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『クロノ・トリガー』リピート・セクションの工夫が楽曲を豊かにする【クリープハイプ長谷川カオナシのレトロゲーム喫音堂】– 第3回

  • バナードット絵:石田芙月(株式会社.AC)
  • 挿絵:長谷川カオナシ

2022年にメジャー・デビュー10周年を迎えたクリープハイプ。それを記念して始まった長谷川カオナシによる本連載コラムでは、多彩な趣味を持つ長谷川が特にハマっているという、“レトロゲームのベースの世界を案内します。

名曲が導く冒険の記憶

ここは……時の果てか……? 

いえ、レトロゲーム喫音堂です。まぁ時の最果てみたいなもんです。

どうも、長谷川カオナシです。

時の賢者カオシュ近影

『クロノ・トリガー』
(1995年/スクウェア)

第3回目の今回は『クロノ・トリガー』(1995/スクウェア)※1を喫音していこうと思います。

1990年代。スーパーファミコン全盛期。名作RPG群雄割拠の時代と言っても過言ではないでしょう。なかでもドラクエ・シリーズのエニックス社、FFシリーズのスクウェア社はブームの台風の目でした。

そんな2社から有名クリエイターらが集いチームを組んだ“ドリーム・プロジェクト”。制作されたこの『クロノ・トリガー』、音楽も名曲揃いです!

初めて中世に降り立ち「風の憧憬」が流れたときの衝撃。

青々と茂る草の香が画面の向こうから漂って来たようなあの感覚は、一生忘れられません。

ディストピア化した未来は音楽もマイナー・スケール ※2のナンバーが多く、殺伐としています。そこに登場する優しくて明るいロボ。彼のテーマ曲もそのキャラクター同様希望的な温かさで、疲弊しきったプレイヤーの心に沁み渡りました。

名曲の数々はビデオ・ゲームの思い出の域を超え、自身の冒険の記憶として刻み込まれたプレイヤーも多いのではないでしょうか。

でもクロノが無口なのってそういうことでしょう?

私事ですが、私も仕事でBGMを作ることがあります。※3

実はその際に『クロノ・トリガー』のBGMを参考にした“技”があります。

簡単に申し上げると2点。

1.メインとなるテーマをリピート(繰り返し)する。

その際、

2.ちょっとだけ雰囲気を変える。

解説の前に、『クロノ・トリガー』のBGMにおいてよく使われている楽曲構成を見てみましょう。

ここでもし“リピート”がなかったらどうなるか。

“テーマ”と“サブ・テーマ”が交互に目まぐるしく繰り返されるため、慌ただしい曲になってしまいます。

では“サブ・テーマ”がなかったらどうなるか。

同じメロディだけの繰り返しになり、平坦でおもしろみ味のない曲になってしまいます。

『クロノ・トリガー』で特筆したいのは“リピート”セクションの工夫。先述の2.ちょっとだけ雰囲気を変えるというやつです!

例えば「ガルディア王国千年祭」の“テーマ”は主旋律をアコーディオンが担当していますが、“リピート”ではピッコロが担当します。

「風の憧憬」の“テーマ”はヴァイオリンのピチカート主体のハズんだ音色ですが、“リピート”では同じヴァイオリンでもボウイング主体のなめらかな演奏になります。

同じメロディの繰り返しでも伴奏や構成楽器を変えるという工夫。これによって、リスナーにメイン・テーマを印象づけつつ、曲が間伸びするのを防いでいるのです!※4

さてベース・ラインの話です。

『クロノ・トリガー』でエレキ・ベースの目立つ楽曲といったらなんと言っても「戦い」ではないでしょうか?

RPGにおいて戦闘BGMというものは、プレイヤーが最も頻繁に耳にする楽曲でしょう。ですが「戦い」のベース・ラインは実にシンプル。

使う音は“レ” “ファ” “ソ” “ラ” “ド” “高いレ”の6音のみ。そして4小節という短いループ。

シンプルゆえに、ベーシストが少しこのフレーズを弾くだけで、“あっ、『クロノ・トリガー』の戦闘曲だ!”とすぐに認識できます。

一聴してすぐそれとわかるというのは、名ベース・ラインである何よりの証ではないでしょうか。※5

意外とキックの法則性が掴みづらいので、耳で追いかけすぎないほうがいいです。

ベースが“ファ”の音を弾くタイミングとスネアのタイミングは同じなので、“ファ”はスネアのつもりで弾きましょう。

最も細かいのがハイハットのフレーズで、ほぼずっと16分音符を刻んでいます。ベースも2小節に1度だけ16分音符が登場しますが、あくまで頭のなかでは8分音符を刻んでいたほうがいいです。

メロディであるキーボードは全音符の広いフレーズ、ドラムはハイハットを細かく刻むフレーズなので、その中立の位置をしっかり維持しましょう。

さて今回は3回目にして初めてRPGを取りあげてみました。心なしか熱くなりすぎたような気もしますね。私はエナ・ボックスで瞑想するとします。

それではまた来月までご機嫌よう。

(※1)
^サウンド・コンポーザーは光田康典先生。なんと『クロノ・トリガー』には当時20代前半の若さで参加されており、作曲家としてのデビュー作品でもあったというので驚きです。作曲活動はゲームに留まらず、アニメやTV番組や映画など幅広い分野でご活躍されています。2021年の東京オリンピック開会式の選手入場曲に『クロノ・トリガー』から「カエルのテーマ」と「ロボのテーマ」も使用されたことで話題になりました。

(※2)
^短調といって、悲しい雰囲気の音階のこと。

(※3)
^偉そうに“仕事で”とか言ったけど、クリープハイプの有料会員限定ラジオ・コンテンツ『太チャン!』用にBGMを書いており、そのことを言っています。“リピート”でオクターヴや調を変えたりして曲尺を稼ぎつつ間伸びを防ぎました。

(※4)
^ほかにも「みどりの思い出」「やすらぎの日々」「王国裁判」などでこの手法が見られます。「みどりの思い出」の“テーマ”は高音の木管楽器、“リピート”はストリングスがメロディを演奏します。「やすらぎの日々」も同様にメロディ楽器が推移しつつ、“リピート”では木管楽器が美しいオブリガートに回ります。「王国裁判」は同じく木管楽器のメロディが“リピート”でギター然とした弦楽器の音色に変わります。また「みどりの思い出」「やすらぎの日々」には“サブ・テーマ”がありませんが、それらはワンコーラスが長いのでこのようなシンプルな構成が適していたのかと思われます。

(※5)
^しかもメロディが登場するのは5小節目からで、それまではベースとドラムしかいません。メロディの主張という面ではかなりスロースタートな戦闘曲と言えます。『クロノ・トリガー』の戦闘画面は、ドラクエやFFと違い移動画面のまま切り替わりません。視覚的に大きく変化しないからこそ、こういったスロースタートなBGMが適していたし、その選択をした光田先生のセンスは偉大だと思います。実際、一部のダンジョンでは移動BGMのまま戦闘になることもあるし、そもそもこのゲームは戦闘終了時に何かSEを鳴らすでもありません。実にあっさりしています。移動と戦闘が聴覚的にも地続きであることは、かなり意識して制作されたのではないでしょうか。

◎Profile
はせがわ・かおなし●1987年9月23日生まれ。小学生でピアノとヴァイオリンを手にし、高校1年でベースを始める。クリープハイプは2001年に尾崎世界観(vo,g)を中心に結成。2009年に長谷川、小川幸慈(g)、小泉拓(d)を擁した現編成となる。2012年にメジャー・デビューし、2014年には日本武道館にてライヴを行なう。2021年11月に6thアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリースした。長谷川はティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズのグッズ収集家でもある。

◎Information
長谷川カオナシ
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