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追悼 – フランシス・“ロッコ”・プレスティア(タワー・オブ・パワー)
- Text:Daisuke Ito
- Interview:Kazuya Kitamura(Bass Magazine 1991 SEP), Fumi Koyasu(Bass Magazine 1997 NOV)
ここからは過去のベース・マガジンに掲載されたロッコのインタビュー記事を紹介しよう。まずは『ベース・マガジン 1991年9月号』から『モンスター・オン・ア・リーシュ』をリリースした際のインタビューの一部を抜粋してお届けする。タワー・オブ・パワーにおけるリズム・セクションの役割や、影響を受けたベーシストについて語っている。
まず俺たちが手をつけ始めるのは、リズム・セクションの方向性なんだ。
━━2年前に来日したときのあなたのインタビューによると、あなたは譜面も読めないし、フレーズもあなた自身、やりたいように弾いてるだけということでした。しかしどう聴いてもあなたのプレイは印象的だし、よく整理され計算されつくした結果出てきたものという感じがしてならないのです。あなたは一定の期間、なにか正式な音楽教育でも受けた経験があるのでしょうか?
いや、本当に俺は、教育らしきものを受けた経験がないんだ。俺にとってはタワー・オブ・パワーが一番最初のバンド経験で、14歳の頃からプレイしていた。その頃俺たちに音楽的アドバイスをしにきてくれるテリー・サンダースという男がいて、いろいろなサウンドにおけるポイントのようなものを知ったくらいだ。エミリオ(カスティーヨ/sax)がそれらをすべてマスターしてからは、テリーは俺たちに教えることはやめていた。それで俺たちはソウル・ミュージックを独自でプレイし始め、そのなかで音楽を学んでいった。俺たちの音楽を聴いて、フォームも作り上げていった。だから、基本的には自分自身で教育し、教育されたわけだな(笑)。
━━フィルインのタイミングやセンスなどはどのように考えていくのでしょう。コード・チャートを見て構成音を選んで、使えるスケールも意識するわけですか?
そういったことは誰も教えてくれないから、自分が感じるとおりに“これがいい”という風にしていくね。曲ができ上がったとき、まず俺たちが手をつけ始めるのは、リズム・セクションとしての方向性なんだ。そして、グレッグ(アダムス/trumpet)がテープをホーン・セクションに渡して、俺たちの構成したリズム・セクションをもとにホーンを構成していく。それにキーボードやギターが加えられ、タワー・オブ・パワーのサウンドができあがる。サウンドの方向性は、うーん……やっぱりグレッグだな。彼がこうしようと言って決めることが多いよ。でも、リハーサルを見ればわかってもらえるんだろうけど、みんなで音を出しながら“こうかな”とか“こっちかな”っていう風にやってるんだけどね。
━━あなたのフレージングは、単体で聴いても充分ヒップですが、特にホーン・セクションとの対比においてその真価を発揮することが多いような気がしています。あなたはどのような形でアレンジに関わっていくのですか?
さっきも言ったように、アレンジの順番はリズム・セクションが最初なんだ。そこへホーン・セクションが加わるわけなんだが、その両者のバランスを保つことが、俺たちのアレンジでもある。両者の力が均等になって初めてタワー・オブ・パワーのサウンドと言えるんだ。
━━あなたのプレイの特徴である細かい符割や複雑なシンコペーションは、あなたがタワー・オブ・パワーに加入する前から得意としていたスタイルなんですか?
すべてタワー・オブ・パワーのベーシストとして身につけたものだよ。だってそうだろう? 俺はタワー・オブ・パワー以外のバンドを経験していないんだから(笑)。
━━では、あなたの音楽的なバック・グラウンドを教えてもらえますか?
ガキの頃はほとんどロックンロールばっかり聴いてたな。ビートルズにアニマルズ……あとはやっぱりソウル・ミュージックだった。ソウルに夢中になりだしたのは1967年頃からだった。だからそれ以前はずっとロックンロールだね。だいたい俺たちがガキの頃は、ラジオからそんな音楽がいっぱい流れてて、いつもカッコいいなと思いながら聴いてたよ。でもヒップなR&Bやソウル……俺の場合はジェームス・ブラウンやアレサ・フランクリン、グラディス・ナイト&ヒップスなんかだったけど、彼らに魅せられてからはずっとそういった傾向のものばかり聴いている。ソウルは俺にとってほかの音楽とはまったく違っていて、本当に俺を気持ちよくさせるんだ。
━━あなたはドナルド・ダック・ダン、ジェームス・ジェマーソン、ラリー・グラハム、チャック・レイニー、ポール・ジャクソンといったベーシストたちから影響を受けたと以前話していましたが、それぞれどのような点で影響を受けたのでしょうか?
ジェーマソンとダック・ダンについては、その個性的なサウンドすべてだな。メンフィス・サウンドのダック・ダン、モータウン・サウンドのジェマーソン……、彼らのスタイルを俺自身の表現でとり入れられるよう、今でも学び続けているくらいだ。チャック・レイニーはソウルフルで偉大なベーシストだね。彼やラリー・グラハムは、前のふたりのようにひとつのカテゴリーに収まらないベーシストだけど、明らかに彼ら独自のスタイルを持っている。俺の“ストーン・ベース”のようにね。ポール・ジャクソンについては“ちきしょう、すげえな!”だ。彼はずっと古くからの俺の友達でもあってね。タワー・オブ・パワーの初期のアルバムでは、俺はずっとポールから借りたベースでプレイしていたんだ。
━━今あげた5人のベーシストたちのプレイは、あなた自身かなり真剣にコピーしたり研究したりしたのですか?
ラリー・グラハムをほんの少し。あとほとんどはダック・ダンとジェマーソンのものを研究したよ。初期の彼らのものをね。最初俺は、ダック・ダンのようなプレイをしていて、それからジェマーソンのようなプレイをとり入れるようになった。でもジェマーソンのプレイはとても複雑で、俺のはとてもシンプルだった。だから、俺のプレイのなかでは俺流に彼のプレイをとり入れ始めたんだ。ジェマーソンからの影響はとても大きいよ。
━━あなたのサウンドはアタックがハッキリしていてパンチがありながら、丸みを帯びた温かみのある、非常に独特なサウンドだと思います。その秘密がどこにあるのか、あなた自身に心あたりがあるなら教えてもらいたいのですが。
独特な音の秘密? 俺はあの音しか出せないんだよ。俺は常にパーカッシブにプレイするよう心がけてる。だからドラムのすぐそばでプレイしてるんだ。バンド全体の土台に俺たちはならなきゃいけないからね。これは俺にとっては最もわかりやすいやり方だ。とはいっても、それほど真剣に考えてプレイしてるわけでもないんだけどな。
━━トーンの決定に影響を及ぼすような肉体的な特徴……例えば指が長いとか、太くて硬いとか……そういったことを自覚したり指摘されたことはありますか?
俺の手は特別大きくも長くもないよ。ごく普通か、逆に人より小さいくらいだと自分では思ってるけど。みんなデカい手してやがるからな(笑)。
『ベース・マガジン 1991年9月号』