いただきたい。

    6弦ベースとは?

    ローB弦とハイC弦で上下に音域を拡張

    一般的な6弦ベースは4弦ベースの低音弦側と高音弦側にそれぞれローB弦とハイC弦を追加して、標準的なチューニングを低いほうからB,E,A,D,G,Cとした楽器です。

    1970年代後半にセッション・ベーシストであるアンソニー・ジャクソンのオーダーによって製作された6弦ベースの仕様が多くのベーシストに受け入れられ浸透したもので、通常の4弦ベースでのアプローチに加え、上下に音域を拡張することでより自由な音楽的アプローチを可能にするエレキ・ベースです。

    上原ひろみのトリオで6弦ベースをプレイするアンソニー・ジャクソン。
    アーニーボール・ミュージックマン製、6弦仕様のBongoを使用するハイエイタス・カイヨーテのポール・ベンダー。
    Photo:Andrea Friedrich/Redferns

    ギターのように弾ける6弦ベース!?

    フェンダー・ベースVIやダン・エレクトロの6弦ベース

    一方で、フェンダー・ベースVI(Bass VI)やダン・エレクトロの6弦ベースなど、エレキ・ギターと同じE,A,D,G,B,Eという並びでエレキ・ギターよりも1オクターヴ低くチューニングする6弦ベースも存在します。

    Fender/Vintera II 60s Bass VI

    1960年代には流通していた歴史のある楽器でバリトン・ギターとも表記され、チューニングがギターと同じ並びでショート・スケールなのでギタリストが持ち替えてもアプローチしやすい反面、一般的なエレキ・ベースよりも弦間ピッチが狭いため指弾きやスラップは演奏しにくく、いわゆるエレキ・ベース的なアプローチよりもギターに近いアプローチやフレーズが弾きやすいのが特徴です。

    ビートルズ「Back In The U.S.S.R.」では、ジョン・レノンがフェンダー・ベースVIで低音パートを演奏している。なお、本曲のレコーディングはリンゴ・スター不在で進められ、ポール・マッカートニーはドラムをプレイしている(詳しくはこちら)。
    近年のバンドでは、シカゴの3人組ホースガール(Horsegirl)がフェンダー・ベースVIを多用している。その姿やサウンドは代表曲「Anti-glory」のMVでも確認することができる。

    8弦ベース!? 10弦ベース!?
    複弦ベースの世界

    複弦ベースは各弦の隣に1オクターヴ高い音程の弦を張った楽器です。4弦ベースでは8弦ベース、5弦ベースでは10弦ベースになります。

    12弦アコースティック・ギターの場合はコーラス効果を伴うゴージャスな鳴りや響きのある音色が特徴ですが、複弦ベースではゴージャスさやコーラス効果ではなく、自然な倍音の付加や増量(誤解を恐れずに表現すればエキサイターやクランチに似た効果)による抜けの良さを好んで活用するベーシストが多いように思います。

    なかでもチープ・トリックのベーシスト、トム・ピーターソンは自身の発案によって4弦ベースの各弦に1オクターヴ高い弦を2本ずつ張った12弦ベースを愛用しています。これをアンプやエフェクターで軽く歪ませることで通常の4弦ベースは得られない存在感のある音色を構築しています。

    チープ・トリック「Don’t Be Cruel」。MVでも12弦ベースの存在が確認できる。
    10弦ベースをプレイするジョン・ポール・ジョーンズ。ジョシュ・オム(vo,g/クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)、デイヴ・グロール(d/ニルヴァーナ、フー・ファイターズ)とのスーパーバンド“ゼム・クルックド・ヴァルチャーズ”のステージ映像だ。ジョン・ポール・ジョーンズは、レッド・ツェッペリン時代から複弦ベースを取り入れていたことで知られる。

    世の中にはトム・ピーターソンのアイディアを拡張させて6弦ベースに複弦を2本ずつ張った18弦ベースなどという楽器を作った方もいるようですが、いずれにしても複弦ベースは1コースに複数の弦があるので、単音弾きでも押弦が大変です。(弦の選択肢は少ないですが)細いゲージを用いて弦高を低くするなど、少しでも押弦の負担が減るようなセッティングが重要になるでしょう。

    Prat Basses製18弦ベースのデモ演奏。

    多弦ベースと4弦ベース
    それぞれのメリット、デメリットは?

    先述のように多弦ベースは演奏できる音域が拡張されるのがメリットであり、ポジションの選択肢が増えることでフィンガリングやポジション移動がしやすくなるといった効果も期待できます。

    とはいえ4弦ベースと比較すると、弦が増えることで明らかにネックは太くなるので握り込みフォームがやりづらくなります。

    各弦のインターバルが同じ多弦ベースは各ポジションの音名を把握しやすいですが、それでも単純に弦が増えることで覚える箇所も増え、慣れないうちは何の音を押えているか見失いがちです。

    楽器自体の価格が4弦ベースよりも高い傾向があるのはもちろん、弦交換をはじめとする各種ランニング・コストも増える傾向がありますね。

    また、単音でのフレーズやアプローチが大半を占めるエレキ・ベースにとって余弦のミュートは必須テクニックですが、多弦ベースは余弦のミュートが厄介です。

    特にローB弦はちょっとした振動で鳴りだしてアンサンブルを濁らせることが多々あるので演奏時には充分な配慮が必要です。必要に応じて開放弦の振動を抑制する“フレットラップ”を活用しても良いでしょう。

    4弦ベースを使って、
    多弦ベースの音域をカバーするには?

    多弦ベースの魅力はわかったけど、ローB弦の音域を4弦ベースでなんとかカバーしたい……というベーシストもいるでしょう。

    そういうときは、ダウン・チューニングですね。全弦ダウン・チューニングで良い場合はワンランク太いダウン・チューニング用の弦を張ると弦のテンション感が保てるはずです。

    割り切りの良いベーシストであれば4弦ベースに太い弦を張って、B,E,A,Dとチューニングするのも良いでしょう。その際にはナットの交換や溝の最調整が必要になることもあるかもしれません。

    楽曲によってチューニングを使い分けたいときはエクステンダーを活用しましょう。操作に慣れると楽曲の途中でもチューニングを変更することが可能です。

    もちろん1本だけチューニングを変えると各音のポジションがズレるので、頭のなかで下げた分だけ加算してポジションを把握する必要がありますが、これも慣れると問題なく演奏できるかと思います。

    複弦ベースのニュアンスについては空間系や歪み系のエフェクターを活用することで4弦ベースでも近づけることは可能ですが、やはりまったく同じにはなりません。複弦ベースの弾き心地は良くも悪くも単弦ベースとは違いますので、機会があればぜひ一度試奏してみてください。

    最後に

    多弦ベースには多くの魅力がありますが、演奏の難易度は4弦ベースよりも確実に高いので、“大は小を兼ねる”的に多弦ベースの購入を考えているなら慎重になったほうが良いかも。

    とはいえ、昨今は多弦仕様に最適化された専用設計で演奏性を向上させた楽器も多いですし体感には個人差もあるので、気になる楽器があれば実際に楽器店で試奏してみると良いでしょう。

    ◎講師:河辺真 
    かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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