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第26回 – クリック練習のススメ【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】
- Text:Makoto Kawabe
この連載では、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。
今回は“クリック練習”についてレクチャーしてきます。
はじめに
上達するには日々の練習が欠かせませんが、“どういう練習をしたらよいかわからない”といった悩みを抱える新米ベーシストさんも多いかと思います。そこで今回は基礎練習の大本命、クリック(メトロノーム)を使った練習を紹介します。
“クリック練習は無機質でおもしろくない”などと敬遠する方も、クリック練習の意図や活用方法を知れば、前向きに取り組めるようになるのではないかと思いますし、むしろクリック練習が楽しく感じられるようになるはずです! ぜひトライしてみてください。
クリック練習に使用するアイテムは?
クリック練習とはクリック音に合わせてベースを弾く練習です。演奏するフレーズはクリック練習に特化したフレーズやお気に入りの楽曲のフレーズなど、練習目的に合わせて多種多様ですね。
クリック練習に用いるアイテムは、電子回路によるメトロノーム専用機のほか、マルチ・エフェクターやチューナーに搭載されているメトロノーム機能、DTMソフトのクリック機能やスマホのアプリ、PCブラウザで開けるオンライン・メトロノームなど、多くの種類がありますので、自分の練習環境に合ったアイテムを選びましょう。
クリックに用いる音源はサステインが短く、ベースと一緒に鳴らしても埋もれにくい抜けの良い音、かつ耳障りでない音、やはりカウベルやスティック音、パルス性の電子音などが適しているでしょう。いずれにしても聴覚に支障をきたさないよう、適度な音量に設定しましょう。
オススメのメトロノーム
ボス製DB-90:メトロノーム専用機の大定番。豊富な機能で音量、音質も申し分なし。練習にも熱が入ります。
セイコー製SPM400WD:古き良き機械式メトロノーム。雰囲気は最高だが音量の調節や細かな設定ができないのが難点。なかなかの音量が出るのでアンプで音を出せる練習環境が不可欠。
ヤマハ製Metronome(アプリ):シンプルかつ必要充分な機能で使いやすいスマホアプリ。現行の製品は会員登録が必要ですが無料です。邪魔な広告も出ません。
既成楽曲に合わせて弾く練習とクリック練習の違い
既成楽曲のフレーズを弾くならば、音源に合わせて弾いたほうが雰囲気を掴みやすく演奏を楽しみやすい側面もありますが、ある程度のクオリティで弾けた気になってしまいがちです。
その点、クリック練習ではクリック音と自分が演奏するベースの音だけなのでストイックではありますが、細部まで自分の演奏を聴き取りやすく、演奏クオリティを向上させやすいというメリットがあります。
また、BPM(テンポ)が速く難易度の高い楽曲やフレーズは、オリジナルのBPMで無理に弾こうするよりも、一旦かなり遅いBPMに設定し、一定のスピードで安定して弾けるようにしてから徐々にテンポアップさせるほうが格段に上達が速く、クオリティの高い演奏ができやすい傾向があるように思います。
昨今は楽曲の再生スピードを変えられるアプリも多数ありますが、テンポ設定の手軽さや練習環境の作りやすさは依然としてクリック練習に分があるでしょう。
※BPM……Beats Per Minuteの略で1分間あたりの拍数の意。BPM60で秒と同じスピードです。4/4拍子であれば1拍が4分音符の音価であり、4拍で1小節ですね。
安定したリズムで演奏するトレーニング
ここからは目的別のクリック練習を紹介していきましょう。
まずは“安定したリズムで弾けるようにする”ための超定番クリック練習です。勘違いされがちですが、“安定したリズム”と“抑揚のない演奏”はまったく別物です。無機質なクリック音に合わせるからと言って機械的で抑揚のない演奏をすることがクリック練習の目的ではありません。
安定したリズムで演奏するには、フィンガリングやピッキング、シフティング(ポジション移動)などによって生じるタイミング、音量、音色などの不規則なムラを極力なくすことが近道ですし、それにはやはりクリック練習が最適と言えるでしょう。
クリック音は楽曲や練習フレーズと同じBPMで、拍だけで鳴るシンプルな設定で良いかと思います。不規則なムラは自分の耳で気が付かないと修正できませんので、クリックに合わせてただ漫然と弾くだけでは無意味です。
できれば録音や撮影をして自分の演奏を客観的に聴いて判断しましょう。DTMソフトで録音してピッキングのタイミングや音量のバラツキを波形で確認しても良いでしょう。自分のクセや演奏傾向を知る手がかりにもなるかと思います。もちろんこの練習は譜例だけでなく、既成楽曲や自作フレーズでもトライしてくださいね。
音価を正しく理解するトレーニング
譜面がある楽曲でシンコペーションや複雑な音価の組み合わせなど、ピッキングやミュートのタイミングが不明確な場合は、クリック練習によって正確なタイミングを把握しましょう。シンコペーションでなぜかハシる、またはモタるとか、バンドで演奏した際に全体のアンサンブルがゴチャッする箇所は怪しいですね。
クリック音はBPMの拍だけでなく練習するフレーズに合わせて8分ウラや16分ウラなどを少しだけ足して鳴らす(拍と同音量にしない)と良いでしょう。思い込みでタイミングを間違えている可能性もあるので、録音して聴いてみるとか、MIDIでベース・ラインを打ち込んで比較するなど、こちらも客観的な判断しながら練習を進めると良いでしょう。
リズムを自立させるトレーニング
言葉で表現するのが難しいのですが、“何かに依存した演奏から脱却する”ための練習です。
例えば、既成楽曲に合わせて弾くだけでは自分でテンポやリズムをキープしなくても演奏が成立しているように聴こえがちです。極端に遅れて弾いていても、突っ込み気味で弾いていても安定しているように聴こえる可能性があるのです。この状態でバンドの生演奏に参加すると、既成楽曲とは違って他パートのメンバーは生身の人間ですから、ベースの演奏の影響を受けてテンポが変化したり、タイミングがずれてしまったりすることが往々にしてあります。
つまり生演奏ではテンポやリズムを自立させることが不可欠なのです。リズム体だから“ドラムに合わせる”のではなく、自立したリズムで“ドラムと並走する”ような感覚で弾くべき、というのが筆者の持論です。自立したリズムは“グルーヴ”と言い換えても良いかもしれません。
安定感の塊ともいえるクリックを使った練習は、リズムを自立させるのには不向きなように思えますし、クリック練習否定派の識者の方々もリズムやテンポ・キープをクリックに依存してしまいがちな点を憂慮しているのではないかと思います。
たしかに漫然とピッキングのタイミングをクリックの点で合わせようとする、“ぶら下がろうとする演奏”は逆効果だと思いますが、クリックに依存せず、むしろクリックの依存性を認識した上で自らリズムを作り出すことを意識して取り組めば、クリック練習で前向きな成果を生み出せると筆者は考えます。
例えばクリックを拍で鳴らして演奏していて遅れを感じ始めたとき、次の拍で正確なタイミングで弾くと自分が弾いているフレーズのリズムは崩壊してしまいます。正確な拍を感じつつも少しずつ遅れを挽回すれば、俯瞰では自分のリズムを崩壊させることなく復帰できます。クリックを突如現われる“点”として聴くのではなく、クリックとクリックの間の時間を“線の長さ”で感じながら弾く感覚、といったところです。
リズムを自立させるクリック練習でオススメなのは“裏クリック”です。クリックを拍で鳴らしつつ、ウラ拍で聴いて演奏する練習です。クリックとクリックの間にある無音部分に自分で拍頭を作りながら弾くことになるので、自立したリズムを養えるかと思います。
BPMを半分や1/4に設定すれば2拍と4拍、小節ごとなど、さらに間引いたクリックを作れるので、自立したリズムを作りながらテンポをキープするトレーニングにもなるでしょう。2拍、4拍のクリックはドラム・ビートのスネアや裏打ちのハンド・クラップと同じタイミングですし、むしろノリの良いビートに聴こえてクリック練習が楽しく感じられることもあるでしょう。
間引いたクリックの発展型として、DTMソフトなどを使ってクリック音が鳴る小節とまったく無音の小節を作り、長いインターバルでループ再生(いわゆる間欠クリック)すれば、テンポをキープするトレーニングにもなるでしょう。
ガイドとクリック練習は違います!
ところで、レコーディングでは同期する音源がある場合や、無音部分が続くアレンジ、生演奏のテンポを安定させたい場合などにクリックをガイドとして活用することがあります。むしろクリックを使わないレコーディングのほうが少ないかも。
レコーディングにおけるクリックはあくまでもガイドなので、クリック練習とは違う聴き方、捉え方をすべきです。当然、レコーディングを経て完成する楽曲にはクリック音が含まれていませんし、クリック練習と同じように聴いて演奏してしまうとアンサンブルに馴染まないだけでなく、覇気のないベース・ラインになりがちです。ガイドとしてのクリックはあくまでガイドとしてビートと捉えずに聴くようにしましょう。
最後に
クリック練習はシンプルですが、アイディア次第でさまざまな練習メニューが作れますね。クリック練習については過去のベース・マガジンで何度も取り上げているテーマですが、特に2019年5月号では今回の内容を深く掘り下げた特集記事を筆者が執筆していますので、ぜひバックナンバーにも目を通してみてください。
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◎講師:河辺真
かわべ・まこと●1997年結成のロック・バンドSMORGASのベーシスト。ミクスチャー・シーンにいながらヴィンテージ・ジャズ・ベースを携えた異色の存在感で注目を集める。さまざまなアーティストのサポートを務めるほか、教則本を多数執筆。近年はNOAHミュージック・スクールや自身が主宰するAKARI MUSIC WORKSなどでインストラクターも務める。
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