NOTES
UP
第6回:ジョン・エントウィッスルの“リード・ベース”【ジョー・ダートの「レコードが僕に教えてくれたこと」】
- Interview & Text: Shutaro Tsujimoto
- Translation:Tommy Morley
ミニマム・ファンク・バンド、ヴルフペック(Vulfpeck)のベーシスト、ジョー・ダートが自身のルーツとなったアルバムについて語る本連載。第6回で取り上げるのは、ザ・フーが1971年に発表した5作目のアルバム『Who’s Next』。ベーシストのジョン・エントウィッスルの魅力や、彼のアイコニックなスタイルである“リード・ベース”についての見解も交えて語ってくれた。
第6回:ザ・フー『Who’s Next』(1971年)
僕とジョン・エントウィッスルではプレイ・スタイルが違うけど、ベースがバンドのなかで担う役割はとても似ている。
ザ・フーとの最初の出会いは、僕の親友が1970年のワイト島フェスティバルでのステージ映像を観せてくれたことだった。彼らはいかにも“ロック・スター”という感じで、信じられないほどカッコよかったんだ。10代であれを観たら誰でもブッ飛ばされると思うよ。アンプを巨大な壁のように積み上げて、高い位置でベースを構えるジョン・エントウィッスル、マイクを振り回しながら歌うロジャー・ダルトリー、風車のように腕をブンブン回しながらギターを弾くピート・タウンゼント、そしてドラム・セットを破壊しそうな勢いでパワフルに叩くキース・ムーン。彼らは4人組のシンプルな編成からは信じられないほど強烈なサウンドを生み出していて、僕はその桁違いのスケールに衝撃を受けたんだ。
ピート・タウンゼントの言葉で、“俺はリード・ギタリストじゃない。このバンドでは役割が逆で、ジョン・エントウィッスルこそがリード・ベースなんだ。”というものがあるけど、まさにジョンのベースは“リード・ベース”と言うべきもので、ギター・アンプで歪ませたアグレッシヴなベース・サウンドでアンサンブルを牽引していた。そこにパーカッションのようなギターが重なり、キース・ムーンがフロントマンのようにドラムを自由に叩きまくることで、あの巨大な音像が生み出されるんだ。
『Who’s Next』の話からは離れるけど、ザ・フーの初期の代表曲である「My Generation」は、世の中のヒット・ソングで初めてベース・ソロがフィーチャーされた楽曲なんじゃないかな? このベース・ソロは、当時ベースに出会ったばかりだった10代前半の自分には強烈に刺さったよ。その頃の僕はリード楽器としてベースを弾いていた人ってジャコ・パストリアスしか知らなかったけど(スタンリー・クラークに出会うのはもっと先のことだった)、ジョンのフレーズはブルージィなペンタトニックを多用していたこともあって、当時の僕でも理解できるものだった。ジョンはラウンド・ワウンド弦を最初に使い始めたベーシストとしても知られているけど、あの特徴的なブライトなトーンの迫力は本当に凄まじいものがある。
『Who’s Next』はすべての曲の個性が強烈だけど、ベースに関しては特に「Baba O’Riley」のトーンは力強くで、冒頭のロング・トーンのサステインなんて本当にパーフェクトだと思う。ドラムも強烈で、バンドの勢いを感じるよね。前回のレッド・ツェッペリンと同様、ドラム、ギター、ベースの3人だけであそこまで凄まじいサウンドが作り出せることには今でも驚かされる。それはレッド・ホット・チリ・ペッパーズや、ポリス、ラッシュにも言えることだね。
僕がヴルフペックでベースを弾き始めた頃、自分がリードとしての役割をこんなにも担うことになるとは思っていなかった。ファンキーなグルーヴを提供するのが自分の役目だと思っていたからね。でもジャック・ストラットンは、各メンバーのキャラクターや声に耳を傾け、僕のなかにリード・ベースの素質を感じ取ってくれたんだ。
僕とジョン・エントウィッスルではプレイ・スタイルが違うけど、ベースがバンドのなかで担う役割はとても似ている。音源ではベースがけっこう大きめにミックスされているし、アレンジもベースをフィーチャーするものになっていて、ベースが曲のフックとなっていることも多々ある。僕は派手にたくさんの音を弾きまくるわけじゃないけど、ベース・ソロを弾くこともあるし、グッドなベース・ラインが楽曲をさらに上のレベルに引き上げるようなこともある。ヴルフペックではベースとドラムだけで強力なグルーヴやメロディを作り出すこともあるし、リズム・セクションだけで輝きを放っているものもあるだろう。自分たちの作品を聴き返したときにベースの独特なタイム感やフィーリングが感じられると、そこに到達するために費やしてきた膨大な時間が誇らしくなるよ。
もしグルーヴ感がなかったらリード・ベースは魅力を伴うことはないだろうね。それはドラマーがひとりで叩いているときにグルーヴの欠片も感じられないようだったら、バンドのなかで聴いてもあまり良く聴こえないことと同じことだろう。逆に言えば、ソリッドなグルーヴがあればドラムもベースも複雑なフレーズをプレイせずともバンドのリード楽器でいられるのだと思うよ。
作品解説
ロック史を変えた記念碑的デビュー・アルバム
1964年にデビューしたザ・フーは、ロジャー・ダルトリー(vo)、ピート・タウンゼント(g)、ジョン・エントウィッスル(b)、キース・ムーン(d)による4人組で、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、キンクスと並び英国4大ロック・バンドに挙げられる伝説的グループ。『Who’s Next』は、ロックンロールとオペラを融合させ高い評価を受けた『Tommy』(1969年)、傑作ライヴ・アルバム『Live at Leeds』(1970年)に続いて1971年に発表された5作目のスタジオ・アルバムで、シンセサイザーやシーケンサーを導入し、プログレッシブなサウンドを取り入れた作品となった。本作には「Baba O’Riley」や「Won’t Get Fooled Again」などの代表曲が収録されているほか、ベーシスト的にはジョン・エントウィッスルが作曲を手がけた「My Wife」が収録されている点にも注目だ。