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『バンジョーとカズーイの大冒険』フェーダーさばきが視覚と聴覚を体験に昇華させる【クリープハイプ長谷川カオナシのレトロゲーム喫音堂】- 第11回
- バナードット絵:石田芙月(株式会社.AC)
- 挿絵:長谷川カオナシ
2022年にメジャー・デビュー10周年を迎えたクリープハイプ。それを記念して始まった長谷川カオナシによる本連載コラムでは、多彩な趣味を持つ長谷川が特にハマっているという、“レトロゲーム”のベースの世界を案内します。
エンターテインメントが提供できるものとは?
お世話になっております。
今年度もあと少しですが皆様はいかがお過ごしでしょうか。
我々クリープハイプはライブハウス・ツアーをまわりつつ、来月に控える初のアリーナ・ツアーの準備を進めております。
さて、ベース・プレイヤーが聴き手に提供できるものといえば、やはり重低音ですね。
では、ビデオ・ゲームが我々に提供してくれるものは何でしょうか?
困難なステージがもたらすストレスとそれを乗り越えたときのカタルシス。
綿密に練られたシナリオやテキストから得られる感動。
いろいろありますが、直接的な情報となると“光”と“音”の二点のみではないでしょうか。
今回はその二点の組み合わせで私が特に感動した一作をご紹介したいと思います。
『バンジョーとカズーイの大冒険』(1998年/任天堂)(※1)
通称“バンカズ”。NINTENDO64の3Dアクション・ゲームです。
しばしば、同じくNINTENDO64の『スーパーマリオ64』とも並び称される名作ですね。
主なゲーム内容は“グランチルダのとりで”を散策し、各部屋からつながる異世界ステージをひとつひとつクリアしていく、というものになっています。
今回の喫音堂でとりあげるのは、この“グランチルダのとりで”。
いかにも魔女の砦といった趣の、マイナー調のBGMが流れます。
ゲームのいわば“ステージセレクト画面”に相当するこのマップは、実に広大な箱庭です。
砦からつながる異世界ステージの表情は多種多様。
山、海辺、洞窟、沼地、雪山、森……。
各ステージに飛ぶとそれぞれの専用の曲にBGMが変化するのは当然ですが、“バンカズ”はそれだけではありません。
“グランチルダのとりで”内で各ステージ入口に近づくと、砦のBGMの進行はそのままに楽曲のアレンジが変わっていくのです!
“曲が進行したまま構成楽器が変化する”という演出は、喫音堂第1回でとりあげた『スーパーマリオワールド』でもありました。
あちらでは“パーカッション・トラックのスイッチング”という処理でしたが、“バンカズ”では相当のトラック数が変化します。
しかも“ON/OFF”というシンプルな処理ではなく、フェーダー(※2)を少しずつ上げ下げするようにじわじわと。
遠くの建造物は小さく見えますが、近づくにつれ大きく見えてきます。
“バンカズ”BGMは、そのフェーダー処理によって視覚的距離感を聴感的にも演出しているのです。
“光”と“音”の組み合わせにより、ゲームをより“体験”に近づけている名演出だと思います。
今回は“グランチルダのとりで”の特にメロディ部分をベースで演奏しました。
Cm→E♭→Fm→Cmまでは素直な進行ですが、メロディが始まってから6小節目はD♭→Gという若干トリッキーな進行になります。
下降時には♭だったレ、シ、ラの音が、次の瞬間にはナチュラルに変わるので混同しないよう気をつけましょう。
さて今回は、音と光の二点だけでも体験として提供できる、という例を知ることができました。
ということは、ベーシストが提供できるものも重低音に限らないかもしれない!(※3)
特にライヴという現場では。
可能性を模索していきましょう!
それではまた来月までご機嫌よう。
◎Profile
はせがわ・かおなし●1987年9月23日生まれ。小学生でピアノとヴァイオリンを手にし、高校1年でベースを始める。クリープハイプは2001年に尾崎世界観(vo,g)を中心に結成。2009年に長谷川、小川幸慈(g)、小泉拓(d)を擁した現編成となる。2012年にメジャー・デビューし、2014年には日本武道館にてライヴを行なう。2021年11月に6thアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリースした。長谷川はティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズのグッズ収集家でもある。
◎Information
長谷川カオナシ
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クリープハイプ
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