NOTES

UP

【ベース初心者のための知識“キホンのキ”】第13回 – “ベーシストのための”エフェクター知識

  • Text:Makoto Kawabe

ここでは、“ベースを始めたい!”、“ベースを始めました!”、“聴くのは好きだけど僕/私でもできるの?”というビギナーのみなさんに《知っておくと便利な基礎知識》を紹介します。第13回のテーマは“ベーシストのためのエフェクター知識”です。

はじめに

今回はこれまでの流れをガラッと変えてエフェクターについてです。すでにベースを手にしている皆さんは、ベースをベース・アンプやヘッドフォン・アンプにつないでスピーカーやヘッドフォンからベースの音を聴いていると思います。そのままでも充分ベースらしい音色を楽しめますが、もっと“音色を派手にしたい”、“音色を整えたい”などと思ったときは、音色に脚色(エフェクト)を加える“エフェクター”の出番です!

主流はペダル型エフェクター

昨今のエフェクターは“ペダル型エフェクター”と呼ばれる形状が主流です。“ストンプ・ボックス”とか“コンパクト・エフェクター”と呼ばれることもありますし、“エフェクター”といえばペダル型を指す場合がほとんどです。演奏中は手がふさがっているので足でエフェクトのオン/オフを切り替えるフットスイッチが付いているのが特徴ですね。

エフェクターの接続順:ベース→エフェクター→ベース・アンプ。

ペダル型エフェクターはベースとベース・アンプの間に接続するので、これまで1本で済んでいたシールド・ケーブルがもう1本必要になります。複数のエフェクターを接続する場合はさらにエフェクター同士をつなぐ短いシールド・ケーブル、いわゆる“パッチ・ケーブル”が必要になります。複数のエフェクターを数珠つなぎ(シリーズ、直列)に接続する場合は、エフェクターの合計数+1本のシールド・ケーブルが必要というわけですね。

パッチ・ケーブル

エフェクターの電源は?

ペダル型エフェクターの多くは9Vの006P乾電池か外部電源(パワー・サプライ)によって電源が供給されます。エフェクターには電源スイッチそのものはなく、乾電池動作の場合はエフェクト効果(フットスイッチ)のオン/オフに関わらずインプット側にシールド・ケーブルを挿すことで電源がオンになります。ケーブルを挿したままにしておくと音を出していなくても電池が消耗してしまうので、楽器を弾かないときはシールド・ケーブルを抜いておきましょう。

パワー・サプライから電源を供給する場合は、DCケーブルを接続してパワー・サプライの電源をオンにした段階でエフェクターの電源もオンになります。DCプラグをエフェクターに挿すと電池の接続が内部でキャンセルされるので、シールド・ケーブルを挿したままでも電池は消耗しませんが、電池を長期間エフェクターに入れたままにしておくと液漏れを起こすなどトラブルのもとですので、パワー・サプライで使うことが前提であれば電池は抜いておいたほうが賢明です。

複数のエフェクターを使う場合や、電池の消耗が激しいエフェクター(デジタル系エフェクターなど)を使う場合は専用のエフェクター・ケースと合わせてパワー・サプライを導入したほうがスマートです。パワー・サプライを導入する際は各エフェクターの取扱説明書をよく読み、必ずDCプラグの極性と消費電流を確認し、すべてのエフェクターの消費電流を合算して、それを供給できる電流容量があり信頼性の高いパワー・サプライを選びましょう。

パワー・サプライの例:
Voodoo Lab製Pedal Power 2 Plus

エフェクターの種類

ここからは音色効果の異なるエフェクターをいくつかに分類して紹介していきましょう。ピンとくるエフェクターはあるかな?

歪み系

音を歪ませるエフェクターです。歪ませる手法の違いによりおもに“ファズ”、“オーバードライブ”、“ディストーション”の3種類がありますが、各機種の音色傾向によって分類されている側面もある(ファズなのにオーバードライブっぽい音色の機種など)ので、その境目は比較的曖昧です。一般的に歪ませると音色が煌びやかで派手になりますが、機種の選定や設定次第でアンサンブルに馴染みやすくなることもあれば埋もれて聴こえづらくなることもあります。

例:フェンダー製Trapper Bass Distortion
(ディストーション)

<ダイナミクス系>

音量の大小や強弱に関わるエフェクターです。ダイナミクス系のエフェクターのうち、ベースでの使用頻度が最も高いのが“コンプレッサー”です。コンプレッサーは“入力された音量があらかじめ設定した大きさ(スレッショルド・レベル)を超えた際に一定の比率で音量を制限(圧縮)する”というのが基本動作で、おもな役割は音量のバラツキを抑えることですが、スレッショルド・レベルを超えてから圧縮が始まるまでの時間(アタック・タイム)や圧縮率(レシオ)など、多くのパラメータがあり、コンプレッサー特有のアタック感を付加したり、音圧を高めたりすることができるなど、さまざまな効果が得られる極めて奥の深いエフェクターです。“リミッター”はコンプレッサーの一種で、信号レベルを制限する働き(アタック最小、レシオが無限大)に特化したエフェクターです。

そのほか、楽器を弾いていないときに出力をオフにする“ノイズ・ゲート”、アタックを消してフェード・インする効果(ヴァイオリン奏法)が自動的にできる“スロー・ギア”などもダイナミクス系に分類されます。

例:api製TranZformer CMP
(コンプレッサー)

<EQ、プリアンプ系

EQ”は周波数帯域ごとにレベルを調整する機能です。帯域をざっくりと分けて各帯域のレベルを増減する“トーン・コントロール”、5つ以上の帯域に分けて増減することで設定と効果を視覚的にわかりやすくした“グラフィック・イコライザー”、増減する帯域を自由に設定できる“パラメトリック・イコライザー”などの種類があり、それぞれにメリット、デメリットがあります。

プリアンプ”に分類されるエフェクターは、基本的にはベース・アンプのプリアンプ・セクションの機能を抜き出したもので、おもな機能はEQですが、歪みやDIアウトなど複合的な機能を持たせた機種も多く、各社から数多くのベース用プリアンプがリリースされています。TECH 21のサンズアンプ・ベース・ドライバーDI、MXRのM80 bass d.i.+、ダークグラスエレクトロニクスのMicrotubes B7Kなど、その機種でしか得られない音色に虜になるベーシストも多いですね。ちなみにアクティヴ・ベースにプリアンプ型エフェクターを導入する場合、楽器本体、エフェクター、ベース・アンプと似た機能をいくつも使用することになるので、明確な意図を持って用途ごとに使い分けると使いやすくなるでしょう。

例:ダークグラスエレクトロニクス製Microtubes B7K Ultra
(プリアンプ)

<モジュレーション系>

一定の周期で音が揺れたり回転したりしているような効果が得られるエフェクターで、“揺れもの”といわれることもあります。周期的に音量を上下させる“トレモロ”、位相の異なる信号をミックスすることで周期的に周波数帯域のピーク/ディップ(山谷)を作る“フェイザー”、わずかな時間遅れを周期的に変化させた信号をミックスすることでピッチの揺れを作る“コーラス”や“フランジャー”などが定番です。揺れものは飛び道具に分類されることも多く、効果がわかりやすい反面、使いどころは限定される(センスが問われる)と言えるかもしれません。

また、“ワウ”はピークまたはディップを作った帯域を移動させて独特の音色効果を得るエフェクターで、ピーク/ディップを周期的に動かす“オート・ワウ”、アタックに追従させる“タッチ・ワウ”、足下で操作する“ペダル・ワウ”があり、それぞれ得られる効果はまったく異なります。

例:Vivie製Coral Choir
(コーラス)

<空間系>

いわゆるヤマビコ効果が得られる“エコー”、タイミングを遅らせた信号をミックスする“ディレイ”、残響を付加する“リヴァーブ”など、空間的な広がりを加えることができるエフェクターです。近年はデジタル技術の発達でかなりクオリティの高い空間系のペダル型エフェクターが多くなりました。

例:strymon製blueSky V2
(リヴァーブ)

<その他>

ベースのピッチとダイナミクスを検出し、内蔵シンセサイザーによって新たな音色をつくり出す“ベース・シンセ”、短時間のループ録音(ディレイ・ホールド機能の拡張)によって多重演奏を可能にする“ルーパー”、ピッチを自由自在に可変できる“ピッチ・シフター”、単音から和音を作り出す“ハーモナイザー”などがあります。後述のスイッチャーを使ってエフェクト・システムを組んだ場合はチューニングをするための“チューナー”も欠かせませんね。

※シンセサイザーの鍵盤でベース・ラインを弾くことや、そういった楽曲のベース・ラインのことを“シンセ・ベース”と言いますが、エフェクターとしての“ベース・シンセ”を“シンセ・ベース”と表現することも多々あるように思います。どちらでなければいけないということもないので、どちらを意味しているかは文脈から判断しましょう(笑)。

エフェクターの接続順は?

エフェクターの接続順に絶対はなく、おもしろいエフェクト効果が得られれば何でもOKですが、おおよそのセオリーはあります。ダイナミクス系、EQ/プリアンプ系、歪み系など、音色の下地になりうるエフェクターは前半に置いたほうがよく、空間系は後半に接続したほうが無難です。特に空間系はステレオのほうが効果は高まるので、録音環境であれば録音したあと、ライヴ演奏であれば足下ではなくPA側でかけてもらったほうが狙いどおりの音色が作れるかもしれません。もちろん、モジュレーション系のあとに微調整のためにEQを使うなど、順番を前後するのもアリです。いずれにしても闇雲にエフェクターを並べるのではなく、目的意識をしっかり持って効果的に使うのがいいのは言うまでもありません。

マルチ・エフェクターとは?

複数のエフェクターの機能を集約し、ひとつの筐体にまとめたのが“マルチ・エフェクター”です。近年はデジタル化が進み、コンパクト・エフェクター数十台分の機能を搭載するうえに小型で音質も良く、コンパクト・エフェクターを複数購入するよりも安価で高性能な機種が数多くリリースされています。コンパクト・エフェクターをずらりと並べるのに比べて接触不良などのトラブルが少なく、セットアップされた音色を一瞬で変えられるなどのメリットがありますが、エフェクトすべての設定が盤面に出ているわけではないので、とっさのときに調整しづらいのが難点かもしれません。

例:ズーム製B6(マルチ・エフェクター)

初心者にオススメのエフェクターは?

最初に購入するなら効果がわかりやすく使用頻度の高いエフェクターがいいと思います。となると歪み系がオススメかな……とは思うのですが、どちらかというと歪み機能のあるプリアンプ系のほうが用途が広く、使い勝手もいいと思います。いずれにしてもどんな音色が出したいのか、音色のイメージを持つことが重要です。憧れのアーティストの音色など、参考になる音源などがあると目星がつけやすいでしょう。ベースの音色やエフェクターの扱いに慣れてきたらコンプレッサーに手を出してみましょう。エフェクターの奥深さを垣間見ることができるはずです。

特に明確な音色イメージはないけど、とりあえずエフェクターが欲しい、触ってみたい、という人にはマルチ・エフェクターがオススメです。実際に自分の楽器で使ってみると各エフェクターの音色効果もより理解できますし、実機のコンパクト・エフェクターをモデリングした音色も多いので、気に入った音色があればその実機を購入するという手もあります。

上級篇:スイッチャーとは?

複数のエフェクターを使用するようになると、同時にオンすることで単体機では得られない複雑な効果を得ることができるようになりますが、数珠つなぎするエフェクターが増えるほどバイパス音の劣化が増え、トラブルの確率も増えます。そんなときに便利なのが“スイッチャー(スイッチング・システム)”です。スイッチャーの機種にもよりますが複数のエフェクターによる音色変化を一括で管理でき、複雑なプログラミングも可能になります。スイッチャーを導入すると、エフェクター・ケースのなかには“エフェクト・システム”という名のブラックホールが広がりエフェクターの魅力に取り憑かれる(沼にハマる)ことでしょう(笑)。

筆者のエフェクト・ボード。右下に設置されているのがスイッチャーだ(One Control製Agamidae Tail Loop)。

上級篇:ラック型エフェクターとは?

19インチ幅の規格サイズで統一された“ラック型エフェクター”はかつて高性能なエフェクターの代名詞でもあり、プロ・ミュージシャン御用達の高級機材でした。現在はコンパクト・エフェクターでもラック型エフェクターに匹敵する性能を発揮する機種も多く、可搬性のデメリットもあってラック型エフェクターを愛用するプレイヤーは少数派となっています。とはいえ音質にこだわるレコーディング・スタジオにはいまだに多くのラック型エフェクター(おもにマイク・プリアンプやコンプレッサー)が鎮座しており、現役で稼働しています。

ラック型エフェクターの例。上からコルグ製DTR-1(チューナー)、スイッチ・システムを兼ねたDI、SONY製DPS-M7(モジュレーター)、SONY製DPS-R7(リヴァーブ)。

最後に

市販のエフェクターは、それ自体が音色個性を持っている機種と、原音を重視しつつ効果を発揮する機種に大別できます。前者はそれがないと得られない音色がある反面、それさえ持っていれば同じ音色になりがちで差別化が図れない可能性もあります。後者は効果が薄く感じるかもしれませんが音色の微調整には最適です。そういった音色キャラクターを使い分けつつ自分なりの音色を作れるのが、エフェクターの醍醐味です。

一方でカラフルでかわいらしいエフェクターや、カッコいいデザインのエフェクターも多いので、細かいことは気にせず、シンプルに気に入った機種集めて並べるだけでもそれなりに楽しめます(笑)。もちろんエフェクターなしでも充分にカッコいい音色を出せるベーシストもたくさんいますので、エフェクターを使わないという選択肢もアリですよ。

■連載一覧はこちらから。