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2020年、Ibanezの進化 〜EHBシリーズの起こす革命〜
- Equipments Explanation:Gentaro Yamamoto
- Photo:Takashi Hoshino
TOTAL IMPRESSION
特集の最後に、今回試奏してくれた吉田一郎不可触世界に、EHBシリーズ全体に対してどのような印象を抱いたかを語ってもらった。
“スタンダードにするぞ”
という気概が表われている
私は中学生のときに初めてエレクトリック・ベースを買ってもらったんですが、そのときは、アイバニーズの、まるでプリンスの衣装のような紫色の、おそらくSRと、ほかのメーカーのベースで最後まで悩んだんですよ。結局は違うメーカーのベースを買って、それからアイバニーズのベースとはご縁がなかったんですが、今回のEHBシリーズで印象が非常に変わりました。
EHBシリーズは発表になったときから気になっていたベースなので、今回の試奏取材のお話をいただいたときも、“おっ!来たか!”と思ったんですけど、正直キワモノの印象もあって、実際に手に取るまでは不安でしたね(笑)。それが、実際に弾いた今となっては、非常にスタンダードなエレクトリック・ベースという印象が強いです。ヘッドレス・ベースというとカーボン製やグラファイト製の、硬質でシンセ・ベースのような輪郭の強い楽器という印象もあると思うんですけど、ここまでウッディな、木の音だなと思ったベースは初めてでした。
マルチ・スケールは、初めての人は戸惑うかもしれないですけど、ネックも薄くて、とにかく弾きやすさを考えて作られたベースなので、どなたでも、それこそこれが初めてのベースだという人がいても不思議じゃないくらい、スタンダードなベースだという印象を受けます。見た目のキワモノ、前衛的という先入観は、実際に弾けばまったくなくなると思いますね。
個人的な感想も含めて加えるならば、家だとか狭い場所だとかで演奏しなくてはいけない社会情勢のなかでは、このアタマがない形状というのは、私自身リアルタイムで非常に助かっています。私の自宅スタジオは幅が狭いので、所有しているベースはみなヘッドをぶつけてボコボコになってしまうんですよね(笑)。その点このEHBシリーズはすごく活躍してくれる。アイバニーズさん、どうかどうか1本ください(笑)。
ヘッドレス・ベースはこれまでにもかなり触っているんですが、EHBシリーズはそのなかでも随一に弦が替えやすいと思います。ヘッド部は弦を挟み込んで付属の六角レンチで締めるだけですし、ブリッジ部はボールエンドをはめ込むだけ。それを、ブリッジ部のトルク・ネジで締めてチューニングしていくわけです。特殊弦などは必要なく、普通のエレキ・ベース弦を張れる。慣れれば普通のベースより速く簡単に弦交換ができると思います。それと、独自のモノレール・ブリッジも、サドルを左右に1.5mm幅まで動かすことができるので、好みの弦間調整なども簡単です。
オススメのポイントとしては、まずこのサイズと軽量さ。ソフト・ケースで担いでもリュックサックぐらいの感覚で、軽くて短い。女子中高生や、ベースを始めてみたいと思っている大人の女性などにも、自信を持ってオススメしたいです。初めてがこんな変わったベースで……と思われるかもしれませんが、非常に優れたスタンダードな楽器ですよ。それと、値段。なんでこんな価格設定なのか理解できない。これを実現するまでには、ものすごい血と汗と涙があるんでしょうけど、これをスタンダードにするぞという、アイバニーズの気概が表われていると思います。
【Profile】
よしだいちろうふかしょくせかい
●1982年12月14日生まれ、長野県出身。中学生でベースを手にし、ソウル/ファンクに傾倒したのちにプログレにも大きな影響を受ける。自身がベース・ヴォーカルを務める3ピース・バンド12939dbを経て、2007年にZAZEN BOYSに加入(2017年12月に脱退)。TK from 凜として時雨、Aimer、坂本真綾など多数のアーティストのサポートも手がけている。2015年2月より“吉田一郎不可触世界”名義でソロ活動を開始し、2015年に『あぱんだ』、2020年5月に『えぴせし』という2枚のアルバムをリリースしている。
◎http://yoshidaichiro.com/