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『スパイvsスパイ』:その妙な“間”に萌えを感じる【クリープハイプ長谷川カオナシのレトロゲーム喫音堂】第29回

  • 文:長谷川カオナシ
  • バナードット絵:石田芙月(株式会社.AC)

毎回レトロゲームの音楽を取り上げ、その魅力をクリープハイプの長谷川カオナシが独自の視点で伝える連載『レトロゲーム喫音堂』。第29回となる今回はゲーム音楽のBMGにある“間”に注目します!

曲の“始まり”と“終わり”がないのがゲームのBGMだが……

お世話になっております。レトロゲーム喫音堂です! 本年もよろしくお願いいたします。

さて今回はやや趣向を変えて、私がレトロゲームのBGMに感じるちょっとマニアックな“萌えポイント”の話をしようと思います。

『スパイvsスパイ』(1986年/ケムコ)※1

『スパイ vs スパイ』(1986年/ケムコ)
30年ほど前に国立音大のフリマで売られてたROMです


世の中のポップ・ソングはイントロがあって、平歌があって、サビがありますね。それを2、3番まで繰り返し、アウトロがあって終了。

もちろん曲によって様々な構成がありますが、曲の“始まり”と“終わり”がしっかり決まっているものが多いです。

しかしゲームのBGMの場合、3分のステージBGMがあったとして、プレイヤーが3分以内にそのステージをクリアするとは限りません。その場合、BGMはループします。

ポップ・ソングの1曲をループして聴く際、曲の終了から冒頭に戻るまでの数秒間は無音のまま待つことになります。

一方でゲームのBGMの場合、この“無音”はありません。何周か聴かないとわからないほど自然にBGMがループしていることが多いです。

いたずらに無音を感じてしまったプレイヤーの士気は著しく低下することでしょう(※2)。

……が、稀に、綺麗にループしないBGMが存在します。

これこそが今回ご紹介したい私の“萌えポイント”。前置きが長くなりましたが、『スパイ vs スパイ』というゲームです。

“間”から時代的な情緒のようなものを感じ、たまらなく愛しく思えてしまうのです。

FC(ファミコン)版『スパイvsスパイ』で、ゲーム内に存在するBGMはふたつ。タイトル画面のBGMとプレイ画面のBGMのみです。プレイヤーはゲーム中のほとんどの時間、プレイ画面のBGMを聴くことになります。

BGMの内容も至ってシンプル。ベース・ラインは4分音符と4分休符の繰り返しのみ。登場するコードは4つのみ。総小節数は12小節のみ。質素で短い楽曲です。

この短い楽曲のループなのですが、曲の終わりと再開の間にほんの一瞬、妙な“間”があります。

明らかに意図的なブレイクでもない。尺としては1拍にも満たない。しかし、確かに存在する“間”。

曲が短いばかりに、プレイヤーは16秒に1度この“間”を聴くことになります。士気が下がるほどの“間”ではないのですが、頻度が頻度なだけに次第に気になって仕方がなくなります。

ですが私はこの、システムの都合で発生してしまったような“間”から時代的な情緒のようなものを感じ、たまらなく愛しく思えてしまうのです。

▼『スパイvsスパイ』のベース演奏をチェック!▼

【レトロゲーム喫音堂】第29回『SPY VS SPY(1986年/ケムコ)』

今回はマニアックな“間”の話をしました。あなたがゲームをしていて、もしこの“間”を発見したら
ぜひ長谷川に教えてくださいね!

それではまた次回までご機嫌よう。

(※1)
^1960年代にアメリカの雑誌社『Mad』で連載されたコミックを原作とする対戦アクションゲーム。音楽はタイトルBGMが増野宏之先生、プレイ中のBGMはニック・スカイリム先生作曲で増野宏之先生が編曲のようです。

(※2)
^実際、おもに初代「プレイステーション」のソフトなんかではがっつり“無音”が収録されている場合が多くありました。長時間同じステージをプレイしていると楽曲がフェードアウト。再びイントロが始まるのを聴くと“ああ、製作者の想定以上に長くプレイしてしまったのか……”と我に返ってしまうものです。

◎Profile
はせがわ・かおなし●1987年9月23日生まれ。小学生でピアノとヴァイオリンを手にし、高校1年でベースを始める。クリープハイプは2001年に尾崎世界観(vo,g)を中心に結成。2009年に長谷川、小川幸慈(g)、小泉拓(d)を擁した現編成となる。2012年にメジャー・デビューし、2014年には日本武道館にてライヴを行なう。2024年12月4日に7枚目のアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』をリリースした。長谷川はティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズのグッズ収集家でもある。

◎Information
長谷川カオナシ
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