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    追悼 – アンディ・ルーク

    • Text:Tomoo Yamaguchi
    • Photo:Kevin Cummins

    ソリッドな音塊でメロディアスに彩り
    ザ・スミスを定義した傑人

    1980年代のUKロックを代表するバンド、ザ・スミスの元ベーシスト、アンディ・ルークが逝去したことが、2023年5月19日、かつての盟友ジョニー・マー(g)のSNSで発表された。享年59歳。膵臓がんだったという。

    “アンディは彼を知る人たちからは、優しく美しい魂として、音楽ファンからは極めて才能あるミュージシャンとして記憶されることでしょう”と語ったマーをはじめ、ザ・スミスの元メンバーたちはもちろん、その他、多くのミュージシャンが弔辞を発表し、早すぎるルークの死を悼んだ。

    1964年1月17日、英国マンチェスターに生まれたルークは7歳のときに両親からアコースティック・ギターを与えられたことをきっかけにギターを弾き始めた。11歳のときにセカンダリー・スクールで出会ったマーとともにギターの練習に励み、やがてバンドを結成。その際、マーの上達ぶりに敵わないと思ったルークはベースに転向したという。マーと組んだファンク・バンド、フリーク・パーティーほか、いくつかのバンドを経験したのち、1982年、デビュー・ライヴの直後に前任ベーシストをクビにしたマーに誘われ、ザ・スミスに加わった。ドラッグの問題を理由に1986年に2週間だけバンドを離れたが、翌年の解散まで在籍。スミスが発表したすべての音源で演奏している。

    左からアンディ・ルーク、モリッシー(vo)、ジョニー・マー(g)、マイク・ジョイス(d)。
    Photo by Stephen Wright

    モリッシー(vo)とマーというカリスマがふたりいたため、ザ・スミス時代、ルークの存在が目立つことはそれほどなかったが、メロディアスなベース・プレイはザ・スミスのサウンドに欠かせない要素だったと言われている。一度、バンドをクビになったルークがバンドに復帰できたのは、誰も彼の代わりを務めることはできなかったからだ。

    「What Difference Does It Make?」(Official Video)

    ネアオコ・ナンバー「Still Ill」のマーによる複雑と言うか、執拗な単音リフを縫うように奏でるメロディアスなベース・フレーズや、ザ・スミス流のロカビリー・ナンバー「What Difference Does It Make?」のブリッジでダイナミックに鳴らす大胆なパッセージなど、1stアルバム『The Smiths』(1984年)でも印象的なプレイを残しているが、ルークがベース・プレイに開眼するのは、1曲目の「The Headmaster Ritual」から向こう意気あふれるリフを奏でる2ndアルバム『Meat Is Murder』(1985年)からだ。前述したメロディアスなプレイに加え、「Rusholme Ruffians」ではギターに代わってメイン・リフをプレイ。また、ファンキーな「Barbarism Begins At Home」の弦の鳴りを生かしながら、軽やかにリズムを刻むプレイも聴きどころだ。重心はわりと高めで、演奏を支えると言うよりはメロディを奏でることを意識したプレイは、ルークのスタートが前述したとおりギターだったからかもしれない。

    「The Headmaster Ritual」(Official Audio)

    続く『Queens Is Dead』(1986年)では、そんなしなやかなプレイとともにソリッドな音色にもさらに磨きがかかる。表題曲をはじめ、同アルバムにおけるプレイを、“ほかのベーシストには真似できないもの”とマーは絶賛している。そんなマーとの相性はザ・スミス以前から、それこそ、ともにギターの練習に励んでいた10代の頃から培ってきたものに違いない。

    「The Queen Is Dead」(Official Video)

    ザ・スミス解散後はセッション・プレイヤーとして、多くのアーティストのレコーディングやツアーに参加してきた。「Interesting Drug」、「The Last of the Famous International Playboys」、「November Spawned a Monster」「Piccadilly Palare」といったモリッシーのシングルに加え、シネイド・オコナーの『I Do Not Want What I Haven’t Got』(1990年)、ザ・プリテンダーズの『Last of the Independents』(1994年)、イアン・ブラウンの『The World Is Yours』(2007年)などでルークのプレイを耳にすることができる。

    また、バンド活動にも意欲的に取り組み、マニ(元ザ・ストーン・ローゼズ)、ピーター・フック(元ニュー・オーダー)らとフリーベース(Freebase)を、2009年に移り住んだニューヨークで知り合ったDJ/プロデューサー、オーリー・コレツキー、ザ・クランベリーズのドロレス・オリオーダンとD.A.R.K.を、そしてハッピー・マンデーズでプレイしたこともあるカヴ・サンドゥとブリッツ・ヴェガを結成し、音源もリリースしてきた。そのブリッツ・ヴェガが2022年11月に発表した新曲「Strong Forever」にはマーが参加。35年ぶりの共演と話題になったが、さらなる新曲も発表する予定だったという。

    「Strong Forever」(Official Audio)

    その矢先の早すぎる死を、バンドの中でその個性を発揮してきたルークが残した数々のベース・プレイとともに悼みたい。